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破産手続が開始すると継続的給付目的双務契約はどのように処理されるのか?

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

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継続的給付を目的とする双務契約は、双方未履行双務契約として、破産法53条1項に基づき処理されます。ただし、破産管財人が継続的給付目的双務契約の履行請求を選択した場合には、破産法55条により特別な取扱いがなされることがあります。

具体的には、破産者の相手方(継続的給付義務者)は、破産手続開始の申立て前の給付に係る破産債権について弁済がないことを理由として破産手続開始後の義務の履行を拒絶できないとされています(破産法55条1項)。

また、相手方の対価支払請求権は、破産手続開始決定前の給付に関するものであっても、破産手続開始の申立て後の給付に関するものであれば、財団債権として扱われます(破産法55条2項)。

ただし、労働契約には、破産法55条1項・2項の適用はありません(破産法55条3項)。

継続的給付を目的とする双務契約の処理

破産法 第53条

  • 第1項 双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、破産管財人は、契約の解除をし、又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。
  • 第2項 前項の場合には、相手方は、破産管財人に対し、相当の期間を定め、その期間内に契約の解除をするか、又は債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告することができる。この場合において、破産管財人がその期間内に確答をしないときは、契約の解除をしたものとみなす。
  • 第3項 前項の規定は、相手方又は破産管財人が民法第631条前段の規定により解約の申入れをすることができる場合又は同法第642条第1項前段の規定により契約の解除をすることができる場合について準用する。

双務契約とは、契約当事者の双方が、互いに対価的関係にある債務を負っている契約のことをいいます。

この双務契約について、破産者およびその相手方の双方が、破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していない場合(双方未履行双務契約)、破産管財人は、契約の解除をし、または破産者の債務を履行して相手方に債務の履行を請求することができます(破産法53条1項)。

この双務契約のなかには、売買契約のように一回的な取引で終了するものだけでなく、継続的な給付を目的とする双務契約もあります。「継続的給付目的双務契約」または「継続的給付供給双務契約」と呼ばれています。

例えば、電気・ガス・水道等の契約です。これらは、電力会社などが電気などを継続的に供給する代わりに、利用者はこれに対して利用料金を支払っていくことになります。

また、電話やインターネット回線等の通信役務提供契約や、警備会社による警備契約なども継続的な給付を目的とする双務契約に当たります。

継続的給付を目的とする双務契約も、双務契約であることに違いはありません。

ただし、継続的給付を目的とする双務契約の場合、破産手続開始時において将来の債務はともに未履行であるので、双方未履行双務契約として処理されることになります。

つまり、継続的給付を目的とする双務契約については、破産管財人が、契約解除か履行請求をして契約を維持するかを選択することになります。

もっとも、破産管財人による管財業務の遂行のために、破産手続中も継続的給付を目的とする契約を維持しておくべき必要性が生じることは少なくありません。

例えば、賃借している事業所の明渡しの準備や破産者の仕掛中業務を完了させるために、事業所の電気や通信機器が使えないと困る場合や、倉庫に保管している在庫品などの管理のために警備契約を維持しておきたいというような場合です。

そこで、継続的給付を目的とする双務契約の場合には、通常の双務契約とは異なる配慮に基づく制度が設けられています。

破産管財人が契約の解除を選択した場合

破産法 第54条

  • 第1項 前条第1項又は第2項の規定により契約の解除があった場合には、相手方は、損害の賠償について破産債権者としてその権利を行使することができる。
  • 第2項 前項に規定する場合において、相手方は、破産者の受けた反対給付が破産財団中に現存するときは、その返還を請求することができ、現存しないときは、その価額について財団債権者としてその権利を行使することができる。

前記のとおり、破産手続開始時において、双方未履行の継続的給付目的双務契約が存続していた場合、破産管財人は、その契約を解除できます。

破産管財人が継続的給付目的双務契約を解除すると、その契約は遡及的に消滅し、原状に回復することになります。

破産者が契約上の義務の一部をすでに履行していた場合、破産管財人は、相手方に対して、その履行されたものの返還を求め、返還を受けた金銭や物などを破産財団に組み入れます。

他方、相手方が契約上の義務の一部をすでに履行していた場合は、相手方は、履行した反対給付の返還を求める請求権を有することになります。

破産者の受けた反対給付が破産財団に現存している場合には、相手方は、その給付の返還を求めることができ、現存していない場合でも、その価額を財団債権として請求することができるとされています(破産法54条2項)。

また、破産管財人が契約を解除したことにより相手方に損害が生じた場合、相手方は損害賠償請求権を取得します。その損害賠償請求権は破産債権となります(破産法54条1項)。

