
住宅資金貸付債権における「住宅」は、再生債務者が所有しているものである必要がありますが、単独所有に限られません。共有名義であっても「住宅」に該当します。したがって、共有名義の住宅でも、個人再生の住宅資金特別条項を利用することは可能です。
住宅資金特別条項における「住宅」
民事再生法 第196条
- この章、第12章及び第13章において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
- 第1号 住宅 個人である再生債務者が所有し、自己の居住の用に供する建物であって、その床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら自己の居住の用に供されるものをいう。ただし、当該建物が2以上ある場合には、これらの建物のうち、再生債務者が主として居住の用に供する1の建物に限る。
個人再生には「住宅資金特別条項(住宅ローン特則)」と呼ばれる制度が用意されています。
住宅資金特別条項を定めた再生計画が認可されると、住宅ローンなどの「住宅資金貸付債権」だけは約定どおりまたは若干リスケジュールして返済を継続しつつ、他の再生債権については減額・分割払いにしてもらうことができます。
住宅資金特別条項を利用できれば、住宅ローンだけは減額されずに支払っていくことができるため、住宅ローンの残っている自宅は処分されずに済み、しかも、住宅ローン以外の債務は減額・分割払いにしてもらうことにより、債務整理をすることができるのです。
ただし、住宅資金特別条項の対象となる「住宅」は、単に人が住んでいる建物というだけの意味ではなく、以下の要件を満たす建物でなければなりません(民事再生法196条1号)。
- 個人である再生債務者が所有している建物であること
- 再生債務者が自己の居住の用に供している建物であること
- 床面積の2分の1以上の部分が専ら自己の居住の用に供されていること
共有名義の住宅でも住宅資金特別条項の利用は可能
上記のとおり、住宅資金特別条項の対象となる「住宅」は、再生債務者の「所有」でなければなりません。しかし、所有していればよく、「単独所有」でなければならないとは定められていません。
「共有」であっても、所有をしていることに変わりありませんから、共有住宅も、他の要件を満たせば、住宅資金特別条項の対象となる「住宅」に該当します。
この場合、共有持分の割合は関係がありません。再生債務者の持分がわずかしかない場合でも、「住宅」に該当します。
したがって、共有名義の住宅でも、住宅資金特別条項を利用することは可能です。
ペアローンの場合の問題点
上記のとおり、共有名義の住宅でも、住宅資金特別条項を利用することが可能です。
ただし、共有名義住宅の場合でも、問題となる事案はあります。よくあるものが「ペアローン」の場合でしょう。
ペアローンとは、夫婦等が住宅を共有し、それぞれの持分に応じて各自個別に住宅ローンを組み、その各自の住宅ローンを担保するために共有住宅全体に抵当権を設定している場合のことをいいます。
ペアローンの場合、夫婦等のそれぞれの持分にそれぞれ他方の住宅ローンを担保するための抵当権も設定されているため、住宅資金貸付債権でない債権を担保するための担保権が住宅に設定されていることになり、住宅資金特別条項を利用できないのが原則です。
もっとも、ペアローンでは住宅資金特別条項を利用できないとしてしまうと、住宅資金特別条項の趣旨が失われてしまうおそれがあります。
そこで、東京地方裁判所などでは、ペアローンの場合であっても、ペアローン借主である夫婦等がともに個人再生を申し立てたときには、夫婦等の双方について住宅資金特別条項の適用を認めるという運用をとっています。
なお、事案によっては、ペアローンの双方ではなく、一方のみが個人再生を申し立てた場合でも、住宅資金特別条項の適用を認められることもあります。