この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

民事上の時効制度には,取得時効と消滅時効があります。この時効によって不利益を受ける当事者のために,時効を止めるための措置として,「時効の更新」(民法改正前は「時効の中断」と呼ばれていました。)という制度が用意されています。
時効の更新とは
民事の時効制度には,取得時効と消滅時効があります。
取得時効とは一定の期間の経過により権利を取得するという制度、消滅時効とは一定の期間の経過により権利が消滅するという制度です。
取得時効が完成しそれが援用されれば,その時効援用者が権利を取得し,もとの権利者(この権利者のことを「原権利者」といいます。)はその権利を失うことになります。
例えば、ある土地を一定期間占有していた人が取得時効を援用し、それが認められると、もともとのその土地の所有者は所有権を失い、援用した人が所有権を取得します。
消滅時効の場合は,消滅時効が完成し援用されると,権利者の時効援用者に対する権利は消滅します。
例えば,貸金の例でいうと,借主が一定期間返済をせずにいて,その後消滅時効を援用し,それが認められた場合,貸主の借主に対する貸金債権は消滅してしまいます。その結果,借金の返済を請求できなくなります。
もっとも,取得時効における原権利者や消滅時効における権利者は,相手方が占有を解いてくれなかったり返済をしてくれなかったら,指をくわえて時効が完成するまで待っているしかないのかというと,そのようなはずはありません。あまりにも不公平です。
そこで,時効援用によって不利益を被ることになる側の人の対抗手段として,時効の更新(民法改正前は「時効の中断」と呼ばれていました。)という制度が用意されています。
時効の更新の効果
時効の更新とは,それまで進行してきた時効期間を一から更新させることができるという制度です。時効が更新されると,それまで進行してきた時効期間はリセットされます。
例えば、AがBに対して貸金債権を有していました。この貸金債権の消滅時効期間が5年間であったとします。すでに、Bが返済をしなくなって4年が経過していました。
この時点でBが時効更新の措置をとると、それまでの4年間はリセットされます。リセットされるとは、それまでの期間が「0(ゼロ)」に戻るということです。
したがって、時効更新の時からさらに5年間が経過しないと消滅時効は完成しないことにできる,というわけです。これは取得時効についても同様です。
前記のとおり、以前は時効の中断と呼ばれていました。しかし、時効期間をリセットするのですから、「中断」よりも「更新」という言葉の方がたしかにしっくりきます。
時効の更新の方法
時効の更新には,以下の3つの方法があります。
- 裁判上の請求等による更新:裁判上の請求、支払督促、訴え提起前の和解、民事調停、家事調停、破産手続、民事再生手続、会社更生手続において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したとき(民法147条2項)
- 強制執行等による更新:強制執行、担保権の実行、財産開示手続などが終了したとき(民法148条2項)
- 承認による更新:権利の承認があったとき(民法152条1項)
裁判上の請求等による更新
民法 第147条
- 第1項 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
- 第1号 裁判上の請求
- 第2号 支払督促
- 第3号 民事訴訟法第275条第1項の和解又は民事調停法(昭和26年法律第222号)若しくは家事事件手続法(平成23年法律第52号)による調停
- 第4号 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
- 第2項 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。
以下の法的手続をとると,その手続中は時効が完成しなくなり,その手続において確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定すると,その手続が終了した時に時効が更新されます(民法147条2項)。
- 裁判上の請求:判決書を受け取った日の翌日から14日経過後に判決確定(裁判上の和解の場合は、和解調書作成時に確定判決と同一の効力)
- 支払督促:支払督促の送達日の翌日から14日以内に債務者からの異議がなかったことにより仮執行宣言の申立てを行い、債務者からの異議がないまま仮執行宣言付支払督促の送達日の翌日から14日を経過した時に確定判決と同一の効力
