この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

債務整理の方法には、主に任意整理・個人再生・自己破産の3つの方法があります。このうち任意整理と個人再生は、いずれも返済を継続しながら借金を整理していくという方法ですが、任意整理は裁判外の手続である一方、個人再生は裁判手続であることから、いくつかの違いもあります。
任意整理と個人再生
債務整理には,主に任意整理・個人再生・自己破産の3つの方法があります。
このうち,任意整理とは,弁護士や司法書士が債務者に代わって,裁判外で債権者と交渉し,生活を維持できるような返済計画等に変更してもらうという手続です。
他方,個人再生は,裁判手続です。裁判所に個人再生を申し立て,再生計画案を策定して裁判所に提出し,裁判所によってその再生計画を認可する決定がなされれば,その再生計画に従って支払いをしていけばよくなるという手続です。
任意整理は裁判外での手続ですが,個人再生は裁判所による裁判手続です。そのため,柔軟性という点では任意整理の方が上ですが,強制力があるのは個人再生の方です。
また,任意整理と個人再生はともに返済を継続していくことを前提とする手続ですが,減額が見込めるのは,任意整理よりも個人再生でしょう。
ただし,個人再生の場合には,法律要件を充たしていなければ利用することができません。これに対し,任意整理には,個人再生ほどの厳格な要件は必要とされません。
任意整理・個人再生と自己破産
前記のとおり,債務整理には,任意整理と個人再生のほか,自己破産の手続もあります。
自己破産は債務の全部の支払い義務を免れることが可能ですが,任意整理と個人再生は,返済を継続しながら経済的更生を図っていくという手続です。
返済を継続していくといっても,もちろん債務整理をする前の返済条件のまま支払っていくわけではなく,生活を破たんさせない程度の返済条件を新たに組み直して返済をしていくということになります。
自己破産の場合,債務の支払い義務が免責されるという大きな効果がある反面,一定の財産処分が必要であり,資格制限などの制約もあります。また,免責不許可事由がある場合には,免責が許可されないという可能性もあり得ます。
そのため,処分できない財産がある場合,資格を使って仕事をしている場合,免責が不許可となることが見込まれるような免責不許可事由がある場合などには,任意整理や個人再生を選択する必要がでてきます。
もっとも,任意整理も個人再生も,返済をしていくことが前提です。したがって,いずれの場合であっても,継続した返済が可能である程度の収入やその安定性が求められることになります。
利用条件(要件)の違い
任意整理と個人再生は,前記のとおり,返済を継続しながら経済的な更生を図っていくという点で共通していますが,もちろん違いもあります。
最大の違いは,任意整理が裁判外の交渉によって返済条件の変更を図る手続であるのに対し,個人再生はあくまで裁判によって返済条件を変更する手続であるという点です。
そのため,個人再生の場合には,厳格な法律上の要件を満たしていなければ利用することができません。
例えば、個人再生の場合、債務額が5000万円を超えないことが必要であり、継続的・反復的で、かつ、再生計画を遂行できるだけの収入がなければ利用できません(給与所得者等再生の場合は、さらに定期的で変動の少ない収入でなければなりません。)。
もちろん、要件は上記のものだけではありません。個人再生の要件は、同じ裁判手続である自己破産と比べてもかなり複雑です。誰でも利用できるというような手続はありません。
これに対し,任意整理はあくまで裁判外の交渉ですから、特別な法的要件は必要ありません。返済能力があれば、誰でも利用が可能です。
したがって、利用条件(要件)の面からみると、任意整理の方が個人再生よりも債務者に有利と言えます。
法的制限の有無の違い
個人再生は裁判手続です。そのため、自己破産ほどではないにしても、何らの制約もないわけではありません。前記のとおり利用のための要件が厳しいことのほかに,官報に公告されること,手続が複雑であることなどの制約はあります。
他方,裁判外の交渉である任意整理には,上記のような制約はありません。
法的制限の有無の点でみると、任意整理の方が個人再生よりも債務者にとって有利と言えます。
成功した場合の効果の違い
個人再生の場合、要件が厳格であり、法的な制限もある反面、大幅な減額が可能な場合があります。
大幅な減額とは,単に引き直し計算の結果として払い過ぎた利息を差し引いた金額になるというだけでなく,その引き直し計算の結果に基づく金額から,さらに大幅な減額が可能となります。
債権額や状況にもよりますが,最大で(引き直し計算後の金額の)10分の1の減額が可能となる場合もあります。また、減額の上、3年から5年間の分割払いにしてもらえます。
これに対し,任意整理の場合にも,もちろん引き直し計算による減額は認められることになります。しかし,それを超える減額というのは,実際問題としてなかなか難しいものもあります。
また、任意整理の場合、分割の回数は、3年間36回が基本です。36回払いを超える回数にできる場合もありますが、あくまで交渉であるため、個人再生と異なり、相手方次第のところはあります。
したがって,返済の負担という点でみれば,任意整理よりも個人再生の方が債務者にとって有利となることは間違いありません。
