この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

過去に,①自己破産を申し立てて免責許可決定が確定している場合,②個人再生の給与所得者等再生を申し立てて再生計画認可決定が確定し,その再生計画を遂行している場合,③個人再生のハードシップ免責許可決定が確定している場合で,それら免責許可決定や再生計画認可決定が確定した日から7年以内に自己破産・免責許可の申立てをすると,そのこと自体が免責不許可事由として扱われます。
過去の免責許可等の経験と免責不許可事由
破産法 第252条
- 第1項 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
- 第10号 次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において、それぞれイからハまでに定める日から7年以内に免責許可の申立てがあったこと。
イ 免責許可の決定が確定したこと 当該免責許可の決定の確定の日
ロ 民事再生法 (平成11年法律第225号)第239条第1項に規定する給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日
ハ 民事再生法第235条第1項(同法第244条 において準用する場合を含む。)に規定する免責の決定が確定したこと 当該免責の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日
自己破産をする最大の目的は、裁判所に免責を許可してもらうことです。免責が許可されると、借金の支払義務がすべて免除されます。借金を支払わなくてもよくなるのです。
もっとも、自己破産を申し立てたからといって、必ず免責が許可されるとは限りません。破産法252条1項各号に列挙された免責不許可事由がある場合には、免責が不許可とされることがあります。
この破産法252条1項10号によると、自己破産・免責許可申立ての前7年以内に,免責許可決定を受けてそれが確定していたなど同号イからハまでに規定する事実があった場合、免責不許可事由があるものとして扱われます。
一度、免責許可決定などの非常救済措置を受けることができたにもかかわらず経済的更正できなかった人に対して再度免責許可等の措置を与えることは好ましくないことから、政策的に免責不許可事由とされているのです。
その意味で言えば,法は,破産における免責や個人再生の給与所得者等再生の再生計画認可は1回限りが原則であることを建前としているといえるでしょう。
免責不許可事由となる過去の免責許可等の事由
過去に免責許可決定等を受けていれば,それがどれほど昔のことでも,必ず免責不許可事由になるわけではありません。
破産法252条1項10号のとおり,免責不許可事由となるのは,イからハまでの事由に定められている日から「7年」以内に免責許可の申立てをした場合です。
7年より前に免責許可等を受けて確定していたとしても,免責不許可事由とはなりません。
あくまで,免責許可の申立てをした日から過去7年の間にイからハまでに定める日が含まれている場合には,免責不許可事由となるのです。
過去の免責許可決定の確定
破産法252条1項10号イの事由は「破産における免責許可決定の確定」です。
過去にも免責許可決定を受けたことがあり,その免責許可決定が確定した日から7年以内に再度の自己破産・免責許可の申立てをした場合,そのこと自体が,免責不許可事由となります。
そのため、過去7年以内に自己破産していても、免責が不許可であった場合や免責許可決定が確定しなかった場合は、免責不許可事由に該当しません。
給与所得者再生の再生計画認可決定の遂行
破産法252条1項10号ロの事由は「給与所得者等再生における再生計画認可決定の遂行」です。
過去に給与所得者再生を申し立て,その再生計画が認可されて再生計画を遂行したことがあった場合,その再生計画認可決定が確定した日から7年以内に自己破産・免責許可の申立てをすると,そのこと自体が,免責不許可事由となります。
この「再生計画認可決定の遂行」とは、再生計画に基づいて返済をしていたことを指します。
ただし、あくまで「給与所得者等再生」の再生計画認可決定です。個人再生であっても、小規模個人再生の再生計画認可決定であれば免責不許可事由には該当しません。
ハードシップ免責の許可決定の確定
破産法252条1項10号ハの事由は、いわゆる「再生手続におけるハードシップ免責の許可決定の確定」です。
ハードシップ免責とは、再生計画が認可され弁済を開始したものの、債務者の責に帰することができない事情で弁済できなくなった場合、すでに4分の3以上支払っているなどの一定の要件を満たしているときには、残っている弁済を免責する制度です。
過去にハードシップ免責許可決定を受けたことがあり,その免責許可決定が確定した日から7年以内に自己破産・免責許可の申立てをした場合,そのこと自体が,免責不許可事由となります。
この場合は、給与所得者等再生だけでなく、小規模個人再生でハードシップ免責を受けた場合も含まれます。
裁量免責の可能性
破産法 第252条
- 第2項 前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。
前記のとおり,過去7年以内に免責許可決定等を受けていると,免責不許可事由に該当してしまいます。そのため,2度目の破産はできないと考えている人もいるかもしれません。
しかし、常に免責不許可となるわけではありません。裁判所が、「破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるとき」には、免責許可されることもあります。これを裁量免責と言います(破産法252条2項)。
2回目の自己破産や給与所得者等再生などをした後の自己破産であっても,内容によっては,裁判所の裁量免責を受けることは可能です。
もちろん個別の事情にもよりますが,絶対に自己破産できないわけではありません。実際、2回以上自己破産して免責許可を受けている人もいます。
ただし,2回目ですから,当然,裁判所や破産管財人の調査・手続は厳しくなるでしょう。