- 訴え提起前の和解(民事訴訟法275条1項):和解調書作成時に確定判決と同一の効力
- 民事調停:調停調書作成時に確定判決と同一の効力
- 家事調停:調停調書作成時に確定判決と同一の効力
- 破産手続・民事再生手続・会社更生手続への参加:破産債権・再生債権・更生債権が各手続内で確定され、各手続の廃止または終結決定があった時に確定判決と同一の効力
裁判上の請求とは,訴訟を提起して請求するということです。例えば,前記の例でいえば,土地明渡しの訴訟を提起したり,貸金返還の訴訟を提起するということです。
訴訟を提起して判決が確定した場合や裁判上の和解が成立した場合などに、そのことにより権利が確定すると、その確定時(裁判上の和解の場合は和解成立時)に時効が更新されます。
他方,権利が確定せずに訴訟が終了した場合には,時効は更新されません。ただし,手続終了時から6か月間は時効の完成が猶予されます(民法147条1項)。
強制執行等による更新
民法 第148条
- 第1項 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
- 第1号 強制執行
- 第2号 担保権の実行
- 第3号 民事執行法(昭和54年法律第4号)第195条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売
- 第4号 民事執行法第196条に規定する財産開示手続又は同法第204条に規定する第三者からの情報取得手続
- 第2項 前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない。
以下の法的手続をとると,その手続中は時効が完成しなくなり,その手続が終了した時に時効が更新されます(民法148条2項)。
- 強制執行
- 担保権の実行
- 形式的競売(民事執行法195条)
- 財産開示手続(民事執行法196条)
- 第三者からの情報取得手続(民事執行法204条)
例えば,強制執行の手続をとった場合,その手続が終了した時に時効が更新されます。
ただし,申立ての取下げや手続の取消しによって手続が終了した場合には時効は更新されません。もっとも,取下げ等による終了から6か月間は時効の完成が猶予されます(民法148条1項)。
なお,改正前の民法では,仮差押えや仮処分も時効中断事由とされていましたが,民法改正により,これらは時効更新事由から外されています。
ただし,仮差押えや仮処分であっても,その手続中は時効が完成せず,終了後6か月間は時効の完成が猶予されます(民法149条)。
承認による更新
民法 第152条
- 第1項 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
- 第2項 前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。
時効更新事由としては,上記のほか,「承認(権利の承認)」があります。
取得時効における承認とは,時効により権利を失う者(原権利者)が,権利を取得することになる者(援用権者)に対して,自己の権利を認めさせることを意味します。
例えば,前記の土地占有者による土地の取得の例で言うと,占有者が,土地の使用者に対して賃料を支払うなどして土地を借りていること(土地所有者が所有権者であること)を認めた場合などが挙げられます。
他方,消滅時効における承認とは,時効の利益を受ける者が,時効により権利を失うことになる者に対して,その権利の存在を認めることを意味します。
例えば,前記の貸金の例で言うと,借主Bが貸主Aに対して返済猶予の申入れをするなどして,Aから借金をしていること(貸金債権が存在していること)を認める場合などがこれに当たります。
これら承認があった場合には,その承認の時に時効が更新されます(民法152条1項)。
なお、この権利の承認には、行為能力が必要とされません(民法152条2項)。ただし、財産管理能力は必要と解されています。そのため、管理能力のない未成年者や成年被後見人が承認しても、時効は更新されません。
時効の更新と時効の完成猶予
これまで述べてきたように,時効の更新(中断)は,時効期間をリセットしてしまう制度です。
これに対して「時効の完成猶予」という制度があります。これは,時効期間をリセットするまでの効果はありませんが,一定期間中は時効が完成しなくなるという制度です。
したがって,時効の完成猶予期間中に,本来の時効期間が経過したとしても,時効は完成しません。
前記のとおり,権利が確定せずに裁判上の請求等が終了した場合,申立ての取下げや手続の取消しによって強制執行等が終了した場合,仮差押えや仮処分の場合などには,更新の効果は生じないものの,時効の完成猶予の効果は生じます。
