この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

仮登記担保における担保権者は、仮登記担保契約に関する法律19条1項により、破産財団に対しては抵当権者に関する規定を適用するとされているため、仮登記担保は、破産手続においては別除権として扱われることになります。
仮登記担保とは
仮登記担保契約に関する法律 第1条
- この法律は、金銭債務を担保するため、その不履行があるときは債権者に債務者又は第三者に属する所有権その他の権利の移転等をすることを目的としてされた代物弁済の予約、停止条件付代物弁済契約その他の契約で、その契約による権利について仮登記又は仮登録のできるもの(以下「仮登記担保契約」という。)の効力等に関し、特別の定めをするものとする。
仮登記担保とは、債務の担保のために、債務者または第三者の所有する不動産などについて、債務不履行を停止条件とする代物弁済予約または停止条件付代物弁済契約を締結して、その契約による権利につき仮登記または仮登録を行うという担保形態のことをいいます(仮登記担保契約に関する法律1条)。
つまり、債務者に債務不履行があった場合、仮登記担保権者は、仮登記担保権を実行して、目的物を代物弁済によって取得できるということです。
目的物を取得した場合、仮登記に基づいて本登記をすることができます。ただし、取得した目的物の価額が被担保債権額を上回る場合には、清算が必要となります。
破産手続における仮登記担保の取扱い
仮登記担保契約に関する法律 第19条
- 第1項 破産財団に属する土地等についてされている担保仮登記(第14条の担保仮登記を除く。第3項及び第4項において同じ。)の権利者については、破産法(平成16年法律第75号)中破産財団に属する財産につき抵当権を有する者に関する規定を適用する。
- 第2項 破産財団に属しない破産者の土地等についてされている担保仮登記の権利者については、破産法中同法第108条第2項に規定する抵当権を有する者に関する規定を準用する。
- 第3項 再生債務者の土地等についてされている担保仮登記の権利者については、民事再生法(平成11年法律第225号)中抵当権を有する者に関する規定を適用する。
- 第4項 担保仮登記に係る権利は、会社更生法(平成14年法律第154号)又は金融機関等の更生手続の特例等に関する法律(平成8年法律第95号)の適用に関しては、抵当権とみなす。
- 第5項 第14条の担保仮登記は、破産手続、再生手続及び更生手続においては、その効力を有しない。
仮登記担保権者は、破産手続において「破産財団に属する財産につき抵当権を有する者に関する規定を適用する」とされます(仮登記担保契約に関する法律19条1項)。
そして、破産手続上、抵当権は別除権として扱われますから(破産法2条9項)仮登記担保権も別除権として扱われるということになります。
したがって、仮登記担保権者は、破産手続によらずに、仮登記担保権を実行して目的物の所有権を取得し、本登記をすることが可能です。
ただし、破産管財人は、裁判所に対して、仮登記担保権者による処分期間指定の申立てをすることができ、この指定期間内に仮登記担保権者が目的物を換価処分しなければ、仮登記担保の目的物について、換価のための競売申立てができるとされています(破産法184条、185条)。
なお、破産手続開始時点ですでに清算まで完了していた場合には、仮登記担保権者は目的物の完全な所有権を取得しているため、別除権ではなく、取戻権を行使して、破産管財人に対して目的物の引渡しを求めることができます。
破産手続における根仮登記担保の取扱い
仮登記担保契約に関する法律 第14条
- 仮登記担保契約で、消滅すべき金銭債務がその契約の時に特定されていないものに基づく担保仮登記は、強制競売等においては、その効力を有しない。
仮登記担保のうち、仮登記担保の契約において消滅すべき金銭債務が特定されていないものを「根仮登記担保」と呼んでいます。この根仮登記担保には、優先弁済的効力がありません(仮登記担保契約に関する法律14条)。
そして、破産手続においても、この根仮登記担保は効力を有しないものとされています(仮登記担保契約に関する法律19条5項)。
したがって、仮登記担保と異なり、別除権として扱われることもなく、根仮登記担保権者は、破産債権者として扱われるにすぎません。
仮登記担保権者が破産した場合
前記までの説明は、仮登記担保設定者(債務者)が破産した場合の取扱いです。
仮登記担保権者が破産者である場合は、設定者は被担保債権を弁済して、破産管財人に対して仮登記の抹消を求めることができます。
ただし、債務者に債務不履行があった場合には、破産管財人は目的物の所有権を得て本登記をし、これを破産財団に組み入れることができます。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
破産法と資格試験
倒産法は、司法試験(本試験)や司法試験予備試験の選択科目とされています。この倒産法の基本となる法律が、破産法です。
民事再生法など他の倒産法は破産法をもとにした法律した法律ですので、破産法を理解していることが前提となってきます。そのため、学習する順番としては、まずは破産法からでしょう。
もっとも、出題範囲が限られているとはいえ、破産法もかなりのボリュームです。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。
STUDYing(スタディング)
・司法試験・予備試験も対応
・スマホ・PC・タブレットで学べるオンライン講座
・有料受講者数20万人以上・低価格を実現
参考書籍
破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、破産法の参考書籍を紹介します。
破産法・民事再生法(第5版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。
条解破産法(第3版)
著者:伊藤眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。
破産実務Q&A220問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
破産実務を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、破産実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
倒産処理法入門(第6版)
著者:山本和彦 出版:有斐閣
倒産法の入門書。「入門」ではありますが、ボリュームはそれなりにあります。倒産法全体を把握するために利用する本です。
倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。
倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。