
自己破産には、借金の返済義務を免責してもらえるという大きなメリットがある反面、いくつかのデメリットもあります。ただし、これらのデメリットは過大に受け取られている部分があります。デメリットについても正確な知識を得ておくことが必要です。
- ブラックリストに登録される
- 生活必需品等を除く一定の財産を処分しなければならない
- 自己破産をしたことが官報公告される
- 一定の公的資格の使用が制限される
- 破産手続中は自由に住居を移転できなくなる
- 破産手続中は郵便物が破産管財人に転送されて内容をチェックされる
- 免責不許可となった場合には自己破産したことが市町村役場に通知されて破産者名簿に掲載される
自己破産のデメリット
自己破産の手続きを申し立て,裁判所から免責の許可を受けることができれば,借金の返済義務を免れることができます。
本来支払わなければならないものを,法律の力によって強制的に支払わなくてもよいことにするというのですから,かなり強力なメリットがあるといえます。債務整理の最終手段といってもよいでしょう。
しかし,これだけの効果を生ずるということは,その反面,債権者には泣いてもらっているわけです。債務者側だけ何の負担もなく済むというのでは,債権者は誰も納得しないでしょう。
そのため,自己破産手続においては,債務者(破産者)にも,それ相応のデメリットが発生することは避けられません。
ただし,個人の自己破産においては,債権者間の平等のほかに,債務者の経済的更生を図るという目的もあります。
そのため,自己破産によって債務者にデメリットが生ずるとはいっても,債務者の経済的更生を阻害するほどのデメリットが生じないように配慮はされています。
自己破産のデメリットとしては,以下のものが挙げられます。
- ブラックリスト(信用情報の事故情報)に10年間登録される
- 生活必需品等を除く財産を処分しなければならない
- 自己破産をしたことが官報に公告される
- 破産手続中は公的な資格を使った仕事ができなくなる
- 破産手続中は住居を自由に移転できなくなる
- 破産手続中は郵便物が破産管財人によって調査される
- 免責不許可の場合,破産したことが市町村役場に通知される
自己破産には,借金を支払わなくてよくなるという非常に大きなメリットがあります。しかし,効果・メリットが大きいだけに,以下のように,それなりののデメリットがあります。
もっとも,一般にまことしやかに言われている自己破産のデメリットの中には間違っているものもあります。デメリットがあることは間違いありませんが,正しい認識が必要となってきます。
そこで,これらのデメリットについて,個別的に見ていきます。
ブラックリストに登録されること
債務整理に共通するデメリットとして,信用情報に事故情報(いわゆる「ブラックリスト」です。)として登録されることが挙げられます。このことは,自己破産の場合でも同じです。
自己破産の場合には,破産手続の開始から10年間ほどブラックリストに登録されることになります。
ブラックリストに登録されると,その間は,新たに借入れをしたり,クレジットカードを利用したり,ローンを組んだりすることが非常に難しくなります。
また,家を借りる際に,賃貸保証会社がクレジットカード会社系の保証会社であると,賃貸保証の審査に通りにくくなることもあり得ます。
とはいえ,ブラックリスト登録は,任意整理や個人再生でも同様です。自己破産の場合は期間が若干長いという違いしかありません。自己破産に特有のデメリットというわけではありません。
生活必需品等を除く財産が処分されること
自己破産の場合には,財産の処分が必要です。そのため,持っている財産はある程度処分しなければならないことになるでしょう。
とはいえ,すべての財産を処分しなければならないわけではありません。生活に必要となる最低限の財産は「自由財産」として扱われ,処分せずに残すことが可能です。
自由財産としては,以下のものがあります。
- 破産手続開始後に取得した財産(新得財産。破産法34条1項)
- 差押禁止財産(破産法34条3項2号)
- 99万円以下の現金(破産法34条3項1号)
- 裁判所によって自由財産の拡張が認められた財産(破産法34条3項4号)
- 破産管財人によって破産財団から放棄された財産(破産法78条2項12号)
