この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

継続的給付目的双務契約の給付受領者について破産手続が開始され、その破産管財人が、継続的給付目的双務契約について破産法53条1項に基づく履行請求を選択した場合、相手方(継続的給付義務者)が有する破産手続開始申立て前の給付に係る対価支払請求権は、破産債権となります(破産法2条5項)。
他方、破産手続開始の申立て後破産手続開始までの間の給付に係る対価支払請求権は財団債権となります(破産法55条2項)。また、破産手続開始後の給付に係る対価支払請求権も財団債権です(破産法148条1項7号)。
なお、破産管財人が契約解除を選択した場合も、破産手続開始申立て前の給付に係る対価支払請求権は破産債権となり、破産手続開始申立て後・破産手続開始までの間の給付に係る対価支払請求権は財団債権となり、破産手続開始後・契約解除までの給付に係る対価支払請求権も財団債権となります(破産法148条1項8号)。
継続的給付目的双務契約の相手方の対価支払請求権
継続的給付目的双務契約とは、給付を提供する側(給付義務者)が継続的なサービスなどを提供し、給付を受ける側(給付受領者)が対価を支払う双務契約です。例えば、電気・ガス・水道などの契約があります。
給付受領者について破産手続が開始された場合、電気・ガス・通信などの継続的給付目的双務契約は、双方未履行双務契約として処理されます。
具体的に言うと、破産管財人が、その継続的給付目的双務契約を解除するか、または、破産者である法人・会社側の債務を履行して、相手方に対して履行請求するかのどちらにするのかを選択するということです(破産法53条1項)。
ここで問題となるのは、継続的給付目的双務契約の相手方(継続的給付義務者)である電力会社やガス会社などが、破産者に対して有する対価の支払請求権をどのように扱うべきかという点です。
継続的給付目的双務契約においても、給付の対価は生じます。例えば、電力供給契約であれば電気代・電気料金、ガス供給契約であればガス代・ガス料金などです。
一般的な債権であれば、破産手続開始前の原因に基づく債権は、破産債権として扱われることになります(破産法2条5項)。
もっとも、継続的給付目的双務契約の相手方の対価支払請求権の場合には、給付を継続している相手方の利益も考慮して、一般的な債権とは異なる扱いがされています。
破産手続開始申立て前の給付に係る対価支払請求権
破産法 第2条
- 第5項 この法律において「破産債権」とは、破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(第97条各号に掲げる債権を含む。)であって、財団債権に該当しないものをいう。
前記のとおり、破産手続開始前の原因に基づく債権については、破産債権として扱われるのが原則です(破産法2条5項)。
したがって、破産手続開始よりもさらに前、「破産手続開始の申立て前」にされた継続的給付についての対価支払請求権は、破産債権として扱われることになります。
破産手続開始申立て後・破産手続開始前の給付に係る対価支払請求権
破産法 第55条
- 第1項 破産者に対して継続的給付の義務を負う双務契約の相手方は、破産手続開始の申立て前の給付に係る破産債権について弁済がないことを理由としては、破産手続開始後は、その義務の履行を拒むことができない。
- 第2項 前項の双務契約の相手方が破産手続開始の申立て後破産手続開始前にした給付に係る請求権(一定期間ごとに債権額を算定すべき継続的給付については、申立ての日の属する期間内の給付に係る請求権を含む。)は、財団債権とする。
- 第3項 前二項の規定は、労働契約には、適用しない。
前記のとおり、破産手続開始前の原因に基づく債権については、破産債権として扱われるのが原則です(破産法2条5項)。
そうすると、破産手続開始の申立後・破産手続開始前における継続的給付についての対価支払請求権も破産債権となるはずです。
しかし、破産手続開始の申立て前の給付に係る対価が支払われていない場合でも、破産手続開始後における継続的給付の履行を拒むことができないとされていますから(破産法55条1項)、ある程度、相手方の利益も考慮する必要があります。
また、破産手続開始の申立てから破産手続開始までは、それほど期間が開くわけではなく、破産手続開始の申立てと破産手続の開始を同視したとしても、著しく不合理な結果が生じるわけではありません。
そこで、破産手続開始の申立後・破産手続開始前における継続的給付についての対価支払請求権は、財団債権となるとされています(破産法55条2項)。
破産手続開始後の給付に係る対価支払請求権
破産法 第148条
- 第1項 次に掲げる請求権は、財団債権とする。
- 第7号 第53条第1項の規定により破産管財人が債務の履行をする場合において相手方が有する請求権
破産管財人が継続的給付目的双務契約について履行請求を選択した場合、相手方は、破産管財人に対して対価の支払いを請求できます。
この場合の対価支払請求権は、財団債権となります(破産法148条1項7号)。
破産管財人が継続的給付目的双務契約の解除を選択した場合
破産法55条2項や破産法148条1項7号の規定は、破産管財人が継続的給付目的双務契約について履行請求を選択した場合を前提としている規定です。
もっとも、破産管財人が継続的給付目的双務契約について契約解除を選択した場合でも、破産法55条2項が適用されると解されています。
したがって、破産管財人が継続的給付目的双務契約について契約解除を選択した場合における破産手続開始の申立後・破産手続開始前の継続的給付についての対価支払請求権も財団債権となります。
また、破産管財人が継続的給付目的双務契約について契約解除を選択した場合でも、破産手続開始後・実際に契約が解除されるまでの間における給付の対価支払請求権は、破産法148条1項7号ではなく、同項8号が適用されます。
したがって、破産管財人が継続的給付目的双務契約について契約解除を選択した場合における破産手続開始後・契約解除までの間の給付についての対価支払請求権も財団債権となります。
参考書籍
破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、破産法の参考書籍を紹介します。
破産法・民事再生法(第5版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。
条解破産法(第3版)
著者:伊藤眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。
破産実務Q&A220問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
破産実務を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、破産実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
倒産処理法入門(第6版)
著者:山本和彦 出版:有斐閣
倒産法の入門書。「入門」ではありますが、ボリュームはそれなりにあります。倒産法全体を把握するために利用する本です。
倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。
倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。