
個人再生においては、再生手続開始時の再生債権の総額が5000万円を超えていないことが要件とされています(民事再生法221条1項、239条1項)。この要件を「5000万円要件」と呼んでいます。
したがって、再生債権の総額(債務者側からみれば債務額)が5000万円を超えている場合には、個人再生を利用できません。
ただし、5000万円要件の判断における再生債権の総額には、住宅資金特別条項を利用する場合の住宅資金貸付債権(住宅ローン等)、別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権の額および再生手続開始前の罰金等の額は含まれませんので、それらを除いた金額が5000万円を超えているかどうかが問題となります。
また、税金や国民健康保険料など公租公課はそもそも再生債権ではないので、5000万円要件の判断においてカウントされません。
個人再生における5000万円要件
民事再生法 第221条
- 第1項 個人である債務者のうち、将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあり、かつ、再生債権の総額(住宅資金貸付債権の額、別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権の額及び再生手続開始前の罰金等の額を除く。)が5000万円を超えないものは、この節に規定する特則の適用を受ける再生手続(以下「小規模個人再生」という。)を行うことを求めることができる。
民事再生法 第239条
- 第1項 第221条第1項に規定する債務者のうち、給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者であって、かつ、その額の変動の幅が小さいと見込まれるものは、この節に規定する特則の適用を受ける再生手続(以下「給与所得者等再生」という。)を行うことを求めることができる。
民事再生の手続を個人にも利用しやすいように、手続を簡素化して、費用や手続の負担を抑えたものが、いわゆる「個人再生(個人民事再生)」の手続です。
具体的に言うと、個人再生手続は、通常の民事再生の特則として、民事再生法第13章「小規模個人再生及び給与所得者等再生に関する特則」に定められています。
この個人再生は、再生債権の総額が5000万円を超える場合には利用できません。この要件を「5000万円要件」と呼んでいます(民事再生法221条1項、239条1項)。
5000万円を超えるような高額な債権についても、簡易化された個人再生手続で減額等ができるとしてしまうと、債権者に不利益を被らせるおそれがあるからです。
したがって、個人再生を選択しようという場合には、事前に、再生債権の総額が5000万円を超えているか否かを調査しておく必要があります。
5000万円要件の判断においてカウントされる債権
前記のとおり、再生債権額が5000万円を超える場合には、個人再生を利用することができなくなります。
再生債権とは、再生手続開始前の原因に基づいて発生した請求権のことをいいます。5000万円要件をクリアしているかどうかは、この再生債権の再生手続開始決定時における金額で判断されます。
再生債権として典型的なものは、銀行やサラ金などの貸金債権(債務者の側からみれば借入金債務)、要するに借金ですが、これだけに限られるわけではありません。
再生手続開始前の原因に基づいて発生した請求権であれば、再生債権に含まれます。
したがって、親族、知人、勤務先などからの借金も含まれますし、借入れ以外でも、未払いの立替金・代金・報酬・損害賠償金・保証債務などがあれば、それらの請求権も再生債権に該当します。
また、ここでいう再生債権額には、元本(元金)だけではなく、利息や遅延損害金も含まれます。
元本だけでは5000万円を超えないとしても、再生手続開始決定時までに利息や遅延損害金が増えて、5000万円を超えてしまっていることがあるので注意が必要です。
ただし、住宅資金特別条項を利用する場合の住宅資金貸付債権の金額、別除権付き債権については別除権行使によって弁済を受けることが見込まれる金額、罰金等の請求権の金額については、5000万円要件の判断においてカウントされません(民事再生法221条1項、239条1項)。
また、税金や国民健康保険料などの公租公課債権は、再生債権ではなく一般優先債権ですから、5000万円要件の判断においてカウントされません。
5000万円要件の判断の時期
再生債権の額が5000万円を超えているかどうかは、再生手続の開始時点だけでなく、再生計画を認可するかどうかを判断する時点まで、再生手続の始めから終わりまでを継続的に審査されます。
再生手続開始の判断をする際に、再生債権額が5000万円を超えている場合には、個人再生手続は開始されず、再生手続開始の申立ては棄却されます。
再生手続の途中や再生計画の認可を判断する際にも、5000万円要件は審査されます。
ただし、審査するのはあくまで「再生手続開始決定時に再生債権の総額が5000万円を超えていたかどうか」です。手続の途中や認可決定時における再生債権総額が5000万円を超えているかどうかを審査するものではありません。
再生手続開始時点では正確な債権額が判明していなかったものの、その後に正確な債権額が判明し、開始時の額が実は5000万円を超えていたことが後から判明するような場合があることから、再生手続開始後も審査されるのです。
再生計画の認可を判断する際に再生債権額が5000万円を超えていたことが明かになった場合には、再生計画不認可事由があるものとして、再生計画が不認可となってしまいます。
再生債権額が5000万円を超えている場合
再生手続開始の時点で再生債権額が5000万円を超えている場合、個人再生の手続をとることはできません。しかし、通常の民事再生手続を利用することはできます。
したがって、再生債権額が5000万円を超えている場合には、通常の民事再生を行うことになります。
ただし、通常の民事再生手続はかなりの費用が掛かります。実際問題として、個人の債務整理において通常の民事再生を選択することはまれでしょう。