私人間の権利義務関係を規律する法のことを「私法」といいます。その私法の基本となる法律が「民法」です。つまり,民法とは,市民生活や事業などにおける基本的なルールを定めた法律です。
民法とは
民法とは私法の基本法です。私法の一般法と呼ばれることもあります。
「私法」とは私人(市民)相互間の権利義務関係(法律関係)を規律する法のことをといいます。
私人相互間の法律関係とは,私人(市民)と公権力との間の法律関係ではない(公権力との間の法律関係を規律する法は「公法」と呼ばれます。)ということです。
私人間の権利義務は非常に多種多様で複雑ですから,当然,私法に当たる法令も無数にありますが,そのうちで最も基本となるのが,この「民法」です。そのため,民法は,私法の基本法と呼ばれているのです。
また,「一般法」とは,特定の人や事物にだけ適用されるのではなく,広く一般的抽象的に適用される法のことをいいます。
民法は,私法のうちでも特定の私人間法律関係に限定されず,広く私人間法律関係一般に適用される法律であることから,私法の一般法でもあります。
すなわち,民法とは,市民相互間の法律関係の最も基本的なルールを定めている法律であるということです。
個人の方の生活に関わる法律問題も,法人・事業者の方の事業に関わる法律問題も,すべてこの民法を基本としているといってもよいでしょう。
それだけに,司法試験も含めた各種の法律系国家資格の資格試験では,必ずといってよいほど,この民法が受験科目とされています。
日本で最初に民法が制定されたのは,明治29年のことです(なお,家族法部分は明治31年)。その後,数度の改正が行われており,近時も,債権法や相続法に大きな改正がありました。
民法の基本原理・原則
何をもって民法の原理というのかということについては,さまざまな見解がありますが,一般的には,私法の三大原理・原則である「権利能力平等の原則」,「所有権絶対の原則」,「私的自治の原則」の3つが,民法においても基本原理・原則とされると解されています。
権利能力平等の原則
権利能力平等の原則とは,誰もが平等に,権利義務の主体となることができるという原則です。
民法においても,民法は本質的平等を旨として解釈しなければならず,しかも,何ら制限なく,人は出生によって権利能力を取得する旨が規定されていることからも,この権利能力平等の原則が採用されていることは明らかです。
所有権絶対の原則
所有権絶対の原則とは,個人の有する所有権は,他人はおろか,国家権力によっても侵害することのできない神聖不可侵な権利であるとする原則です。
明文はありませんが,この所有権絶対の原則も,民法上の基本原理であると解されています。
私的自治の原則
私的自治の原則とは,私人間における権利義務関係(法律関係)は,国家権力の介入によってではなく,各個人の自由意思に基づき規律されるべきであるとする原則のことをいいます。
この私的自治の原則からは,さらに法律行為自由の原則(契約関係においては「契約自由の原則」として,相続においては「遺言自由の原則」において,顕れることになります。)と過失責任の原則が派生すると考えられています。
この私的自治の原則も,民法の基本原理とされています。現に,民法においても,契約の締結や遺言の作成については特段の制限がなされていません。
民法の構成
日本の民法は,ドイツ民法の例にならって,パンデクテン方式と呼ばれる方式で編成されています。
パンデクテン方式とは,共通する一般的・総則的な事柄を最初にまとめて規定し,個別の規定をその後に規定するという方式です。
民法は,大きく分けて,2つのカテゴリーに分かれています。1つは,財産関係を規定する「財産法」の部分と,家族関係を規定する「家族法」の部分です。
※民法の条文については、以下のページ(e-gov)をご覧ください。
財産に関する規定(財産法)
民法のうち財産関係についての規定の部分のことを「財産法」と呼んでいます。財産法は,総則,物権,債権に分かれています。
民法総則
総則には,財産法全体に共通する規定が定められています。総則のうち通則では,信義誠実の原則(信義則)や権利濫用の禁止など私法の基本原則が定められています。
また,総則では,人や法人など権利義務の主体・客体に関する規定,意思表示など法律行為に関する規定,時効に関する規定などが定められています。「民法総則」と呼ばれることもあります。
物権(物権法)
物権とは,物に対する排他的な支配権のことをいいます。
物権には,所有権,占有権のほか,地上権・永小作権・地役権といった用益物権,抵当権・留置権・質権・先取特権といった担保物権などがあります。
物権に関する規定の部分のことを「物権法」と呼ぶことがあります。
債権(債権法)
債権とは,特定人に対して特定の給付や行為を求める権利のことをいいます。
債権に関する規定は,債権全般に共通する規定を定める債権総論(債権総則)と,債権の発生原因ごとに個別に規定を定めている債権各論とがあります。
債権に関する規定の部分のことを「債権法」と呼ぶことがあります。
債権総論
債権総論では,債権全般に共通するものとして,債権の種類など債権の目的・債務不履行責任や債権者代位権など債権の効力・保証契約など多数当事者の債権債務・債権譲渡・弁済や相殺など債権の消滅に関する規定が置かれています。
債権各論
債権各論では,契約に基づく債権とそれ以外の債権とが規定されています。契約に関する規定は,契約全般に共通する規定を定める契約総論と個別の契約類型ごとに規定を定める契約各論とがあります。
契約総論では,契約の成立・同時履行の抗弁や危険負担など契約の効力・契約の解除などが定められています。
契約各論では,贈与・売買・交換・消費貸借・使用貸借・賃貸借・雇用・請負・委任・寄託・組合・終身定期金・和解の各契約について定められています。契約に関する規定の部分のことを「契約法」と呼ぶことがあります。
また,契約以外の債権の発生原因に関する規定としては,事務管理・不当利得・不法行為が規定されています。
家族に関する規定(家族法)
民法のうち家族関係についての規定の部分のことを「家族法」と呼んでいます。家族法は,さらに,親族関係について定める親族と相続関係について定める相続に分かれています。
親族(親族法)
親族に関する規定の部分を「親族法」と呼ぶことがあります。
親族法では,親族関係についての基本を定める総則,婚姻や離婚,親子関係,養子縁組や離縁,親権,後見,扶養などを規定しています。
相続(相続法)
相続に関する規定の部分を「相続法」と呼ぶことがあります。
相続法では,相続の開始,相続人,遺産分割などの相続の効力,相続の承認・放棄,相続人の不存在の場合の処理,遺言などについて規定しています。
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