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破産手続が開始されるとどのような効果を生じるのか?

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

破産法の画像
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裁判所によって破産手続開始の決定がされると、確定を待たずに、その決定の時から効力を生じます(破産法30条2項)。

具体的には、破産手続開始決定の時から、破産者の財産の管理処分権は破産管財人に専属することになり、破産者自身で財産を管理処分することはできなくなります(破産法78条1項)。

他方、破産債権者は個別に権利行使することを制限され、破産手続によらなければ権利行使できなくなります(破産法100条1項)。

また、破産者には説明義務や重要財産開示義務などの各種の義務や制限が課せられます。さらに、破産手続が開始すると、破産者である法人・会社は解散するのが通常です。

破産手続開始決定の効果

破産法 第30条

  • 第1項 裁判所は、破産手続開始の申立てがあった場合において、破産手続開始の原因となる事実があると認めるときは、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、破産手続開始の決定をする。
  • 第1号 破産手続の費用の予納がないとき(第23条第1項前段の規定によりその費用を仮に国庫から支弁する場合を除く。)。
  • 第2号 不当な目的で破産手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき。
  • 第2項 前項の決定は、その決定の時から、効力を生ずる。

破産手続は、裁判所によって破産手続開始の決定がされたときから開始されます。

そして、破産手続開始決定がされると、一定期間の経過による決定の確定を待たずに、その決定の時から、さまざまな法的効果が生じることになります(破産法30条2項)。

破産手続の開始による最も基本的な効果は、破産者の財産の管理処分権が破産管財人に移転すること、債権者による権利行使が制限されることです。

法人破産の場合には、破産手続の開始によって、その会社など法人は解散されるという効果も生じることになります。

また、破産手続開始決定がされると、それと同時に各種の処分または付随する処分がとられます。

破産管財人に財産の管理処分権が専属すること

破産法 第78条

  • 第1項 破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は、裁判所が選任した破産管財人に専属する。

破産手続が開始されると、破産財団に属する財産の管理処分権は、破産者から剥奪されて、破産管財人に専属することになります(破産法78条1項)。

破産財団とは、破産者の財産または相続財産もしくは信託財産であって、破産手続において破産管財人にその管理および処分をする権利が専属するもののことです(破産法2条14項)。

破産財団に属することになる財産には、日本国内か国外であるかを問わず、破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産が含まれます(破産法34条1項)。

ただし、個人(自然人)の破産の場合には、破産財団に含まれない自由財産が認められています(破産法34条3項)。この自由財産に該当する財産は、処分しなくてもよいものとされています。

これに対し、法人破産の場合には、破産者である法人・会社の手元に残しておける自由財産はありません。

したがって、破産手続が開始されると、破産者である法人・会社の財産はすべて破産管財人が管理・処分することになり、破産者自身が自由に管理・処分することができなくなります。

また、破産者は、財産の管理処分権を失うので、未解決の法律関係における義務を履行することができなくなり、係属中の訴訟の当事者適格も失われます。

破産債権者の権利行使の制限

破産法 第100条

  • 第1項 破産債権は、この法律に特別の定めがある場合を除き、破産手続によらなければ、行使することができない。

破産手続が開始されると、破産者自身が財産の管理処分権を失うというだけでなく、破産債権者の権利行使も制限されることになります(破産法100条1項)。

債権者は、通常、自己の債権を回収するため、破産者に対して債権についての取立てをすることができます。例えば、訴訟を提起するなどして債権回収を図ることができるということです。

しかし、破産手続が開始されると、破産債権者は、破産手続によってのみ債権回収が可能となり、個別に訴訟を提起したり、強制執行をしたりということができなくなるのです。

具体的に言うと、破産債権者は、破産手続において配当を受けるという方法によってしか、債権回収を図ることができなくなるということです。

他方、財団債権者は、破産手続外で権利行使をすることが可能です。また、別除権者も、破産手続外で担保権を実行することができます。

破産者等に加えらえる制限

前記のとおり、破産手続が開始されると、破産者は、財産の管理処分権を失います。

この財産管理処分権には、事業を継続することも含まれると解されています。したがって、破産者は、破産手続開始後に、自らの意思決定によって事業を継続することはできなくなります。

また、破産者は、裁判所の許可を得なければ居住地を離れることができないという居住制限を課せられます(破産法37条1項)。法人破産の場合は、法人のである法人・会社の理事・取締役等に居住制限が課されます(破産法39条)。