上記のほかにも、各裁判所では、自由財産として扱われる財産の範囲を拡張しています。例えば、東京地方裁判所では,以下の財産も自由財産として扱われています。
- 残高(複数ある場合は合計額)が20万円以下の預貯金
- 見込額(数口ある場合は合計額)が20万円以下の生命保険解約返戻金
- 処分見込額が20万円以下の自動車
- 居住用家屋の敷金債権
- 電話加入権
- 支給見込額の8分の1相当額が20万円以下の退職金債権
- 支給見込額の8分の1相当額が20万円を超える退職金債権の8分の7相当額
- 家財道具
したがって,家財道具も全部持っていかれるとか,給料も全部とられてしまうとかいうことはありません。
自己破産したことが官報に公告されること
自己破産をしたことは,官報に掲載されて公告されます。官報には氏名や住所も掲載されます。これを止めることはできません。したがって,誰にも知られずに自己破産をすることはできません。
もっとも,官報を購読する人は一部の人だけです。周りの人みんなに知られてしまうということは,通常は,あまりないでしょう。
一定の公的資格が制限されること
自己破産の手続が開始されると,公的資格の利用が制限されます。そのため,資格を利用しなければできない仕事もできなくなってしまうということになります。例えば,警備員や保険外交員などです。
もっとも,免責が許可されると資格制限は解除されますから,資格を使った仕事ができないのは破産手続中の2~4か月ほどです。一生資格が使えなくなるわけではありません。
免責不許可となった場合でも,復権を得れば,資格制限は解かれます。
また,選挙権が制限されるなどという話はデマです。自己破産したとしても選挙権まで制限されることはありません。
破産手続中は住所を自由に移転できなくなること
自己破産の手続中は,住居を自由に移転することはできなくなります。住居を移転する場合には,事前に裁判所の許可を得ておくことが必要となります。長期間の出張や海外旅行なども制限されることがあります。
とはいえ,実際には,連絡先さえはっきりしていれば,裁判所は移転を許可してくれるのが一般です。
また,この居住移転の制限も破産手続の間だけの話です。破産手続が終了すれば,自由に住居を移転することができるようになります。
破産手続中は郵便物が破産管財人に転送されること
自己破産をすると,通信の秘密も制限されます。
自己破産における通信の秘密の制限とは,具体的に言うと,自己破産の手続中,郵便物が破産管財人に転送され,その内容をチェックされるということです。
もっとも,この通信の秘密の制限も破産手続の間だけに限ります。なお,転送されるのは郵便物だけで,宅配便は転送されません。
免責不許可となった場合に市町村役場に通知されること
自己破産をすると,そのことが破産者の本籍地の市町村役場に通知され,その市町村役場の破産者名簿に記載されます。
もっとも,裁判所から市町村役場への通知は,免責が不許可または免責がされなかった場合に限られるというのが現在の運用です(最高裁民三第000113号平成16年11月30日最高裁判所事務総局民事局長通達)。
したがって,免責許可を得ることができれば,市町村役場に通知されることはありません。あまり心配することはないでしょう。
なお,免責が不許可になった場合でも,その後に復権を得れば,破産者名簿は閉鎖されます。
連帯保証人等に請求されること
自己破産する本人のデメリットというわけではありませんが、自己破産をすると,保証人・連帯保証人・連帯債務者などになっている人に対して,債権者から,破産した人の代わりに支払をするよう請求されます。
連帯保証人等に迷惑をかけてしまうという点からすると,自己破産のデメリットであると言えるかもしれません。
利用中の預金口座を変更しなければならない場合があること
自己破産をしたからといって,いきなり預金口座が解約されることはありません。また,その後,預金口座を開設することができなくなるようなこともありません。
もっとも,自己破産に限らず,債務整理をすると,債権者が銀行や信用金庫等である場合,その債権者である銀行や信用金庫等の預金が凍結されて一時的に使用停止になってしまうことがあります(債権者ではない銀行等の口座は凍結されません。)。
