この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

個人再生においては、自己破産と異なり、自動車を強制的に換価処分されることはありません。したがって、自動車を保有したまま個人再生をすることも可能です。ただし、清算価値保障原則により、自動車の価値は清算価値に計上されます。
また、自動車のローンが残っており、所有権留保が設定されている場合には、信販会社等によって自動車を引き揚げられてしまう可能性があります。
個人再生における自動車の取扱い
地方在住ですと自動車が無ければ移動もままならない場合がありますし、個人事業などで自動車が必須ということもあるでしょう。
そのため、債務整理をした場合、自動車を処分しなければならないのかどうかは重要な問題になることがあります。
自己破産の場合、自由財産を除く財産は処分が必要です。したがって、自動車も処分しなければならないのが原則です(ただし、東京地方裁判所や大阪地方裁判所など多くの裁判所では、査定額合計額が20万円以下の自動車は自由財産として扱われています。)。
これに対して、個人再生の場合は、自己破産と異なり、財産の処分をしなければならないわけではありません。したがって、自動車を処分しなくてもよいのが原則です。
ただし、個人再生には、再生計画における弁済率が破産における場合の配当率以上でなければならないとする清算価値保障原則があります。
そのため、処分はしなくてもよいものの、自動車の価値によっては、返済総額が高額になってしまうこともあり得ます。
また、ローンで自動車を購入していた場合、ローンが残っていると、所有権留保の実行により、自動車を自動車ローンの信販会社に引き揚げられてしまう可能性もあります。
以下では、ローンの残っていない場合とローンの残っている場合とに分けて説明します。
ローンの残っていない自動車
前記のとおり、個人再生においては、財産・資産を強制的に換価処分されてしまうことはありません。したがって、個人再生をしたとしても、自動車を処分せずに済みます。
ただし、個人再生には、再生計画における弁済率が破産における場合の配当率以上でなければならないとする清算価値保障原則があります。
自動車も財産です。しかも、ローンがそもそも無い、または、完済してすでにローンが残っていない自動車の場合は、その価値(査定額)の全額が清算価値として計上されます。
したがって、自動車の価値(査定額)が高額な場合、清算価値も高額となり、再生計画に基づく返済総額(計画弁済総額)が大きくなってしまうことはあり得るでしょう。
計画弁済総額が高額になってしまうと、再生計画を遂行できる見込みがないと判断され、認可を得られなくなるおそれが生じます。
普通乗用自動車の場合、数年も乗っていればあまり査定額はつかないことが多いかもしれませんが、高級車やトラックなどはそれなりの査定額がつくこともあります。
また、清算価値の額は、自動車だけではなく、他の財産の価額との合計額ですから、自動車にそれほど価値がつかないとしても、他の財産価額と合わせると高額になる場合もあります。
自動車を保有しておくとしても、査定額は事前に確認しておく必要があります。
なお、東京地方裁判所などでは、自己破産において査定額合計額が20万円以下の自動車は換価対象外とされていることから、個人再生においても、査定額合計額が20万円以下の自動車は清算価値に計上しなくてもよいとされています。
ローンの残っている自動車
自動車をローンで購入する場合、そのローンの担保として、自動車に所有権留保が設定されていることがあります。
所有権留保とは、売買契約において、売買代金の完済前に売主が買主に目的物を引き渡しつつも、その所有権は売買代金完済まで売主に留保し、この留保所有権をもって、売買代金の担保とするという担保形態のことをいいます。
所有権留保が設定されていない自動車であれば、個人再生を申し立てたとしても、自動車ローンの信販会社によって引き揚げられることはありません。
前記のローンの残っていない自動車と同様、清算価値保障原則の問題が生じるだけです。
これに対して、所有権留保が設定されている場合、弁護士が受任通知を送付して支払いを停止したり、または、個人再生の手続が開始されると、留保所有権を有する信販会社から自動車の引渡しを求められます。