加えて、破産者宛ての郵便物は破産管財人に転送され、破産管財人はその転送郵便物を開披して中身を確認することができるようになります(破産法81条、82条)。

個人破産の場合には、一定の公的資格を利用できなくなる資格制限もあります。

破産者等に課せられる義務

破産手続が開始されると、破産手続の遂行に協力するため、個人破産者や破産者である法人の理事・取締役等には、破産管財人等に対して破産に関し必要な説明をしなければならない義務(説明義務)が課せられます(破産法40条1項、2項)。

また、破産者は、破産手続開始の決定後遅滞なく、所有する不動産・現金・有価証券・預貯金その他裁判所が指定する財産の内容を記載した書面を裁判所に提出しなければならない義務(重要財産開示義務)を課せられます(破産法41条)。

上記のほか、破産者には、債権調査期日に出頭し、意見を述べなければならない義務も課せられます(破産法121条3項、5項、122条2項)。

法人の解散

破産法 第35条

  • 他の法律の規定により破産手続開始の決定によって解散した法人又は解散した法人で破産手続開始の決定を受けたものは、破産手続による清算の目的の範囲内において、破産手続が終了するまで存続するものとみなす。

会社など法人が破産手続を開始することは、その法人の解散原因とされているのが通常です。

そのため、破産手続開始の直接の効果というわけではありませんが、破産手続が開始されると、その法人・会社は強制的に解散されることになります。

破産手続開始によって法人が解散された場合、破産手続の間、その法人は、破産手続による清算の目的の範囲内で、破産手続が終了するまで清算法人として法人格を有するものとされています。

あくまで清算法人として、破産手続における清算をするという範囲内で法人格を有しているとみなされているにすぎませんので、通常どおりの営業を行うことができるわけではありません。

清算が終了し、破産手続が終了した時は、その清算法人としての法人格も失われることになり、法人は完全に消滅することになります。

破産手続開始の同時処分

破産手続が開始されると、同時廃止事件の場合には、破産手続開始決定と同時に破産手続廃止決定をすることになります。もっとも、会社など法人破産の場合には、管財事件となるのが通常です。

管財事件の場合には、破産手続開始の効果そのものではありませんが、破産手続開始決定と同時に、以下のような、いくつかの同時処分がなされます(破産法31条)。

破産手続開始の同時処分
  • 破産管財人の選任(破産法31条1項柱書)
  • 破産債権届出期間・財産状況報告集会期日・破産債権調査期間または期日の決定(同項各号)

破産手続開始の付随処分

破産手続が開始されると、前記の同時処分がなされるほか、さらに以下の手続的な付随処分もなされます。

破産手続開始の付随処分
  • 破産手続開始決定の主文、破産管財人の氏名または名称、破産債権届出期間、財産状況報告集会期日、破産債権の一般調査期間または期日、破産財団に属する財産の所持者または破産者の債務者に対する弁済または財産交付の禁止命令等の公告(破産法32条1項・2項)
  • 破産管財人・知れたる破産債権者等に対する公告事項の通知(同条3項、4項)
  • 監督官庁等への通知(破産規則9条)
  • 破産登記・登録の嘱託(破産法257条1項)
  • 郵便物の回送嘱託(破産法81条1項)

破産手続開始決定の確定

破産手続開始決定は、その決定が官報公告された日の翌日から2週間経過すると確定します。

ただし、前記のとおり、破産手続開始決定は、確定を待たずに、決定時から効力を生じます。

なお、債務者などの利害関係人は、この確定の時までの間、破産手続開始の申立てについての裁判に対して不服申立て(即時抗告申立て)をすることが可能です(破産法33条)。

参考書籍

破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、本記事「破産手続開始の効果」の参考書籍を紹介します。

破産法・民事再生法(第5版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。

条解破産法(第3版)
著者:伊藤 眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。

破産・民事再生の実務(第4版)破産編
編集:永谷典雄ほか 出版:きんざい
東京地裁民事20部(倒産部)の現役裁判官による破産実務の解説書。東京地裁の破産事件を扱う実務家必携の本。実務家でなくても、実際の手続運用を知っておくと、破産法をイメージしやすくなるでしょう。

司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。

倒産法 (LEGAL QUEST)
著者:杉本和士ほか 出版:有斐閣
法科大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた基本書・概説書。破産法だけでなく、倒産法全般について分かりやすくまとめられています。 

倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。

倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。

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