民法改正前の遺留分減殺請求に期限はあるのか?(消滅時効・除斥期間)

遺留分の画像

2019年(令和元年)7月1日より前に開始された相続について,兄弟姉妹を除く法定相続人は,遺留分減殺請求できる場合がありますが,この遺留分減殺請求権ができる期間は法律によって決められています。

※なお、2019年7月1日以降に開始された相続については、遺留分減殺請求ではなく、遺留分侵害額請求を行うことになりますので、ご注意ください。遺留分侵害額請求については、以下のページをご覧ください。

遺留分減殺請求ができる期間

改正前民法 第1042条
減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。

2019年(令和元年)7月1日より前に開始された相続について,遺留分を侵害する遺言遺贈)や贈与等があった場合,遺留分を侵害された相続人遺留分権利者)は,その遺贈や贈与を受けた受遺者・受贈者に対し,遺留分侵害の限度で遺贈や贈与の効力を失わせる(減殺させる)ことを請求できます。

※2019年(令和元年)7月1日に開始された相続については,遺留分減殺請求ではなく,遺留分侵害額請求を行うことになります。

もっとも,この遺留分減殺請求は,いつまでもできるというわけではありません。遺留分減殺請求ができる期間は,民法によって決められています。

上記改正前の民法1042条は,遺留分減殺請求ができる期間を定めていました。これをみると分かりますが,遺留分減殺請求権については,2つの期間制限があります。

1つは,前段の時効による消滅です。すなわち,遺留分減殺請求権は,遺留分権利者が相続開始・減殺すべき贈与・遺贈があったことを知った時から1年で,時効によって消滅するというものです。

もう1つは,後段の部分です。後段には,相続開始時から10年を経過した場合も,遺留分減殺請求権が消滅することを規定しています。こちらは,消滅時効ではなく,除斥期間であると解されています。

つまり,遺留分減殺請求権は,以下の期間内にしか行使できないということです。

  • 遺留分権利者が相続開始・減殺すべき贈与・遺贈のいずれかがあったことを知った時から1年
  • 相続開始時から10年

遺留分減殺請求権の消滅時効

前記のとおり,遺留分減殺請求権は,遺留分権利者が相続開始・減殺すべき贈与・遺贈のいずれかがあったことを知った時から1年が経過すると,時効によって消滅してしまいます。

あくまで,相続の開始等のいずれかを「知った時」からカウントしますから,相続が開始されていたことをも,減殺すべき贈与があることも,遺贈があったことも知らなければ,消滅時効期間は進行しません。

たとえ,相続開始等から1年以上が経過していようとも,相続開始等を知らないままであれば,時効によって消滅することはないということです(ただし,相続開始から10年経過すると,後述の除斥期間によって消滅します。)。

このうち減殺すべき贈与または遺贈を「知った時」とは,単にその贈与や遺贈がなされた事実を知ったというだけではなく,その贈与等によって自分の遺留分額が侵害され,さらに,減殺請求の対象となるということまで認識している必要があると解されています

この1年の期間制限は消滅時効ですから,時効更新が可能なように思われますが,遺留分減殺請求権は形成権ですので,請求や催告などをすれば当然に減殺の効果が生ずるものと解されています。

そのため,時効更新(かつての時効中断)というものは必要ないと考えられています(最一小判昭和41年7月14日)。

要するに,時効中断という形をとらなくても,上記期間内に,1回でも,遺留分減殺請求権を行使(催告や請求など)しておけば,それ以降,遺留分減殺請求の消滅時効は問題とならなくなる(時効によって消滅することはなくなる)ということです。

遺留分減殺請求権の除斥期間

前記のとおり,遺留分減殺請求権には,消滅時効のほかに,除斥期間があります。具体的に言えば,相続開始の時から10年を経過すると,遺留分減殺請求ができなくなってしまいます。

これは除斥期間ですので,消滅時効ではありません。したがって,更新というものもありません。相続開始時から10年が経過してしまうと,更新などもなく,完全に請求ができなくなってしまうのです。

ただし,前記のとおり,遺留分減殺請求権は形成権です。したがって,この10年の期間内に,1回でも遺留分減殺請求権を行使しておけば,除斥期間によって権利が消滅することはなくなります。

遺留分減殺請求権に基づく権利の消滅時効

前記のとおり,遺留分減殺請求権には,消滅時効や除斥期間といった期間制限があります。したがって,これらの期間内に遺留分減殺請求権を行使しておかなければなりません。

もっとも,遺留分減殺請求権は形成権と解されています。

そのため,これを1度でも行使すれば,当然に減殺の効果が生ずることになるため,時効中断などを考えなくてもよく,消滅時効や除斥期間は問題とならなくなります。

しかし,これは,あくまで「遺留分減殺請求権」の消滅時効や除斥期間が問題とならなくなるというだけです。遺留分減殺請求によって生じた各種の請求権等については別途,消滅時効等が進行していくことになります。

例えば,遺留分減殺請求をしたことにより,ある相続人から一定額の金銭を渡してもらえることになったとします。つまり,その相続人に対する金銭債権を取得したわけです。

これは,遺留分減殺請求権の行使に基づくものですが,債権としては,遺留分減殺請求権とは別個の金銭債権であると考えることになります。

そのため,このある相続人に対する金銭債権は,遺留分減殺請求権とは別に消滅時効の対象となります。

具体的にいえば,この遺留分減殺請求の行使によって取得した金銭債権は,不当利得返還請求権であると解されることになりますので,「権利を行使できる時から10年間」または「権利を行使できることを知った時から5年間」のいずれか早い時期に,時効によって消滅することになります。

このように,遺留分減殺請求権は,1回行使すれば時効消滅等がなくなるとしても,それによって生じた別の権利については消滅時効がなくなったわけではないので,別途,時効更新措置をとるなどの必要性があるということには,注意が必要です。

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