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特定調停をすると給料差押えなどの強制執行が停止するのか?

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

特定調停の画像
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特定調停には、給料差押えなどの強制執行を停止させられる制度があります。ただし、特定調停の申立てとは別に民事執行停止の申立てをする必要があります。

特定調停における直接取立ての停止

特定調停の申立てをすると、裁判所から相手方債権者に対して特定調停を開始する旨の通知がなされます。

貸金業法や債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)には、貸金業者や債権回収会社(サービサー)が、裁判所から上記の通知によって債務者に直接請求しないように求められた後に債務者に対して直接取立てをすると、行政処分や刑罰を受けることが規定されています。

そのため、相手方が貸金業者やサービサーである場合には、特定調停の申立てをすればほぼ確実に取り立ては止まります。また、相手方が貸金業者やサービサーでない場合であっても、裁判所からの通知を受ければ取立てを停止してくれるのが通常です。

もっとも、特定調停のメリットは、ただ取立てを止められるだけではありません。特定調停には、さらに、民事執行停止の制度があるという大きなメリットもあります。

以下では、特定調停における民事執行停止制度について説明します。

特定調停における強制執行の停止

特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律 第7条

  • 第1項 特定調停に係る事件の係属する裁判所は、事件を特定調停によって解決することが相当であると認める場合において、特定調停の成立を不能にし若しくは著しく困難にするおそれがあるとき、又は特定調停の円滑な進行を妨げるおそれがあるときは、申立てにより、特定調停が終了するまでの間、担保を立てさせて、又は立てさせないで、特定調停の目的となった権利に関する民事執行の手続の停止を命ずることができる。ただし、給料、賃金、賞与、退職手当及び退職年金並びにこれらの性質を有する給与に係る債権に基づく民事執行の手続については、この限りでない。
  • 第2項 前項の裁判所は、同項の規定により民事執行の手続の停止を命じた場合において、必要があると認めるときは、申立てにより、担保を立てさせて、又は立てさせないで、その続行を命ずることができる。
  • 第3項 前二項の申立てをするには、その理由を疎明しなければならない。
  • 第4項 第1項及び第2項の規定による決定に対しては、即時抗告をすることができる。
  • 第5項 民事訴訟法(平成8年法律第109号)第76条、第77条、第79条及び第80条の規定は、第1項及び第2項の担保について準用する。

債務者が借金などの債務を滞納した場合、債権者は、債務名義に基づいて債務者の財産を差し押さえるなどの強制執行を行うことができます。

代表的な債務名義は、債務についての公正証書や判決書です。その他にも裁判上の和解書や支払督促による仮執行宣言付督促状なども債務名義となります。

判決書は、裁判を提起して勝訴判決を得なければ取得することはできませんし、裁判上の和解書も裁判をしなければなりませんが、公正証書はお金を払えば公証役場で容易に作成することができます。

いずれにしろ、ともかくこれらの債務名義を債権者が持っていれば、債務者が滞納した後、債務者の財産を強制執行することができるわけです。

もっとも、強制執行をされると、債務整理自体が困難になってしまう場合があります。

例えば、給料を差し押さえられてしまうと、分割でもいいから支払いをしたいと思っていてもできなくなってしまいます。また、住居として利用している不動産を競売にかけられてしまうと、住居を失ってしまうことになります。

こうなると、経済的更生を図ることすら困難になってしまいます。

そこで、特定調停の手続においては、民事執行停止制度が用意されています。文字どおり、特定調停の手続中は強制執行などの民事執行手続を停止させることができる制度です(特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律7条。以下「特定調停法」と言います。)

特定調停における民事執行停止制度の利用条件(要件)

特定調停における民事執行停止制度を利用するためには、以下の利用条件(要件)を満たしていなければなりません(特定調停法7条)。

民事執行停止制度の要件
  • 特定調停の成立を不能・著しく困難にするおそれがある、または、特定調停の円滑な進行を妨げるおそれがあること
  • 特定調停申立てとは別に民事執行停止の申立てをすること
  • 担保の納付(個人の借金整理の場合はほとんど不要)
  • 労働債権に基づく民事執行手続でないこと

特定調停における民事執行停止制度は、その差押えなど民事執行がされていることによって、特定調停の成立が不能または著しく困難になるおそれがある場合か、円滑な進行を妨げるおそれがある場合でなければ利用できません。

もっとも、給料差押えなどがされていれば特定調停が成立しないおそれがあると言えるでしょうから、個人の借金整理として特定調停をする場合には、ほとんど要件を満たしていると判断されるでしょう。

また、個人の借金整理として特定調停をする場合は、担保を立てなければならないことはほとんどありません。借金整理ですから、労働債権に基づく民事執行かどうかも関係ありません。

したがって、個人の借金整理として特定調停をする場合に問題となるのは、民事執行停止の申立てをすることくらいでしょう。

民事執行停止の申立て・手続

前記のとおり、執行停止制度を利用するためには、単に特定調停の申立てをしただけでは足りません。特定調停の申立書とは別途、執行停止の申立てをしなければならないということです。

執行停止の申立ては、一定の形式を備えた申立書を提出して行います。この申立てが受理されると、裁判所から執行停止命令というものが発付され、強制執行等が停止されることになります。

そして、特定調停によって合意に至った場合には、停止されていた強制執行などは、取り下げられるか、または取り消されることになります。

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。

債務整理と特定調停で悩んでいる場合

特定調停は、弁護士などに依頼せずに行うことが可能です。特に、債務がそれほど大きくない場合には、特定調停を選択することも考えられます。

他方、債務が高額な場合には、自己破産や個人再生なども考えておかなければいけません。自己破産や個人再生の場合には、弁護士に相談・依頼する必要があります。

まずは、債務整理について相談をしてみた上で、特定調停にするのか債務整理にするのかを選択した方がよいでしょう。

今どきは、ほとんどの法律事務所で債務整理の相談は無料相談です。むしろ有料のところを探す方が難しいくらいです。無料ですので、とりあえず相談してみてから考えるのが得策です。

レ・ナシオン法律事務所
・相談無料
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・所在地:東京都渋谷区

弁護士法人東京ロータス法律事務所
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・所在地:東京都台東区

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・相談無料(無料回数制限なし)
・全国対応・依頼後の出張可
・所在地:東京都墨田区

参考書籍

本サイトでも特定調停について解説していますが、より深く知りたい方のために、債務整理や特定調停の参考書籍を紹介します。

特定調停法逐条的概説
編集:濱田芳貴 出版:民事法研究会
特定調停法の逐条解説。かなり詳細に書かれているため、実務家向けです。個人の債務整理だけでなく、事業再生にも対応しています。

クレジット・サラ金処理の手引き(6訂版)
編著・出版:東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会
東京の三弁護士会による債務整理・クレサラ事件処理全般についての実務書。債務整理全般を1冊でまとめている実務書は意外と少ないので、債務整理を知るにはちょうど良い本です。

中小企業再生のための特定調停手続の新運用の実務
編集:日弁連中小企業法律支援センター 出版:商事法務
記事本文の内容と異なりますが一応紹介。特定調停の手続は、個人の債務整理だけでなく、中小企業の事業再生・私的整理の一環として利用されることも増えています。

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