また,「催告」をした場合も,時効完成猶予の効果が生じます。端的にいうと,裁判外で請求をするということです。
この催告はあくまで時効の完成猶予事由であるため,これのみによって時効更新の効果が発生するわけではありません。しかし,催告後6月間は時効が完成しません(民法150条1項)。
したがって,催告後6か月以内に前記の時効更新事由のうちのどれかの措置をとれば,正式に時効更新の効果が発生します。
時効完成が直前であるものの正式の更新の措置をとる時間がないという場合には,とりあえず催告をしておけば,時効完成の時期を6か月間だけは伸ばせるということになります。
- 裁判上の請求、支払督促、訴え提起前の和解、民事調停、家事調停、破産手続参加、民事再生手続参加、会社更生手続参加をした場合、それらの手続をしている間(民法147条1項)
- 上記各手続が、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなく終了した場合は、手続終了時から6か月を経過するまでの間(民法147条1項)
- 強制執行、担保権の実行、財産開示手続などの手続をしている間(民法148条1項)
- 上記各手続が、申立ての取下げまたは法律の規定に従わないことによる取消しによって終了した場合は、手続終了時から6か月を経過するまでの間(民法148条1項)
- 仮差押え、仮処分の手続の終了時から6か月を経過するまでの間(民法149条)
- 催告をした場合、催告時から6か月を経過するまでの間(民法150条)
- 権利についての協議を行う旨の合意が書面でされた場合、合意時から1年、当事者で定めた協議を行う期間、協議続行拒絶通知時から6か月のいずれか早い時までの間(民法151条1項)
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
民法と資格試験
民法は、私法の基本法です。我々の生活に最も身近な法律です。
そのため、例えば、司法試験(本試験)、司法試験予備試験、司法書士試験、行政書士試験、宅建試験、マンション管理士試験・・・など、実に多くの資格試験の試験科目になっています。
これら法律系資格の合格を目指すなら、民法を攻略することは必須条件です。
とは言え、民法は範囲も膨大です。メリハリを付けないと、いくら時間があっても合格にはたどり着けません。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。
STUDYing(スタディング)
・司法試験・予備試験も対応
・スマホ・PC・タブレットで学べるオンライン講座
・有料受講者数20万人以上・低価格を実現
参考書籍
本サイトでも民法について解説していますが、より深く知りたい方や資格試験勉強中の方のために、民法の参考書籍を紹介します。
新訂民法総則(民法講義Ⅰ)
著者:我妻榮 出版:岩波書店
民法の神様が書いた古典的名著。古い本なので、実務や受験にすぐ使えるわけではありませんが、民法を勉強するのであれば、いつかは必ず読んでおいた方がよい本です。ちなみに、我妻先生の著書として、入門書である「民法案内1(第二版)」や「ダットサン民法総則・物権法(第4版)」などもありますが、いずれも良著です。
我妻・有泉コンメンタール民法(第8版)
著書:我妻榮ほか 出版:日本評論社
財産法についての逐条解説書。現在も改訂されています。家族法がないのが残念ですが、1冊で財産法全体についてかなりカバーできます。辞書代わりに持っていると便利です。
続 時効の管理(改正民法対応版)
著者:酒井廣幸 出版:新日本法規出版
時効に特化した実務書。具体的な分野ごとに時効の問題をピックアップして解説しています。時効管理のために、持っておいて損はないでしょう。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
民法(全)(第3版補訂版)
著者:潮見佳男 出版:有斐閣
1冊で民法総則から家族法まで収録されています。基本書というより入門書に近いでしょう。民法全体を把握するのにはちょうど良い本です。
民法の基礎1(総則)第5版
著者:佐久間毅 出版:有斐閣
民法総則の基本書。基礎的なところから書かれており、読みやすく情報量も多いので、資格試験の基本書として使うには十分でしょう。
スタートアップ民法・民法総則(伊藤真試験対策講座1)
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。民法は範囲が膨大なので、学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。


