この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

自己破産をして免責を許可してもらうための条件(要件)としては、そもそも破産手続を開始してもらうための要件と、免責を許可してもらうための要件に分けることができます。
破産手続を開始してもらうための要件としては、破産手続開始原因があること、破産障害事由が無いこと、破産手続開始・免責許可の申立てが適法であることが必要です。
また、免責を許可してもらうための要件としては、免責不許可事由が無いことが必要です。ただし、免責不許可事由がある場合でも、裁判官の裁量によって免責が許可されることは少なくありません。
自己破産・免責許可の条件(要件)
破産手続とは、破産者の財産を換価処分して、それによって得た金銭を各債権者に分配する裁判手続です。
破産者の財産を分配しても支払いきれなかった債務については、破産手続と同時並行的に行われる免責手続において、裁判所から免責許可の決定を受けると、支払義務を免れることができます。
この破産手続・免責手続は、債務者自身でも申し立てることができます。債務者自身が破産手続の申立てをすることを「自己破産(申立て)」と呼んでいます。
自己破産の手続は、破産法に基づく裁判手続です。そのため、法律で定める条件(法律要件)を満たしてしなければ利用できません。
自己破産の条件という場合、大きく分けると、2つに分けることができます。1つは、破産手続を開始してもらうための条件、もう1つは、免責を許可してもらうための条件です。
以下では、破産手続を開始してもらうための条件と免責を許可してもらうための条件に分けて説明します。
破産手続を開始してもらうための要件
自己破産をする最大の目的は、裁判所に免責を許可してもらい、債務の支払義務から免れることにあります。
とはいえ、そもそも破産手続を開始してもらえなければ、免責手続も始まりませんから、免責許可を受けることができません。
自己破産の手続を開始してもらうためには、以下の要件を満たしていなければいけません。
- 破産手続開始原因があること
- 破産障害事由がないこと
- 破産手続開始・免責許可の申立てが適法であること
これらの要件を満たしていなければ、自己破産の手続を開始してもらうことができません。
破産手続開始原因があること(支払不能であること)
破産手続開始原因とは、破産手続が開始される原因となる事実のことをいいます。具体的には、債務者が「支払不能」または「債務超過」であることを指します。
破産する債務者が自然人(個人)の場合には、「支払不能」のみが破産手続開始原因となります(債務者が法人の場合は、「支払不能」と「債務超過」のいずれもが破産手続開始原因になります。)。
支払不能とは、弁済能力の欠乏により、債務者弁済期の到来した債務を、一般的かつ継続的に弁済することができないと判断される客観的状態のことをいいます。
この支払不能の状態になっている場合でなければ、破産手続を開始してもらえません。収入が十分で、特に生活に困ることもなく債務を返済できているような場合には、自己破産を利用できないということです。
破産障害事由がないこと
破産手続開始原因がある場合でも、破産障害事由が存在する場合には、破産手続を開始してもらえません。
破産障害事由には、以下のものがあります。
- 破産手続費用の予納がないこと(予納金を納付していないこと)
- 不当な目的でまたは不誠実な申立てであること
- 破産以外の倒産手続(個人再生手続など)が開始されていること
これらの破産障害事由がある場合には、破産手続を開始してもらえません。
破産手続開始・免責許可の申立てが適法であること
破産手続は裁判手続ですから、破産開始原因があり、破産障害事由もない場合でも、破産法や破産規則の定めに従った申立ての手続を履践していなければ、破産手続も免責手続も開始してもらえません。
自己破産の申立てが適法となるためには、具体的には、以下の要件が必要となります。
破産能力とは、破産者となることができる一般的な地位または資格のことです。日本国内に在住している人であれば、破産能力があるのが通常でしょう。
また、自己破産は、債務者自身が破産申立てをする場合ですので、破産手続開始の申立権があることの要件を満たしていることになります。
申立ての方式は、破産手続開始・免責許可の申立書を裁判所に提出する方式で行います。提出する裁判所は、個人の自己破産の場合、住所地を管轄する地方裁判所です。
