この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

譲渡担保権は、所有権移転の形式をとりますが、担保権であると解されています。そのため、破産手続においても、譲渡担保権者が行使し得る権利は、取戻権ではなく、別除権であると解されています。
譲渡担保権とは
譲渡担保とは、債権担保のために、債務者または第三者が所有する財産の所有権または債権などを設定者から譲渡担保権者に移転させ、被担保債権が弁済された場合にはその財産の所有権などを設定者に復帰させ、債務不履行があった場合には、その財産の所有権などを譲渡担保権者に帰属させ、その価額と債務残高の清算を行うか、または、譲渡担保権者がその財産などを処分して清算を行うという形式の担保形態のことをいいます。
譲渡担保については、取引実務上、頻繁に利用されており、法律の解釈上も有効な担保形態として認められていたものの、民法などに明文規定がありませんでした。しかし、譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律(以下「譲渡担保契約等法」といいます。)において明文化されました。
譲渡担保の清算方法
譲渡担保の清算方法には、処分清算方式と帰属清算方式があります。
処分清算型の譲渡担保とは、債務不履行があった場合に、譲渡担保権者が譲渡担保目的物を処分して、その処分代金を債務に充当し、余剰を譲渡担保設定者に返還して清算するという方式の譲渡担保です(譲渡担保契約等法60条、93条、96条)。
他方、帰属清算型とは、債務不履行があった場合に、譲渡担保目的物の所有権を譲渡担保権者に帰属させ、譲渡担保権者がその目的物の価額と被担保債権額を清算して、差額があれば譲渡担保設定者に返還するという方式の譲渡担保です(譲渡担保契約等法61条、93条、96条)。
また、動産譲渡担保の場合、譲渡担保権者は、競売を申し立て、その代金から弁済を受けることもできます(譲渡担保契約等法72条2項)。
債権の譲渡担保の場合、債務不履行があったときは、譲渡担保権者は自ら取立てをして、取り立てた金銭を自己の債権に充当し、余剰を譲渡担保設定者に返還します(譲渡担保契約等法92条)。
譲渡担保の法的性格
譲渡担保は、形式上、譲渡担保設定者の所有する動産または債権などが、譲渡担保設定者から譲渡担保権者に移転されます。
そこで、譲渡担保によって完全に所有権などが移転するのか、それとも担保権にすぎないのかということが問題となります。
この点については、譲渡担保は、所有権移転の形式をとるものの、あくまで、債務不履行があった場合に、担保権者が目的物の所有権を取得または処分できるという担保権であると解するのが支配的な見解です。
最高裁判例でも、譲渡担保権者が有する権利は、所有権者の取戻権ではなく、担保権者の別除権であると解されています(会社更生手続における譲渡担保権につき、最一小判昭和41年4月28日・民集20巻4号900頁)。破産手続においても、同様に解することができるでしょう。
これら学説や最高裁判例を受けて、譲渡担保契約等法でも、譲渡担保権を担保権の一種(質権に準じるもの)として扱っています。
破産手続における譲渡担保権の取扱い
前記のとおり、譲渡担保権は、所有権移転または債権譲渡の形をとるものの、その実質は担保権です。そのため、破産手続においては取戻権ではなく、別除権として扱われます。
具体的に言うと、譲渡担保権は、破産手続において質権の規定が適用または準用されます(譲渡担保契約等法97条など)。
この質権は、破産手続において別除権として扱われる担保権ですから(破産法2条9項)、質権の規定が適用または準用されるということは、譲渡担保権も別除権として扱われるということです。
したがって、譲渡担保権者は、破産手続において、別除権を実行して、破産手続によらずに優先的な弁済を受けることができます。
破産手続における処分清算型の譲渡担保の実行
処分清算型の譲渡担保権の場合、譲渡担保権者は、その譲渡担保の目的物を自ら換価処分または債権を回収して被担保債権に充当できます。そして、余剰があれば、その余剰分を譲渡担保設定者に支払うことになります。
破産手続においても、譲渡担保権者は、破産手続によらずに自ら目的物を処分または債権を回収して清算し、被担保債権に充当した後、その余剰分を破産財団に支払うことになります。
破産管財人が目的物を管理している場合、譲渡担保権者は破産管財人から目的物の引渡しを受けて換価処分し、清算した金額を破産財団に支払います。
ただし、集合動産譲渡担保や集合債権譲渡担保の場合、破産手続開始後の新規加入動産や債権には担保の効力は及ばず、自ら処分することができなくなります(譲渡担保契約等法106条、107条、66条)。
