
住宅資金特別条項の対象となる住宅資金貸付債権は、「民法第500条の規定により住宅資金貸付債権を有する者に代位した再生債権者が当該代位により有するものを除く」ものとされています(民事再生法198条1項)。
そのため、住宅ローンの保証会社が代位弁済した後は、住宅資金特別条項を利用できなくなるのが原則です。
もっとも、保証会社が住宅資金貸付債権の保証債務を履行(代位弁済)した場合であっても、その保証債務の全部を履行(代位弁済)した日から6か月を経過する日までの間に再生手続開始の申立てがされたときは、再生計画に住宅資金特別条項を定めることができるとされています(民事再生法198条2項)。これを「巻戻し」と呼んでいます。
この住宅資金特別条項を定めた再生計画が裁判所によって認可されると、保証会社が代位弁済した保証債務の履行はなかったものとみなされます(民事再生法204条1項本文)。
住宅資金特別条項における巻戻しとは
民事再生法 第198条
- 第1項 住宅資金貸付債権(民法第499条の規定により住宅資金貸付債権を有する者に代位した再生債権者(弁済をするについて正当な利益を有していた者に限る。)が当該代位により有するものを除く。)については、再生計画において、住宅資金特別条項を定めることができる。ただし、住宅の上に第53条第1項に規定する担保権(第196条第3号に規定する抵当権を除く。)が存するとき、又は住宅以外の不動産にも同号に規定する抵当権が設定されている場合において当該不動産の上に同項に規定する担保権で当該抵当権に後れるものが存するときは、この限りでない。
- 第2項 保証会社が住宅資金貸付債権に係る保証債務を履行した場合において、当該保証債務の全部を履行した日から6月を経過する日までの間に再生手続開始の申立てがされたときは、第204条第1項本文の規定により住宅資金貸付債権を有することとなる者の権利について、住宅資金特別条項を定めることができる。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。
<第3項省略>
個人再生には、住宅ローンなどの住宅資金貸付債権は約定どおりまたは若干リスケジュールして弁済を継続することにより、住宅ローンの残っている自宅を処分しないで住宅ローン以外の債務だけ整理することができる「住宅資金特別条項」という制度が設けられています。
もっとも、住宅資金特別条項の対象となる住宅資金貸付債権は、「民法第499条の規定により住宅資金貸付債権を有する者に代位した再生債権者(弁済をするについて正当な利益を有していた者に限る。)が当該代位により有するものを除く」ものとされています(民事再生法198条1項)。
最も典型的な例は、住宅ローン等を滞納した場合に、住宅ローンの保証会社が住宅ローン会社に対して代位弁済をした場合です。
保証会社が代位弁済をすると、弁済による代位(法定代位。民法500条)の効果が生じ、住宅ローン債権は住宅ローン会社から保証会社に移ります。
そして、その保証会社に移った債権に基づいて、その保証会社が、住宅ローン会社に代わって、債務者に対して住宅ローンの支払いを請求してくることになります。
しかし、法定代位により保証会社に移った債権は「民法第499条の規定により住宅資金貸付債権を有する者に代位した再生債権者(弁済をするについて正当な利益を有していた者に限る。)が当該代位により有するもの」に当たります。
したがって、保証会社が代位弁済した後は、住宅資金特別条項を利用できなくなるのが原則です。
もっとも、住宅ローンを組む際、その住宅ローンに保証会社をつけるのが通常です。
そのため、保証会社の代位弁済後は住宅資金特別条項を利用できなくなるとすると、住宅資金特別条項の利用がかなり限定されてしまい、債務者の生活の本拠地を確保して経済的更生を図ろうとした制度の趣旨を十分に達成できません。
そこで、保証会社が住宅資金貸付債権の保証債務を履行(代位弁済)した場合であっても、その保証債務の全部を履行(代位弁済)した日から6か月を経過する日までの間に再生手続開始の申立てがされたときは、再生計画に住宅資金特別条項を定めることができるとされています(民事再生法198条2項)。
これを「巻戻し」と呼んでいます。
巻戻しの要件
住宅資金特別条項について「巻戻し」が認められるためには、保証会社が住宅資金貸付債権の保証債務の全額を代位弁済した日から6か月を経過する日までの間に、再生手続開始の申立てをする必要があります。
代位弁済の主体は、単なる保証人や連帯保証人であるだけはなく、保証を業とする「保証会社」でなければなりません。
したがって、保証会社でない親族や知人などの保証人が代位弁済をした場合には、巻戻しは認められません。
巻戻しが認められるためには、この保証会社が保証債務の全額を代位弁済した日から6か月を経過する日までの間に、再生手続開始の申立てをすることが必要です。
再生手続開始の申立てといえるためには、申立てが裁判所によって受理されたということです。申立てが受理されていなければ申立てをしたと言えませんので、注意を要します。
また、代位弁済の日から6か月を経過する日までの間に再生手続開始の申立てをしなければなりません。1日でも遅れれば、もはや巻戻しは認められなくなってしまいます。
したがって、巻戻しをしようという場合には、代位弁済がされたのはいつなのかの正確な年月日を確認しておく必要があります。
巻戻しの効果
民事再生法 第204条
- 第1項 住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可の決定が確定した場合において、保証会社が住宅資金貸付債権に係る保証債務を履行していたときは、当該保証債務の履行は、なかったものとみなす。ただし、保証会社が当該保証債務を履行したことにより取得した権利に基づき再生債権者としてした行為に影響を及ぼさない。
- 第2項 前項本文の場合において、当該認可の決定の確定前に再生債務者が保証会社に対して同項の保証債務に係る求償権についての弁済をしていたときは、再生債務者は、同項本文の規定により住宅資金貸付債権を有することとなった者に対して、当該弁済をした額につき当該住宅資金貸付債権についての弁済をすることを要しない。この場合において、保証会社は、当該弁済を受けた額を同項本文の規定により住宅資金貸付債権を有することとなった者に対して交付しなければならない。
前記の巻戻しの要件を充たした再生手続開始の申立てを行い、住宅資金特別条項を定めた再生計画が裁判所によって認可されると、保証会社が代位弁済した保証債務の履行はなかったものとみなされます(民事再生法204条1項本文)。
保証会社の代位弁済がなかったことになるというのは、保証会社の求償権が遡及的に消滅し、保証会社が弁済による代位で取得した住宅ローン債権が住宅ローン会社に復帰し、保証会社には保証債務が復活するということです。
巻戻しにより、住宅ローンは住宅ローン会社に復帰しますので、「民法第500条の規定により住宅資金貸付債権を有する者に代位した再生債権者が当該代位により有する」ものではなくなります。それにより、再び、住宅資金特別条項を利用することができるようになるのです。
ただし、巻戻しがあっても、保証会社が保証債務の履行によって取得した権利に基づき再生債権者としてした行為には影響を及ぼしません(民事再生法204条1項ただし書き)。
なお、再生計画認可決定確定前に、再生債務者が保証会社に対してした弁済の効力は維持されます(民事再生法204条2項)。
したがって、その保証会社に弁済した分を、重ねて住宅ローン会社に弁済する必要はありません。
この場合、保証会社は、受領した弁済分を、住宅ローン会社に交付しなければならないとされています。