申立書には、破産法や破産規則または各裁判所が定めている記載事項を記載し、必要な書類を添付する必要があります。また、手数料は、1500円分の収入印紙を申立書に貼付して納付します。
これらの手続を履践してはじめて、破産手続を開始してもらうことができるのです。
免責を許可してもらうための要件
前記のとおり、自己破産をする最大の目的は、裁判所に免責を許可してもらい、債務の支払義務から免れることにあります。
破産手続を開始してもらえても、最終的に免責を許可してもらえない(免責不許可となる)のでは、債務者にとっては意味がありません。
免責を許可してもらうための要件は、「破産法252条1項各号に定められている免責不許可事由が無いこと」です。
免責不許可事由には、以下のものがあります。
- 債権者を害する目的で、債権者に配当すべき財産を「隠匿」したこと
- 債権者を害する目的で、債権者に配当すべき財産を「損壊」したこと
- 債権者を害する目的で、債権者に配当すべき財産を他人に贈与してしまうなど債権者に「不利益となる処分」をしたこと
- 債権者を害する目的で、債権者に配当すべき財産の管理を怠るなどして「破産財団の価値を不当に減少させる行為」をしたこと
- 破産手続開始を遅らせる目的で、いわゆるヤミ金などから利息制限法に違反するような高利で金銭の借入れをするなど「著しく不利益な条件で債務を負担」したこと
- 破産手続開始を遅らせる目的で、クレジットカードで購入した商品を低廉な金額で換金してしまうなど「信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分」(換金行為)したこと
- 特定の債権者に対してだけ特別な利益を与える目的またはその他の債権者を害する目的で、法的な義務もないのに、その特定の債権者に対する債務について担保を設定したり、返済をしてしまう(非義務的偏頗弁済)などの行為をしたこと
- 収入に見合わない買い物や遊興などの「浪費」によって、著しく財産を減少させまたは過大な債務を負担したこと
- パチンコ・パチスロ・競馬・競艇・競輪などの「賭博」をしたことによって、著しく財産を減少させまたは過大な債務を負担したこと
- 株取引・FX取引・先物取引・仮想通貨取引などの「射幸行為」をしたことによって、著しく財産を減少させまたは過大な債務を負担したこと
- 破産手続開始の申立てがあった日の1年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、すでに借金の返済ができなかったり、借金の返済を停止していることを知りながら、そのような事実がないと信じさせるために嘘をつくなどして金銭を借り入れたり、クレジットカードで物品購入をするなどの行為をしたこと
- 日々の出納帳・決算書・確定申告書など業務及び財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件を「隠滅」「偽造」「変造」したこと
- 一部の債権者だけわざと除外するなど、虚偽の債権者名簿・債権者一覧表を裁判所に提出したこと
- 破産手続において裁判所が行う破産審尋などの調査において、説明を拒みまたは虚偽の説明をしたこと
- 脅迫・暴行・欺罔行為など不正の手段により、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害したこと
- 過去に自己破産で免責許可決定を受けたことがあり、その過去の免責許可決定確定の日から、今回の免責許可申立ての日まで7年が経過していないこと
- 過去に個人再生の給与所得者等再生で再生計画認可決定を受けたことがあり、その過去の再生計画認可決定の日から、今回の免責許可申立ての日までに、7年が経過していないこと
- 過去に個人再生のハードシップ免責の許可を受けたことがあり、そのハードシップ免責許可を受けた過去の再生計画認可決定の日から、今回の免責許可申立ての日までに、7年が経過していないこと
- 債権者集会等で破産に関して必要な説明をしなかったこと
- 裁判所に財産に関する書類等を提出しなかったこと
- 裁判所または破産管財人の調査に協力しなかったこと
これらの免責不許可事由に該当する事実がある場合には、原則として、免責の許可を受けることができません。
裁量免責
