
住宅資金貸付債権における「住宅」とは、単に人が住んでいる建物というだけの意味ではなく、①再生債務者が所有し、②再生債務者が自己の居住の用に供しており、③その建物の床面積の2分の1以上の部分が専ら自己の居住の用に供されている建物でなければなりません。
この要件を充たす建物が複数ある場合でも、「住宅」として扱われるのは、再生債務者が主として居住の用に供する建物1つに限られます。
住宅資金特別条項の対象となる住宅とは
民事再生法 第196条
- この章、第12章及び第13章において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
- 第1号 住宅 個人である再生債務者が所有し、自己の居住の用に供する建物であって、その床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら自己の居住の用に供されるものをいう。ただし、当該建物が二以上ある場合には、これらの建物のうち、再生債務者が主として居住の用に供する一の建物に限る。
- 第2号 住宅の敷地 住宅の用に供されている土地又は当該土地に設定されている地上権をいう。
- 第3号 住宅資金貸付債権 住宅の建設若しくは購入に必要な資金(住宅の用に供する土地又は借地権の取得に必要な資金を含む。)又は住宅の改良に必要な資金の貸付けに係る分割払の定めのある再生債権であって、当該債権又は当該債権に係る債務の保証人(保証を業とする者に限る。以下「保証会社」という。)の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているものをいう。
- 第4号 住宅資金特別条項 再生債権者の有する住宅資金貸付債権の全部又は一部を、第199条第1項から第4項までの規定するところにより変更する再生計画の条項をいう。
- 第5号 住宅資金貸付契約 住宅資金貸付債権に係る資金の貸付契約をいう。
個人再生には「住宅資金特別条項(住宅ローン特則)」と呼ばれる制度が用意されています。
住宅資金特別条項を定めた再生計画が認可されると、住宅ローンなどの「住宅資金貸付債権」だけは約定どおりまたは若干リスケジュールして返済を継続しつつ、他の再生債権については減額・分割払いにしてもらうことができます。
住宅資金貸付債権とは、住宅の建設・購入に必要な資金(住宅の用に供する土地・借地権の取得に必要な費用も含まれます。)または住宅の改良に必要な資金の貸付けに係る分割払いの定めのある再生債権で、この債権または保証会社の主たる債務者に対する求償権を担保するために抵当権が住宅に設定されているもののことをいいます(民事再生法196条3号)。
住宅資金特別条項を利用できれば、住宅ローンだけは減額されずに支払っていくことができるため、住宅ローンの残っている自宅は処分されずに済み、しかも、住宅ローン以外の債務は減額・分割払いにしてもらうことにより、債務整理をすることができるのです。
ただし、この住宅資金貸付債権における「住宅」、つまり、住宅資金特別条項によって残すことができる「住宅」は、単に、人が住んでいる建物というだけの意味ではありません。
住宅資金貸付債権における「住宅」というためには、以下の要件を満たした建物でなければなりません(民事再生法196条1号)。
- 再生債務者が所有している建物であること
- 再生債務者が自己の居住の用に供している建物であること
- 床面積の2分の1以上の部分が専ら自己の居住の用に供されていること
この要件を満たしていない建物は、住宅資金貸付債権における「住宅」とはいえないので、住宅資金特別条項を利用することができないことになります。
再生債務者が所有する建物であること
住宅資金貸付債権における「住宅」は、再生債務者(個人再生を利用する債務者)が所有する建物でなければなりません。
したがって、再生債務者の所有でない建物について住宅資金特別条項を利用することはできません。
ただし、一棟の建物の全部を単独所有していなければならないというわけではありません。
分譲マンションの1室のような区分所有でも、再生債務者が所有していれば、再生債務者の所有する建物として扱われます。
また、再生債務者が他の人と共有している建物であっても、再生債務者が所有していることに変わりはないので、やはり再生債務者の所有する建物として扱うことができます。
自己の居住の用に供している建物であること
住宅資金貸付債権における「住宅」は、再生債務者が自己の居住の用に供している建物でなければなりません。要するに、再生債務者の住居建物でなければならないということです。
再生債務者の方が自己の居住のために利用している建物であれば、家族や同居人と一緒に利用している場合でも、「住宅」に該当します。
他方、再生債務者の方が所有している建物であっても、その建物を事業用の店舗等に利用していたり、投資用として他人に賃借していたりするような場合には、住宅資金特別条項を利用することはできません。
よく問題となるのは単身赴任の場合です。
再生債務者が単身赴任している場合、そのご家族は自宅建物に居住していますが、再生債務者本人は自宅建物とは別の建物に居住しています。
そのため、その自宅建物は再生債務者が自己の居住の用に供している建物とはいえないようにも思えることから問題となります。
もっとも、単身赴任は一時的に住居を別にしているにすぎず、いつかは自宅建物に戻ることが予定されています。
そのため、単身赴任の場合でも、その戻ることが予定されている自宅建物を再生債務者が自己の居住の用に供している建物として扱い、住宅資金特別条項の利用を認めるのが一般的でしょう。
床面積の2分の1以上の部分が自己居住専用であること
住宅資金貸付債権における「住宅」は、再生債務者が所有する居住の用に供している建物であっても、その建物の床面積の2分の1以上の部分が専ら自己の居住の用に供されていることが必要です。
したがって、建物の2分の1以上が、例えば、事業の店舗や事業所に利用されていたり、他人に賃借しているようなものである場合には、住宅資金特別条項の利用は認められないことになります。
また、いわゆる親や子ども世代と一緒に暮らす二世帯住宅の場合も、各世代の住居部分が明確に分離され、しかも家計が別になっているような場合には、この自己居住専用面積の要件が問題となることがあります。
「住宅」に該当する建物が複数ある場合
前記までに述べてきた要件を充たした建物でなければ、住宅資金貸付債権における「住宅」とはいえません。
もっとも、あまり例は多くないかもしれませんが、この住宅資金貸付債権における「住宅」が複数存在する場合もあり得るでしょう。
ただし、その場合でも、住宅資金特別条項を利用できるのは、その複数ある建物のうちで、再生債務者の方が主として居住の用に供する建物1つだけです。すべての建物を「住宅」として扱うことはできません。