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破産手続において所有権留保はどのように扱われるか?

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

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所有権留保は、売主が所有権を留保して目的物の引渡しのみ行うという形式をとりますが、留保所有権者が有する権利は担保権であると解されています。そのため、破産手続においても、留保所有権者が行使し得る権利は、取戻権ではなく、別除権であると解されています

所有権留保とは

譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律 第2条

  • 第16項 所有権留保契約 次に掲げる契約をいう。
     動産(抵当権の目的とすることができるもの(第一号イ(1)及び(2)に掲げるものを除く。)を除く。以下同じ。)の所有権を移転することを内容とする売買その他の契約(ロにおいて「売買契約等」という。)であって、当該動産の代金の支払債務その他の金銭債務を担保するため、その金銭債務の全部の履行がされるまでの間は、当該動産の所有権を当該動産の所有権を移転すべき者に留保する旨の定めのあるもの
     売買契約等の当事者のうち当該売買契約等の目的である動産の所有権の移転を受けるべき者が、第三者に対し、当該動産の所有権を移転すべき者に対する当該動産の代金その他の金銭の支払を委託し、当該者が、その支払を受けたときに、当該金銭の償還債務その他の金銭債務の担保として、当該第三者に当該動産の所有権を取得させることを約する契約であって、その金銭債務の全部の履行がされるまでの間は、当該動産の所有権を当該第三者に留保する旨の定めのあるもの
  • 第17項 所有権留保動産 所有権留保契約の目的である動産をいう。
  • 第18項 留保所有権 所有権留保動産の所有権を留保する者が所有権留保契約に基づいて所有権留保動産について有する権利をいう。
  • 第19項 留保売主等 留保所有権を有する者をいう。
  • 第20項 留保買主等 所有権留保契約の当事者のうち、被担保債権に係る債務の全部の履行がされた場合に所有権留保動産の所有権の移転を受ける者(その者が所有権留保動産について有する権利を他の者に譲渡した場合にあっては、その権利を現に有する者)をいう。

所有権留保とは、売買契約など動産の所有権移転を内容とする契約において、動産の売買代金などの債務を担保するため、売主が買主に目的物を引き渡しつつも、その所有権は売買代金完済まで売主に留保し、この留保所有権をもって、売買代金の担保とするという担保形態のことです(譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律2条16項イ。以下「譲渡担保契約等法」と言います。)。

また、売買契約の買主などが、第三者に対して売主などへの売買代金などの債務支払いを委託し、その売主が支払いを受けたときに、金銭償還債務などの担保のため、売主が買主に目的物を引き渡しつつも、所有権は委託を受けた第三者に留保し、この留保所有権をもって、金銭償還債務の担保とする形態(三者間所有権留保)もあります(譲渡担保契約等法2条16項ロ)。

この所有権留保については、取引実務上、頻繁に利用されており、法律の解釈上も有効な担保形態として認められていたものの、民法などに明文規定がありませんでした。

しかし、譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律(以下「譲渡担保契約等法」といいます。)において明文化されました。

譲渡担保の法的性質

例えば、自動車などの動産を分割払いで購入する場合、その購入した自動車などに所有権留保が設定されることがあります。

この所有権留保は、形式上、売買目的物の所有権が売主に留保され、買主に対する目的物の引渡しのみが行われるという形になっています。

そのため、この所有権留保の場合、目的物の所有権は売主に留保されて買主には移転していないのか、それとも、買主に所有権が移転していると考えるべきなのかが問題となります。

この点については、所有権留保は、売主に目的物の所有権が留保されているという形式をとるものの、それはあくまで債務不履行があった場合に目的物を取り戻すことができるという担保権にすぎず、目的物の所有権は売買契約によって買主に移転していると考えられています。

これら学説や後述の最高裁判例を受けて、譲渡担保契約等法でも、所有権留保を担保権の一種(質権に準じるもの)として扱っています。

破産手続における所有権留保の取扱い

前記のとおり、所有権留保は、所有権を留保する形をとるものの、その実質は担保権です。そのため、破産手続においては取戻権ではなく、別除権として扱われます。

最高裁判例でも、民事再生手続において売主(留保所有権者)が有する権利は、所有権者としての取戻権ではなく、担保権者としての別除権であると解されています(最二小判平成22年6月4日)。破産手続においても、同様に解することができるでしょう。

譲渡担保契約等法でも、所有権留保は別除権であることを前提としています。

したがって、留保所有権者は、破産手続において、別除権を実行して、破産手続によらずに優先的な弁済を受けることができます。

破産手続における所有権留保の実行

前記のとおり、留保所有権者の有する権利は担保権であり、破産手続において留保所有権者が行使できる権利は、取戻権ではなく別除権です。

したがって、設定者(債務者)が破産した場合、留保所有権者は、破産管財人に対して、目的物の引渡しを請求することができ、これを破産手続によらずに自ら換価処分して、それによって得た金銭を被担保債権に充当することができます。

ただし、留保所有権者が所有権留保を破産管財人に対抗するためには、原則として対抗要件を備えていることが必要となります(譲渡担保契約等法109条)。

換価処分後の被担保債権への充当によってもなお余剰がある場合には、その余剰金を、破産管財人に支払って清算することになります。

逆に、目的物の換価処分によっても被担保債権全額に不足する場合、留保所有権者は、その被担保債権の不足額について破産債権者として破産手続に参加することができます。

ただし、破産債権者として配当を受けるためには、最後配当の除斥期間内に譲渡担保権を実行して不足額を証明するか、または、破産管財人との間で被担保債権を減縮する合意をしておかなければなりません(破産法198条3項)。

倒産解除特約の効力

売買契約に伴って所有権留保が設定される場合、その売買契約において倒産解除特約が定められるのが一般的です。

倒産解除特約とは、債務者が破産手続開始・再生手続開始・更生手続開始・特別清算手続開始または私的整理を開始するなどの倒産状態に陥った場合には、期限の利益を失い、または契約が当然に解除されるとする特約のことをいいます。

この倒産解除特約が有効であるかどうかについては、肯定説と否定説との対立があります。

もっとも、目的物を利用すべきかどうかについては破産管財人が総債権者の利益の観点から判断すべきであり、その破産管財人の判断の機会を確保する必要があることから、倒産解除特約は無効である(否定説)と考えるのが一般的でしょう。

留保所有権者(売主)が破産した場合

前記までの説明は、所有権留保における設定者(留保買主等)が破産した場合の取扱いです。

留保所有権者(留保売主等)が破産者である場合は、買主は被担保債権を弁済して、目的物の完全な所有権を取得することができます。

ただし、買主に債務不履行があった場合には、破産管財人は売買契約を解除して目的物の所有権を破産財団に組み入れることができます。

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。

破産法と資格試験

倒産法は、司法試験(本試験)や司法試験予備試験の選択科目とされています。この倒産法の基本となる法律が、破産法です。

民事再生法など他の倒産法は破産法をもとにした法律した法律ですので、破産法を理解していることが前提となってきます。そのため、学習する順番としては、まずは破産法からでしょう。

もっとも、出題範囲が限られているとはいえ、破産法もかなりのボリュームです。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。

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参考書籍

破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、破産法の参考書籍を紹介します。

破産法・民事再生法(第5版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。

条解破産法(第3版)
著者:伊藤眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。

破産実務Q&A220問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
破産実務を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、破産実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。

司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。

倒産処理法入門(第6版)
著者:山本和彦  出版:有斐閣
倒産法の入門書。「入門」ではありますが、ボリュームはそれなりにあります。倒産法全体を把握するために利用する本です。

倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。

倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。

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