破産管財人が履行の請求を選択した場合

破産法 第55条

  • 第1項 破産者に対して継続的給付の義務を負う双務契約の相手方は、破産手続開始の申立て前の給付に係る破産債権について弁済がないことを理由としては、破産手続開始後は、その義務の履行を拒むことができない。
  • 第2項 前項の双務契約の相手方が破産手続開始の申立て後破産手続開始前にした給付に係る請求権(一定期間ごとに債権額を算定すべき継続的給付については、申立ての日の属する期間内の給付に係る請求権を含む。)は、財団債権とする。
  • 第3項 前二項の規定は、労働契約には、適用しない。

破産手続開始時において、双方未履行の継続的給付目的双務契約が存続していた場合、破産管財人は、契約を解除せずに、破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することもできます。

前記のとおり、管財業務遂行のために継続的給付目的双務契約を維持しておかなければならない場合があります。その場合、破産管財人は、履行を請求することになります。

破産管財人が履行請求を選択した場合、破産管財人は、破産者側の債務を履行しつつ、相手方に対して債務の履行を請求します。

例えば、電気供給契約であれば、破産管財人が電力会社に対して電気料金を支払って、電力会社から電気を供給してもらうということです。

ただし、継続的給付目的双務契約の場合には、他の双方未履行双務契約とは異なる取扱いがなされる部分があります。

継続的給付義務の履行拒絶の制限

給付を受ける側の当事者が対価の支払いをしなかった場合、給付する側の当事者は供給義務の履行を拒絶できるはずです。

しかし、対価の支払いがないことを理由に、供給側がすべての義務の履行を拒めるとすると、破産管財業務に支障をきたす可能性があります。

そこで、破産管財人が履行請求を選択した場合、継続的給付の供給義務者は、破産手続開始の申立て前の給付に係る破産債権について弁済がないことを理由として、破産手続開始後に継続的給付の義務の履行を拒むことができないとされています(破産法55条1項)。

例えば、電気を利用するため、電力会社との電力供給契約を維持するつもりである場合に、電力会社側は「破産手続開始の申立て前の分の電気料金を支払ってもらっていないので、破産手続が開始した後に電気を供給しない」とは言えないということです。

相手方の対価支払請求権の取扱い

破産管財人が継続的給付目的双務契約の履行請求を選択した場合、破産管財人は、相手方に対して破産手続開始後の継続的給付に対する対価を支払うことになります。

この相手方による破産手続開始後の給付についての対価支払請求権は、財団債権となります(破産法148条1項7号)。

これに対し、破産手続開始前の給付についての対価支払請求権は、通常の双方未履行双務契約であれば、破産債権となるのが原則です。

しかし、継続的給付目的双務契約の場合には、破産手続開始前の給付についての対価であっても、破産手続開始の申立て後の給付についての対価であれば、その対価支払請求権については、財団債権となるとされています(破産法55条1項)。

なお、破産手続開始申立て前の給付についての対価支払請求権は、原則どおり破産債権です(内容によっては財団債権となるものもあります。)。

破産法55条1項・2項が適用されない継続的給付目的双務契約

上記のとおり、継続的給付を目的とする双務契約について履行請求が選択された場合は、破産法55条1項および2項により、特別な取り扱いがなされることがあります。

もっとも、継続的給付目的双務契約ではあるものの、労働契約には、破産法55条1項・2項の適用はありません(破産法55条3項)。そもそも、破産法53条1項の適用もないと解されています。

また、同様に、賃貸人が破産した場合の賃貸借契約についても、破産法55条1項・2項の適用はないと解されています。

個人(自然人)の破産の場合

個人(自然人)破産の場合も、継続的給付目的双務契約は、破産法53条や55条に基づいて清算処理されるのが原則です。

ただし、個人破産の場合は、継続的給付目的双務契約であっても、住居の賃貸借契約、住居の水道光熱費・通信費の契約が解約されることはないのが通常です。これらが解約されると、破産者が生活できなくなってしまうからです(住居以外の契約は解約されることがあります。)。

なお、この場合の電気料金など対価は、破産管財人ではなく、基本的に破産者自身が支払うことになります。

参考書籍

破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、破産法の参考書籍を紹介します。

破産法・民事再生法(第5版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。

条解破産法(第3版)
著者:伊藤 眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。

破産実務Q&A220問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
破産実務を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、破産実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。

司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。

倒産処理法入門(第6版)
著者:山本和彦  出版:有斐閣
倒産法の入門書。「入門」ではありますが、ボリュームはそれなりにあります。倒産法全体を把握するために利用する本です。 

倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。

倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。

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