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破産手続において先取特権はどのように扱われるか?

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

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先取特権には、一般の先取特権と特別の先取特権があります。一般の先取特権は、破産手続において、別除権とはなりませんが、一般先取特権が認められる債権は優先的破産債権として扱われます。他方、特別の先取特権は、破産手続において別除権として扱われます

先取特権とは

先取特権とは、債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利のことをいいます(民法303条)。担保物権の1つです。この先取特権には、一般の先取特権と特別の先取特権があります。

一般の先取特権とは、共益費用・雇用関係・葬式費用・日用品の供給を原因として生じた債権について認められる先取特権です(民法306条)。一般の先取特権は、債務者の総財産に対して優先権を有することになります。

特別の先取特権とは、特定の財産に対して優先権が認められる先取特権です。特別の先取特権には、動産先取特権(民法311条)と不動産先取特権(民法325条)があります。

また、商事留置権や建物の区分所有等に関する法律7条に基づくマンションの滞納管理費請求権も特別の先取特権とみなされています。

これら先取特権は実体法上優先権を有する担保権です。そこで、破産手続においても、その優先的な地位が一定範囲で認められています。

破産手続における一般の先取特権の取扱い

破産法 第98条

  • 第1項 破産財団に属する財産につき一般の先取特権その他一般の優先権がある破産債権(次条第1項に規定する劣後的破産債権及び同条第2項に規定する約定劣後破産債権を除く。以下「優先的破産債権」という。)は、他の破産債権に優先する。
  • 第2項 前項の場合において、優先的破産債権間の優先順位は、民法、商法その他の法律の定めるところによる。
  • 第3項 優先権が一定の期間内の債権額につき存在する場合には、その期間は、破産手続開始の時からさかのぼって計算する。

前記のとおり、一般の先取特権は、共益費用・雇用関係・葬式費用・日用品の供給を原因として生じた債権についての債務者の総財産に対する優先権を有する担保物権です。

もっとも、一般の先取特権は、特定の財産に対する優先弁済権ではなく、あくまで債務者の総財産に対する他の債権者に対する優先権にとどまります。

破産手続でいえば、破産財団全体に対する優先権にすぎないということです。

そのため、一般の先取特権は、担保物権の1つではありますが、別除権としては扱われません。

ただし、一般の先取特権も、他の債権に対して優先権を有していることは町がありません。そこで、一般先取特権のある債権については、優先的破産債権として扱われるものとされています(破産法98条1項)。

したがって、一般先取特権のある債権(共益費用・雇用関係・葬式費用・日用品の供給を原因として生じた債権)は、破産手続における配当のみ債権の満足を得ることができるにすぎませんが、優先的破産債権として、一般の破産債権に優先して配当を受けることができます。

なお、優先的破産債権間の優劣は、民法の定めによります(破産法98条2項)。したがって、優先順位は、共益費用債権、雇用関係債権、葬式費用債権、日用品供給債権の順になります。

破産手続における特別の先取特権の取扱い

破産法 第2条

  • 第9項 この法律において「別除権」とは、破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき特別の先取特権、質権又は抵当権を有する者がこれらの権利の目的である財産について第65条第1項の規定により行使することができる権利をいう。
  • 第10項 この法律において「別除権者」とは、別除権を有する者をいう。

破産法 第65条

  • 第1項 別除権は、破産手続によらないで、行使することができる。
  • 第2項 担保権(特別の先取特権、質権又は抵当権をいう。以下この項において同じ。)の目的である財産が破産管財人による任意売却その他の事由により破産財団に属しないこととなった場合において当該担保権がなお存続するときにおける当該担保権を有する者も、その目的である財産について別除権を有する。

前記のとおり、特別の先取特権とは、特定の財産から優先的に弁済を受けられるという担保物権です。

特別の先取特権は、一般の先取特権と異なり、動産先取特権であれば特定の動産から、不動産先取特権であれば特定の不動産から優先的に弁済を受けることができる権利です。

そのため、特別の先取特権は、一般の先取特権と異なり、破産手続において別除権として扱われます(破産法2条9項)。

そして、別除権として扱われるので、特別の先取特権がある債権については、破産手続によらずに(破産手続外で)担保権を行使することができます。

具体的には、先取特権の対象となる動産や不動産を競売して、その代金を弁済に充当することができます。

なお、特別の先取特権の実行によっても、債権の全額の満足を得られない場合には、その不足額について、一般の破産債権として破産手続に参加し、配当を受けることができます。

先取特権者が破産した場合

前記までの説明は、先取特権の被担保債権の債務者が破産した場合の取扱いです。

先取特権者が破産した場合は、破産管財人は先取特権を実行して、その被担保債権を回収し破産財団に組み入れることができます。

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。

破産法と資格試験

倒産法は、司法試験(本試験)や司法試験予備試験の選択科目とされています。この倒産法の基本となる法律が、破産法です。

民事再生法など他の倒産法は破産法をもとにした法律した法律ですので、破産法を理解していることが前提となってきます。そのため、学習する順番としては、まずは破産法からでしょう。

もっとも、出題範囲が限られているとはいえ、破産法もかなりのボリュームです。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。

参考書籍

破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、破産法の参考書籍を紹介します。

破産法・民事再生法(第5版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。

条解破産法(第3版)
著者:伊藤眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。

破産実務Q&A220問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
破産実務を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、破産実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。

司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。

倒産処理法入門(第6版)
著者:山本和彦  出版:有斐閣
倒産法の入門書。「入門」ではありますが、ボリュームはそれなりにあります。倒産法全体を把握するために利用する本です。

倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。

倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。

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