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破産手続において留置権はどのように扱われるか?

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

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留置権には、民法上の民事留置権と商法上の商事留置権があります。民事留置権は、別除権とはならず、その被担保債権は一般の破産債権として取り扱われます。他方、商事留置権は、特別の先取特権とみなされているため、別除権として取り扱われます

留置権とは

留置権とは、他人の物の占有者がその物に関して生じた債権を有するときに、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる担保物権のことをいいます(民法295条1項)。

例えば、パソコンを修理に出して、修理業者にパソコンを引き渡した場合、その修理業者は修理代金が支払われるまで、留置権を行使して、そのパソコンを自分のところにとどめ置いておくことができます。

この留置権には、民法上の留置権(民事留置権)と商法上の留置権(商事留置権)があります。

これら留置権は実体法上優先権を有する担保権とされています。そこで、破産手続においても、その優先的な地位が一定範囲で認められています。

破産手続における民事留置権の取扱い

破産法 第66条

  • 第1項 破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき存する商法又は会社法の規定による留置権は、破産財団に対しては特別の先取特権とみなす。
  • 第2項 前項の特別の先取特権は、民法その他の法律の規定による他の特別の先取特権に後れる。
  • 第3項 第1項に規定するものを除き、破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき存する留置権は、破産財団に対してはその効力を失う。

民法上の留置権(民事留置権)も担保物権の一つです。もっとも、民事留置権には、物を留置するこによって債権の弁済を促すという効力はありますが、優先弁済効はありません。

そのため、民事留置権は、破産財団に対しては効力を失うとされています(破産法66条3項)。つまり、担保権ではありますが、破産手続における別除権としては扱われないということです。

また、破産財団に対して留置権の効力が失われますので、留置権の被担保債権は、一般の破産債権として取り扱われるにすぎません。

したがって、民事留置権の被担保債権は、一般の破産債権として、他の債権と同様に、破産手続における配当によって債権を満足できるにとどまることになります。

加えて、留置権の効力が失われる以上、留置的効力も失われるため、破産管財人は、その留置権者に対して、目的物の返還を求めることができます。

なお、被担保債権が財団債権である場合にも留置権は効力を失うのかどうかについては、肯定説と否定説で争いがあります。

条文の文言に素直に従えば、被担保債権が財団債権であっても、破産手続の開始によって、民事留置権は効力を失うということになるでしょう。

破産手続における商事留置権の取扱い

破産法 第2条

  • 第9項 この法律において「別除権」とは、破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき特別の先取特権、質権又は抵当権を有する者がこれらの権利の目的である財産について第65条第1項の規定により行使することができる権利をいう。
  • 第10項 この法律において「別除権者」とは、別除権を有する者をいう。

破産法 第65条

  • 第1項 別除権は、破産手続によらないで、行使することができる。
  • 第2項 担保権(特別の先取特権、質権又は抵当権をいう。以下この項において同じ。)の目的である財産が破産管財人による任意売却その他の事由により破産財団に属しないこととなった場合において当該担保権がなお存続するときにおける当該担保権を有する者も、その目的である財産について別除権を有する。

商事留置権は、破産財団に対しては特別の先取特権とみなさます(破産法66条1項)。そして、特別の先取特権は別除権として扱われますから、特別の先取特権とみなされる商事留置権も、別除権として扱われることになります(破産法2条9項)。

したがって、商事留置権は別除権となり、破産手続によらずに(破産手続外で)権利を行使できます。

具体的にいえば、特別の先取特権の実行として競売申立てをすることができ、その競売による売却代金から優先的に弁済を受けることができることになります。

ただし、商事留置権は、他の特別の先取特権よりも順位が後れるとされています(破産法66条2項)。したがって、他の特別の先取特権がある場合には、商事留置権に対する弁済はそれらの後にされることになります。

また、破産管財人は、商事留置権の目的財産を破産財団に回復した方が、破産財団の価値の維持や増加に資する場合は、裁判所の許可を得て、当該財産価値相当額を弁済することによって、留置権の消滅を請求できるものとされています(商事留置権消滅制度。破産法192条)。

留置権者が破産した場合

前記までの説明は、留置権の被担保債権の債務者が破産した場合の取扱いです。

留置権者が破産者である場合は、破産管財人は留置権を行使して、被担保債権の弁済があるまで目的物を留置しておくことができます。また、一定の場合には、競売を申し立てることも可能です。

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。

破産法と資格試験

倒産法は、司法試験(本試験)や司法試験予備試験の選択科目とされています。この倒産法の基本となる法律が、破産法です。

民事再生法など他の倒産法は破産法をもとにした法律した法律ですので、破産法を理解していることが前提となってきます。そのため、学習する順番としては、まずは破産法からでしょう。

もっとも、出題範囲が限られているとはいえ、破産法もかなりのボリュームです。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。

参考書籍

破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、破産法の参考書籍を紹介します。

破産法・民事再生法(第5版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。

条解破産法(第3版)
著者:伊藤眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。

破産実務Q&A220問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
破産実務を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、破産実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。

司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。

倒産処理法入門(第6版)
著者:山本和彦  出版:有斐閣
倒産法の入門書。「入門」ではありますが、ボリュームはそれなりにあります。倒産法全体を把握するために利用する本です。

倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。

倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。

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