凍結ですので解約ではありません。口座自体は存続していますので,給料などの入金はされますが,それを引き出すことができなくなり,最終的にその残高がすべて借金と相殺されてしまう危険性を生じます。
また,債権者ではない銀行等の預金口座であっても,借金返済の引き落としに使っている場合,引き落としが止まらず,債務整理や自己破産の手続に支障をきたすことがあります。
そのため,自己破産をする場合,債権者の銀行等の預金口座や借金返済の引き落としに使っている預金口座を,給料振込先や家賃・水道光熱費・通信費等の引き落としに使っているときは,生活用の預金口座を変更しなければならない場合があります。
携帯電話を変更しなければならない場合があること
自己破産をしたからといって,携帯電話やスマートフォンが利用できなくなることはありません。毎月の通信費を支払うことは許されます。
ただし,携帯電話等の本体代金が割賦払いになっており,割賦金がまだ残っている場合,その割賦金は,他の借金と同様,破産債権として扱われ免責の対象となる可能性があります。
そうなると,割賦残額を支払うことはできなくなりますので,携帯電話等を解約されるおそれがあります。
したがって,携帯電話等の本体代金の割賦金が残っている場合は,あらかじめ,一括払いの携帯電話等に交換しておいた方が無難でしょう。
信販会社系の賃貸保証会社を利用できない場合があること
自己破産をしたからといって,借りている家を追い出されたり,新たに家を借りることができなくなるようなことはありません。
ただし,自己破産をすると,信用情報に事故情報(ブラックリスト)として登録されます。
賃貸保証会社が信販会社やその系列である場合,ブラックリストを確認できますので,場合によっては保証の審査に通らない可能性もあります。
したがって,その場合には,信販系でない賃貸保証会社に変更したり,連帯保証人に変更したりする必要が生じるでしょう。
自己破産のデメリットに対する誤解
上記のほかに,自己破産をすると,選挙権がなくなるだとか,自宅に管財人がきて家財道具が没収されるだとか,債権者から嫌がらせをうけるだとか,いろいろなことが言われてますが,これらはすべて誤解です。
- すべての財産が処分されてしまう。
▶ 生活に最低限必要な財産は,自由財産として処分しなくてもよいとされています。したがって,すべての財産が処分されるものではありません。 - 引っ越しや旅行ができなくなる。
▶ 居住制限がされるのは破産手続の間のみです。破産手続が終了すれば制限は解除されます。また,破産手続き中でも裁判所の許可があれば,転居や旅行は可能です。 - 郵便物が送られてこなくなる。
▶ 郵便物が破産管財人に転送されるのは破産手続の間のみです。破産手続が終了すれば制限は解除されます。 - 資格を使った仕事ができなくなる。
▶ 資格の制限は,免責が許可されれば解除されます。 - 選挙権も制限されてしまう。
▶ 選挙権が制限されることはありません。 - 免責不許可事由があると免責は絶対に受けられない。
▶ ギャンブルなどの免責不許可事由がある場合でも,裁判所の裁量によって免責が許可されることは少なくありません。むしろ,免責不許可事由がある場合でも,免責不許可になることの方が少ないといってよいでしょう。 - 債権者から嫌がらせを受ける。
▶ 自己破産をしたからと言って、債権者から嫌がらせを受けることはほとんどありません。金融機関などは、債権者集会に出席すらしないのが通常です。
自己破産に対する無用な不安を払しょくするためには,自己破産についての正しい理解が必要です。
自己破産のもう1つのデメリット
こうしてみると,(特に財産の無い方には)自己破産のデメリットは,借金の返済義務を免れることができるというメリットに比べれば小さいものだということがお分かりいただけるかと思います。
そうすると,自己破産の本当のデメリットは,法的なデメリットというようりも,「世間の目」や「世間体が悪い」というところにあるのではないかと思います。
確かにそのような面もありますし,実際に信用を失うおそれはあるでしょう。個人事業者・自営業者の方であれば,信用を失い取引に影響が生じることもあり得ます。
しかし,世間体があるからというだけで,自己破産の大きなメリットを享受せずに債務整理を諦めて苦しい生活を続けていくというのは,実にもったいないような気がします。