免責不許可事由がある場合でも、、必ず免責不許可となるわけではありません。裁判官の裁量によって免責が許可されることがあります。これを「裁量免責」といいます。
実際、免責不許可事由がある人でも、この裁量免責によって免責を許可してもらえる人が大半です。したがって、免責不許可事由があるからといって、直ちに自己破産を断念する必要はありません。
裁量免責は、「破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して」判断されます。
特に重要な事情は、裁判所や破産管財人の調査や指示に誠実に対応し、破産手続に協力することです。不誠実な対応をしないよう真摯に臨めば、裁量免責が認められる可能性は高いでしょう。
非免責債権がないことは免責許可の要件ではありません
免責不許可事由と混同しがちな概念として「非免責債権」があります。非免責債権とは、そもそも免責の対象にならない債権のことです。
免責が許可されるかどうかの要件は、あくまで「免責不許可事由があるかどうか」です。非免責債権があったとしても、免責不許可事由がなければ(または、裁量免責されれば)免責は許可されます。非免責債権が免責されないだけで、他の債権は免責されます。
非免責債権があるから免責が許可されないなどと勘違いしないようにしましょう。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になりましたら幸いです。
弁護士の探し方
「自己破産をしたいけどどの弁護士に頼めばいいのか分からない」
という人は多いのではないでしょうか。
現在では、多くの法律事務所が自己破産を含む債務整理を取り扱っています。そのため、インターネットで探せば、個人再生を取り扱っている弁護士はいくらでも見つかります。
しかし、インターネットの情報だけでは、分からないことも多いでしょう。やはり、実際に一度相談をしてみて、自分に合う弁護士なのかどうかを見極めるのが一番確実です。
債務整理の相談はほとんどの法律事務所で「無料相談」です。むしろ、有料の事務所の方が珍しいくらいでしょう。複数の事務所に相談したとしても、相談料はかかりません。
そこで、面倒かもしれませんが、何件か相談をしてみましょう。そして、相談した複数の弁護士を比較・検討して、より自分に合う弁護士を選択するのが、後悔のない選び方ではないでしょうか。
ちなみに、個人の自己破産の場合、事務所の大小はほとんど関係ありません。事務所が大きいか小さいかではなく、どの弁護士が担当してくれるのかが重要です。
レ・ナシオン法律事務所
・相談無料
・全国対応・メール相談可・LINE相談可
・所在地:東京都渋谷区
弁護士法人東京ロータス法律事務所
・相談無料(無料回数制限なし)
・全国対応・休日対応・メール相談可
・所在地:東京都台東区
弁護士法人ひばり法律事務所
・相談無料(無料回数制限なし)
・全国対応・依頼後の出張可
・所在地:東京都墨田区
参考書籍
本サイトでも自己破産について解説していますが、より深く知りたい方のために、自己破産の参考書籍を紹介します。
破産実務Q&A220問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
破産実務を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、破産実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。
破産・民事再生の実務(第4版)破産編
編集:永谷典雄ほか 出版:きんざい
東京地裁民事20部(倒産部)の裁判官・裁判所書記官による実務書。東京地裁の運用を中心に、破産事件の実務全般について解説されています。
破産管財の手引(第3版)
編著:中吉徹郎 出版:金融財政事情研究会
東京地裁民事20部(倒産部)の裁判官・裁判所書記官による実務書。破産管財人向けの本ですが、申立人側でも役立ちます。
はい6民です お答えします 倒産実務Q&A
編集:川畑正文ほか 出版:大阪弁護士協同組合
6民とは、大阪地裁第6民事部(倒産部)のことです。大阪地裁の破産・再生手続の運用について、Q&A形式でまとめられています。
破産申立マニュアル(第3版)
編集:東京弁護士会倒産法部 出版:商事法務
東京弁護士会による破産実務書。申立てをする側からの解説がされています。代理人弁護士向けの本ですが、自己破産申立てをする人の参考にもなります。