この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

継続的給付目的双務契約の給付受領者について破産手続が開始され、破産管財人が履行請求を選択した場合、破産法55条1項および2項が適用されます。ただし、労働契約は継続的給付目的双務契約の一種ですが、破産法55条1項・2項は適用されません(破産法55条3項)。
また、賃貸人破産の場合の賃貸借契約やレッサー(リース業者)破産の場合のファイナンスリース契約など、ある期の対価の支払いがないことを理由として、次の期以降の給付を拒絶できることを想定していない契約についても、破産法55条1項・2項は適用されないと解されています。
破産法55条1項・2項の規律
破産法 第55条
- 第1項 破産者に対して継続的給付の義務を負う双務契約の相手方は、破産手続開始の申立て前の給付に係る破産債権について弁済がないことを理由としては、破産手続開始後は、その義務の履行を拒むことができない。
- 第2項 前項の双務契約の相手方が破産手続開始の申立て後破産手続開始前にした給付に係る請求権(一定期間ごとに債権額を算定すべき継続的給付については、申立ての日の属する期間内の給付に係る請求権を含む。)は、財団債権とする。
- 第3項 前二項の規定は、労働契約には、適用しない。
継続的給付目的双務契約とは、給付を提供する側(給付義務者)が継続的なサービスなどを提供し、給付を受ける側(給付受領者)が対価を支払う双務契約です。例えば、電気・ガス・水道などの契約があります。
給付受領者について破産手続が開始された場合、継続的給付目的契約は、双方未履行双務契約として処理されます。
具体的に言うと、破産管財人が、その継続的給付目的双務契約を解除するか、または、破産者の債務を履行して、相手方に対して履行請求するかのどちらにするのかを選択できます(破産法53条1項)。
破産管財人が履行請求を選択した場合、破産手続開始前の原因に基づく継続的給付目的双務契約の給付義務者が有する債権は破産債権となり、相手方は、破産手続開始前の給付について対価の支払いがない場合に破産手続開始後の給付を拒絶できるのが原則です。
もっとも、破産法55条は、継続的給付目的双務契約の特殊性に鑑みて、通常の場合とは異なる取扱いを定めています。
すなわち、継続的給付目的双務契約の相手方は、破産手続開始の申立て前の給付に係る破産債権について弁済がないことを理由として、破産手続開始後に継続的給付の義務の履行を拒むことができないとされています(破産法55条1項)。
また、破産手続開始の申立て後における給付に係る対価支払請求権については、破産手続開始前の給付に係るものであるにもかかわらず、財団債権になるとされています(破産法55条2項)。
ただし、継続的給付目的双務契約であっても、これら破産法55条1項および2項が適用されない契約が存在します。
労働契約に対する不適用
前記のとおり、継続的給付目的双務契約には破産法55条1項・2項の規定が適用されます。
もっとも、労働契約は、継続的給付目的双務契約の一種ですが、破産法55条1項・2項は適用されないとされています(破産法55条3項)。
労働契約に破産法55条1項・2項が適用されるとすると、使用者が破産した場合、労働者は、破産手続開始前の労務提供について賃金未払いがあっても、破産管財人が履行請求を選択すると、破産手続開始後に労務提供をせざる得なくなります。
しかし、これは、労働者保護を図ろうとする労働契約の本質に反します。
また、破産法55条2項の規定にかかわらず、破産法は、破産手続開始前の賃金請求権であっても、その一部を財団債権としています(破産法149条)。
そこで、労働者保護のため、労働契約については、破産法55条1項・2項の規定は適用されないものとされているのです。
労働契約以外の契約に対する不適用
前記のとおり、労働契約に破産法55条1項・2項の規定は適用されないことは、破産法上明示されています(破産法55条3項)。
もっとも、労働契約以外の一切の継続的給付目的双務契約に破産法55条1項・2項が適用されるというわけではありません。解釈上、破産法55条1項・2項が適用されない契約もあります。
破産法55条の趣旨は、給付義務者が、破産手続開始申立て前における給付の対価支払いがないことを理由として破産手続開始後に給付の履行を拒絶することを制限することにより、破産管財業務遂行のために継続的給付目的双務契約を存続させるところにあります。
実際、電気・水道・警備契約などを存続させておかなければ、破産管財業務を円滑に進められないことがあります。破産法55条によってこれらの契約が存続されることにより、破産管財業務が円滑に進められるのです。
そうすると、ある期の対価の支払いがないことを理由として、次の期以降の給付を拒絶できることを想定していない契約については、破産法55条1項・2項を適用する必要はないということになります。
具体的に言うと、賃貸人が破産した場合の賃貸借契約やレッサー(リース業者)が破産した場合のファイナンス・リース契約などです。
これらの契約についても、明文はありませんが、労働契約と同様、破産法55条1項・2項の適用はないと解されています。
参考書籍
破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、破産法の参考書籍を紹介します。
破産法・民事再生法(第5版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。
条解破産法(第3版)
著者:伊藤眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。
破産実務Q&A220問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
破産実務を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、破産実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
倒産処理法入門(第6版)
著者:山本和彦 出版:有斐閣
倒産法の入門書。「入門」ではありますが、ボリュームはそれなりにあります。倒産法全体を把握するために利用する本です。
倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。
倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。