信販会社からの自動車引渡請求に応じなければならないか否かは、再生手続開始前か後か、その信販会社が対抗要件を具備しているか、販売会社・信販会社との契約はどのような内容になっているかによって異なってきます。
信販会社からの引渡請求に応じなければならない場合、その自動車は信販会社によって引き揚げられます。引き揚げられた自動車は換価され、自動車ローンの残額に充当されます。
つまり、個人再生手続において処分されてしまうわけではなく、ローン会社によって自動車が回収されることによって自動車を失うことになってしまうのです。
信販会社による引き揚げに応じるべきか否かの判断
自動車ローンの信販会社からの自動車の引き揚げの請求に応じなければならない場合とは、その信販会社が所有権留保における留保所有権を有している場合です。
個人再生手続開始「後」の場合
個人再生の手続が開始された場合、再生債務者は、自己破産における破産管財人と同様、第三者としてに扱われます。
そのため、信販会社が再生債務者に対して所有権留保を主張するためには、対抗要件を具備していなければなりません。
普通乗用自動車などの場合の対抗要件は自動車登録です。これに対し、軽自動車の場合は、引渡しが対抗要件となります。信販会社がこれらの対抗要件を具備していない場合には、引き揚げの請求を拒むことができます。
ここで問題となるのが、自動車検査証における所有者登録が自動車ローンの信販会社ではなく、自動車販売会社になっている場合です。
この場合に、所有権者として登録されていない信販会社からの引渡し請求に応じなければならないかどうかは、契約の内容がどうなっているのかによって異なってきます。
この点について、信販会社が販売会社に対して売買代金を立替払いし、信販会社の購入者に対する売買代金の求償債権や立替払いの手数料債権などを担保するために、自動車の所有権を信販会社に留保するという内容の契約であった事案において、最高裁判所は、所有権者として登録されていない信販会社からの引渡し請求を認めない、と判示しました(最二小判平成22年6月4日)。
他方、破産の事案ですが、販売会社の売買代金債権を担保するために、自動車の所有権が販売会社に留保され、この売買代金債権を信販会社が連帯保証するという内容の契約に基づき、信販会社が、この保証債務を履行して留保所有権を法定代位により取得したと主張した事案においては、最高裁判所は、所有権者として登録されていない信販会社からの引渡し請求を認める、と判示しました(最一小判平成29年12月7日)。
このように契約内容によって、信販会社からの引き揚げ請求を認めるか認めないかの結論がまったく異なってきます。契約内容の確認が必要となってくるのです。
なお、上記平成29年判決以降、各自動車ローン会社は平成29年判決に沿った内容に契約書を変更しているため、平成29年判決以降に組まれた自動車ローンの場合、信販会社からの引渡請求が認められるのが大半でしょう。
個人再生手続開始「前」の場合
個人再生手続の開始前においては、債務者に第三者性は認められず、あくまで契約当事者です。
したがって、信販会社が留保所有権について対抗要件を具備していない場合でも、引き揚げの請求に応じなければならないのが原則です。
ただし、安易に引き揚げ要求に応じてしまうと、個人再生手続の開始後に否認対象行為として扱われ、その否認対象行為の額が清算価値に加算されてしまう可能性があります。
手続開始「前」に引き揚げに応じるか否かも、前記の個人再生手続開始「後」において引き揚げに応じなければならない場合か否かと同様に、契約内容等を検討する必要があるでしょう。
自動車の引き揚げを回避する方法
前記のとおり、個人再生をする場合、所有権留保が設定されたローンが残っているときは、自動車を引き揚げられてしまう可能性があります。
これを回避する方法として最も単純な方法は、ローンを全額完済してしまうことです。
しかし、他の債務は支払いをせずに、ローンだけ完済してしまうと偏頗弁済となり、否認権対象行為として扱われ、支払った金額がそのまま清算価値に計上されてしまうことがあります。
そこで、親族など第三者に第三者弁済をしてもらうか、または、ローンを引き継いでもらうという方法が考えられるでしょう。
ただし、当然、その第三者の資産で支払ってもらわなければなりません。形だけ第三者の支払いとしつつ、実際には自分で支払うような場合には、やはり否認対象行為として扱われるでしょう。
もう1つ、自動車ローンの信販会社と別除権協定を締結した上で、裁判所の許可を得て金銭を支払い、所有権留保を外してもらうという方法もあります。