他方、破産管財人は、譲渡担保権者に対して清算金の支払いを求めることができます。
また、換価処分前であれば、被担保債権を弁済することによって、目的物を受け戻すこともできると解されています(最二小判昭和57年1月22日、最一小判昭和62年2月12日など)。
なお、目的物の処分価額が被担保債権に満たない場合、譲渡担保権者は、その不足額について破産債権者として破産手続および配当に参加することができます。
ただし、破産債権者として配当を受けるためには、最後配当の除斥期間内に譲渡担保権を実行して不足額を証明するか、または、破産管財人との間で被担保債権を減縮する合意をしておかなければなりません(破産法198条3項)。
破産手続における帰属清算型の譲渡担保の実行
帰属清算型の譲渡担保の場合、譲渡担保権者は、譲渡担保目的物を自ら取得することができます。
破産手続においても、譲渡担保権者は別除権を行使して、その目的物を取得することができ、目的物の価額と被担保債権の差額を清算して、その差額を破産管財人に支払うことになります。
譲渡担保目的物を破産管財人が管理している場合、破産管財人による目的物の担保権者への引渡しと清算金の支払いは同時履行の関係にあり(最一小判昭和46年3月25日等)、破産管財人は、清算金の支払いがなされるまでその目的物の留置権を主張できると解されています(最二小判平成9年4月11日、最二小判平成11年2月26日)。
また、破産管財人は、前記処分清算型の場合と同様、清算金の支払いを受けるまでは、被担保債権を弁済して目的物を受け戻すことができます。
なお、帰属清算型の場合も、目的物の処分価額が被担保債権に満たない場合、譲渡担保権者は、その不足額について破産債権者として参加することができます。
ただし、処分清算型の場合と同様、破産債権者として配当を受けるためには、最後配当の除斥期間内に譲渡担保権を実行して不足額を証明するか、または、破産管財人との間で被担保債権厳粛合意をしておかなければなりません(破産法198条3項)。
譲渡担保権者が破産した場合
前記までの説明は、譲渡担保設定者である債務者が破産した場合の取扱いです。
譲渡担保権者が破産者である場合は、設定者は被担保債権を弁済して目的物を破産財団から取り戻すことができます。
譲渡担保設定者が被担保債権を弁済しない場合には、破産管財人が譲渡担保権を実行して清算をすることになります。この設定者の清算金請求権は、財団債権となります(破産法148条1項4号・5号)。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
破産法と資格試験
倒産法は、司法試験(本試験)や司法試験予備試験の選択科目とされています。この倒産法の基本となる法律が、破産法です。
民事再生法など他の倒産法は破産法をもとにした法律した法律ですので、破産法を理解していることが前提となってきます。そのため、学習する順番としては、まずは破産法からでしょう。
もっとも、出題範囲が限られているとはいえ、破産法もかなりのボリュームです。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。
参考書籍
破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、破産法の参考書籍を紹介します。
破産法・民事再生法(第5版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。
条解破産法(第3版)
著者:伊藤眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。
破産実務Q&A220問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
破産実務を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、破産実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
倒産処理法入門(第6版)
著者:山本和彦 出版:有斐閣
倒産法の入門書。「入門」ではありますが、ボリュームはそれなりにあります。倒産法全体を把握するために利用する本です。
倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。
倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。