財産の取扱いに関する違い
前記のとおり、個人再生(個人民事再生)も任意整理も、財産の処分が必須ではありません。財産を処分せずに債務整理が可能です。
もっとも、個人再生では、もし自己破産をしていたら、財産を処分して配当されていたであろう金額と同額以上の返済をしなければならないとされています(清算価値保障原則)。
したがって、個人再生では、財産の処分は不要であるものの、財産の価額が減額率に関わってきます。
他方、任意整理には、清算価値保障原則はありませんので、財産価額は返済額に影響しないのが通常です。
手続の進行に関する違い
個人再生と任意整理とでは、手続の遂行面でも違いがあります。
個人再生は裁判手続ですから、法律の定めに従って手続を履践していかなければいけません。しかも、再生手続はかなり複雑です。また、期間も、1年近くを要します。
他方、任意整理はあくまで交渉ですから、煩雑な手続はありません。債権を調査し、相手方と話がつけば合意を取り交わします。話がスムーズに進めば、調査含めて期間は3か月前後でしょう。
手続の面からみると、任意整理の方が、個人再生よりもはるかに負担は小さいでしょう。
任意整理と個人再生の比較
このようにみてみると,任意整理と個人再生には,それぞれ一長一短があります。
任意整理は、法的制限が少なく、財産の処分も必須ではなく、利用しやすく柔軟性のある手続です。しかし、その反面、借金返済の負担は軽減するものの、大きな減額等はできません。デメリットが小さい分、メリットもそれほど大きくはないと言えます。
他方、個人再生は、要件が厳しく、法的制限もあります。しかし、その反面、大幅な借金の減額が可能な場合もあり、返済の負担はかなり小さくできます。デメリットが大きい分、メリットも大きいのです。
とはいえ、どちらを選択すべきかまたは選択できるかは,個々の事情によって異なります。まずは、弁護士や司法書士に相談することをお勧めします。
弁護士の探し方
「任意整理と個人再生のどちらを選べばいいのか分からない」
このような場合、自分で調べて判断するのは、得策ではありません。弁護士に相談した方がよいことは間違いないでしょう。
現在では、多くの法律事務所が任意整理・個人再生を含む債務整理を取り扱っています。そのため、インターネットで探せば、自己破産と個人再生を取り扱っている弁護士はいくらでも見つかります。
しかし、インターネットの情報だけでは、分からないことも多いでしょう。やはり、実際に一度相談をしてみて、自分に合う弁護士なのかどうかを見極めるのが一番確実です。
債務整理の相談はほとんどの法律事務所で「無料相談」です。むしろ、有料の事務所の方が珍しいくらいでしょう。複数の事務所に相談したとしても、相談料はかかりません。
そこで、面倒かもしれませんが、何件か相談をしてみましょう。そして、相談した複数の弁護士を比較・検討して、より自分に合う弁護士を選択するのが、後悔のない選び方ではないでしょうか。
ちなみに、任意整理や個人再生の場合、事務所の大小はほとんど関係ありません。事務所が大きいか小さいかではなく、どの弁護士が担当してくれるのかが重要です。
弁護士法人ひばり法律事務所
・相談無料(無料回数制限なし)
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・所在地:東京都墨田区
レ・ナシオン法律事務所
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弁護士法人東京ロータス法律事務所
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参考書籍
本サイトでも任意整理や個人再生について解説していますが、より深く知りたい方のために、債務整理の参考書籍を紹介します。
クレジット・サラ金処理の手引き(6訂版)
編著・出版:東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会
東京の3弁護士会による債務整理・クレサラ事件処理全般についての実務書。債務整理全般を1冊でまとめている実務書は意外と少ないので、債務整理を知るにはちょうど良い本です。
クレジット・サラ金の任意整理実務Q&A
著者:柄澤昌樹 出版:青林書院
任意整理に関する実務書。Q&A形式なので問題点を理解しやすい。任意整理をメインとする実務書は多くないのでおすすめできる書籍ですが、古い本なのでアップデートが必要です。
個人再生の実務Q&A120問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
個人再生を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、個人再生実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。
個人再生の手引(第2版)
編著:鹿子木康 出版:判例タイムズ社
東京地裁民事20部(倒産部)の裁判官および裁判所書記官・弁護士らによる実務書。東京地裁の運用が中心ですが、地域にかかわらず参考になります。
はい6民です お答えします 倒産実務Q&A
編集:川畑正文ほか 出版:大阪弁護士協同組合
6民とは、大阪地裁第6民事部(倒産部)のことです。大阪地裁の破産・再生手続の運用について、Q&A形式でまとめられています。