ただし、別除権協定をして支払いができるのは、ローン残額全額ではなく、自動車の価額(査定額)であると解されているので、査定額がローン残額に達しない場合には、信販会社が協定に応じてくれない可能性があります。
また、単に通勤に必要であるから等の理由では、別除権協定を締結することについて裁判所の許可を得られないこともあります。
いずれの方法も一長一短があり、容易ではないということは認識しておく必要があるでしょう。
カーリースしている自動車
上記ローンで購入した自動車のほか、カーリースによってリースしている自動車もあるでしょう。
リースはあくまで借りているに過ぎません。したがって、個人再生をすると、リースしている自動車は、リース会社によって引き揚げられるのが原則です。
もっとも、個人事業者で事業のために必要不可欠と言えるような場合には、リース会社と別除権協定を締結することによって、リースしている自動車を残せる場合はあります。
ただし、この場合も、自動車の価値を限度として協定を締結できるに過ぎないのが原則であるため、容易ではないことには注意が必要です。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
弁護士の探し方
「個人再生をしたいけど、どの弁護士に頼めばいいのか分からない」
という人は多いのではないでしょうか。
現在では、多くの法律事務所が個人再生を含む債務整理を取り扱っています。そのため、インターネットで探せば、個人再生を取り扱っている弁護士はいくらでも見つかります。
しかし、インターネットの情報だけでは、分からないことも多いでしょう。やはり、実際に一度相談をしてみて、自分に合う弁護士なのかどうかを見極めるのが一番確実です。
債務整理の相談はほとんどの法律事務所で「無料相談」です。むしろ、有料の事務所の方が珍しいくらいでしょう。複数の事務所に相談したとしても、相談料はかかりません。
そこで、面倒かもしれませんが、何件か相談をしてみましょう。そして、相談した複数の弁護士を比較・検討して、より自分に合う弁護士を選択するのが、後悔のない選び方ではないでしょうか。
ちなみに、個人再生の場合、事務所の大小はほとんど関係ありません。事務所が大きいか小さいかではなく、どの弁護士が担当してくれるのかが重要です。
弁護士法人ひばり法律事務所
・相談無料(無料回数制限なし)
・全国対応・依頼後の出張可
・所在地:東京都墨田区
レ・ナシオン法律事務所
・相談無料
・全国対応・メール相談可・LINE相談可
・所在地:東京都渋谷区
弁護士法人東京ロータス法律事務所
・相談無料(無料回数制限なし)
・全国対応・休日対応・メール相談可
・所在地:東京都台東区
参考書籍
本サイトでも個人再生について解説していますが、より深く知りたい方のために、個人再生の参考書籍を紹介します。
個人再生の実務Q&A120問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
個人再生を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、個人再生実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。
個人再生の手引(第2版)
編著:鹿子木康 出版:判例タイムズ社
東京地裁民事20部(倒産部)の裁判官および裁判所書記官・弁護士らによる実務書。東京地裁の運用が中心ですが、地域にかかわらず参考になります。
破産・民事再生の実務(第4版)民事再生・個人再生編
編集:永谷典雄ほか 出版:きんざい
東京地裁民事20部(倒産部)の裁判官・裁判所書記官による実務書。東京地裁の運用を中心に、民事再生(通常再生)・個人再生の実務全般について解説されています。
はい6民です お答えします 倒産実務Q&A
編集:川畑正文ほか 出版:大阪弁護士協同組合
6民とは、大阪地裁第6民事部(倒産部)のことです。大阪地裁の破産・再生手続の運用について、Q&A形式でまとめられています。
書式 個人再生の実務(全訂6版)申立てから手続終了までの書式と理論
編集:個人再生実務研究会 出版:民事法研究会
東京地裁・大阪地裁の運用を中心に、個人再生の手続に必要となる各種書式を掲載しています。書式を通じて個人再生手続をイメージしやすくなります。