契約の当事者の一方が,第三者に対してある給付をすることを約束することを,第三者のためにする契約といいます(民法537条)。
第三者のためにする契約とは
民法 第537条
第1項 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
第2項 前項の契約は、その成立の時に第三者が現に存しない場合又は第三者が特定していない場合であっても、そのためにその効力を妨げられない。
第3項 第1項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。
契約の当事者の一方が,第三者に対してある給付をすることを約束することを,「第三者のためにする契約」といいます(民法537条1項)。
例えば,AさんがBさんに所有物を売るという売買契約を締結したとします。この場合,AさんはBさんに対して所有物を引き渡す義務を,他方,BさんはAさんに対して売買代金を支払う義務を負うことになります。
この契約で,Bさんが売買代金をAさんに対して支払うのではなく,Aさんの債権者であるCさんに支払うように約束をしたとします。
この場合,契約当事者のBさんは,第三者であるCさんのために金銭を給付するという約束をしていることになりますので,この契約は第三者のためにする契約であるということになります。
なお、この場合のAさんを「諾約者」、Bさんを「要約者」、Cさんを「受益者」と呼ぶことがあります。
第三者のためにする契約の効果
民法 第538条
第1項 前条の規定により第三者の権利が発生した後は、当事者は、これを変更し、又は消滅させることができない。
第2項 前条の規定により第三者の権利が発生した後に、債務者がその第三者に対する債務を履行しない場合には、同条第1項の契約の相手方は、その第三者の承諾を得なければ、契約を解除することができない。民法 第539条
債務者は、第537条第1項の契約に基づく抗弁をもって、その契約の利益を受ける第三者に対抗することができる。
第三者のためにする契約が成立すると、その第三者は、債務者に対して、直接自分に契約上の給付をするよう請求できるようになります。
前記の例で言えば,第三者のためにする契約の成立によって,Cさんは,Bさんに対して直接自分に対して売買代金相当額の金銭を支払うように請求することができるということです。
ただし,この第三者の請求権は,契約成立と同時に当然に発生するわけではありません。
第三者にその権利を享受するか否かの選択権を与えるために,第三者の請求権は,その第三者が債務者に対して契約の利益を享受する意思を表示した時に発生するとされています(民法537条3項)。
この第三者による契約の利益を享受する意思の表示のことを「受益の意思表示」といいます。
そして,第三者がこの受益の意思表示をした後は,もはや契約当事者においてもその内容を変更したり消滅させたりすることはできなくなるとされています(民法538条1項)。
受益の意思表示をした第三者の期待を裏切ることは許されないからです。
前記の例で言えば,Cさんが受益の意思表示をした後に,AさんとBさんとの間で,やっぱり代金はAさんに支払うことにしようと決めることはできないということです。
仮にそのように決めても,Cさんの権利は失われませんから,CさんはBさんに対して代金相当額の金銭の支払いを請求できることになります。
ただし,契約上の抗弁は第三者にも対抗できます(民法539条)。
つまり,例えば,Bさんは,代金の支払期日がまだきていないからとか,目的物がまだ引き渡されていないからとかの理由で,Cさんからの請求を拒むことができるということです。