
免責不許可事由の1つに,「業務及び財産の状況に関する帳簿,書類その他の物件を隠滅し,偽造し、又は変造したこと」があります。
業務帳簿などを隠したり、偽造・変造して改ざんしたりすることは免責不許可事由に該当し、免責が許可されないことがあります。ただし、裁判所の裁量によって免責が許可されることはあります。
免責不許可事由となる業務帳簿等の隠匿・偽造・変造
破産法 第252条
- 第1項 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
- 第6号 業務及び財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件を隠滅し、偽造し、又は変造したこと。
自己破産をする最大の目的は、裁判所に免責を許可してもらうことです。免責が許可されると、借金の支払義務がすべて免除されます。借金を支払わなくてもよくなるということです。
もっとも、自己破産を申し立てたからといって、必ず免責が許可されるとは限りません。破産法252条1項各号に列挙された免責不許可事由がある場合には、免責が不許可とされることもあり得ます。
破産法252条1項6号は,業務や財産に関する帳簿類を隠したり,偽造・変造したりすると,免責不許可事由に該当することを規定しています。「業務帳簿等の隠匿・偽造・変造」と呼ばれる免責不許可事由です。
業務及び財産の状況に関する帳簿,書類その他の物件
免責不許可事由となる業務帳簿等の隠匿・偽造・変造行為の対象は,「業務及び財産の状況に関する帳簿,書類その他の物件」です。
この「業務及び財産の状況に関する帳簿,書類」については,だいたい想像がつくのではないでしょうか。
個人の給与所得者などであれば,あまり帳簿等はつけてないかと思いますが,個人事業者であれば,いくつかの業務・財産に関する帳簿をつけていることかと思います。
業務・財産に関する帳簿としては、出納帳や売上帳など各種のものがあります。また、業務・財産に関する書類としては、決算書や確定申告書などが考えられます。
事業者か否かにかかわらず、財産に関わる書類は多岐にわたります。通帳、車検証、保険証券なども財産に関する書類に含まれます。
無論、他にも多数あると思いますが、業務状況や個人の資産を示す書類関係はすべてこの「業務及び財産の状況に関する帳簿、書類」に当たると考えておいてよいでしょう。
では,「その他の物件」とは何でしょうか?
この条文の趣旨は,業務・財産に関する記録を隠匿したり偽造したりすることにより,不当に負債や財産を隠そうとすることを防ごうとすることにあります。
そうすると,この「その他の物件」というものも,隠匿・偽造することによって財産隠しの手段となり得る記録となるものを意味すると考えられます。例えば、データの入ったハードディスクなどの記録媒体も、この物件に含まれます。
隠匿・偽造・変造行為
破産法252条1項6号によって免責不許可事由となるのは,前記業務帳簿等を「隠滅し,偽造し,又は変造した」場合です。
「隠匿」は,容易に分かるとは思いますが,要するに,隠すことです。
それでは,「偽造」,「変造」とは何でしょうか。この2つの概念は,一般的には同じように考えられているかもしれませんが,法的には違う概念です。
まず,「偽造」というのは,作成名義や書類の本質的な部分を改ざんすることをいいます。
例えば、Aさんしか作る権限のない書類があるとします。Bさんにはその書類を作る権限はありません。ところが、Bさんは、Aさんの名前を使って勝手にその書類を作っていました。これは「偽造」です。
これに対して,「変造」というのは,偽造と異なり,本質的でない部分を改ざんすることをいいます。何が本質的で,何が非本質的かは難しいところです。書類の種類によって異なります。
その他にも,書類の種類によっては,財産の内容や負債の金額を偽ることも偽造となることがあります。
破産手続においてもっとも大事なことは,「正直に事情を話し,真摯に反省すること」です。率直に言ってしまうと,これに尽きるというところがあります。
逆に言えば,嘘を言い,反省もしていない場合が,最も免責不許可となってしまう可能性が高いのです。
そういう意味では,隠匿や偽造などと小細工をするよりも,正直に真摯に破産手続に望むことが一番大事です。
なお,隠匿とか,偽造・変造というくらいですから,故意に隠匿等を行っていることが前提となります。単にうっかりして帳簿等を付け忘れたという場合には,免責不許可事由とはなりません。
裁量免責の可能性
破産法 第252条
- 第2項 前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。
前記のとおり,業務帳簿等を隠匿・偽造・変造すると,免責不許可事由に該当してしまいます。したがって、原則として免責は許可されません。
しかし、常に免責不許可となるわけではありません。裁判所が、「破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるとき」には、免責許可されることもあります。これを裁量免責と言います(破産法252条2項)。
業務帳簿等の隠匿・偽造・変造をしてしまった場合でも、隠匿したものを明らかにし、改ざんしたことを正直に申告して、真摯に反省し、その後の破産手続に誠実に協力すれば、裁量免責が認められる可能性があります。