
債務整理の各手続(任意整理・自己破産・個人再生)に共通するデメリット・リスクとして,信用情報に事故情報として登録されることが挙げられます。いわゆる「ブラックリスト」に登録されるということです。
その他に,債務整理共通のデメリット・リスクとしては,事案によりますが,債務整理をしていることを家族・友人・勤務先等に知られる可能性があること,保証人・連帯保証人がついている債務について債務整理をすると,その保証人・連帯保証人に請求が行く場合があること,クレジット・ローンで購入した物品を引き揚げられてしまう可能性があることなどが挙げられます。
債務整理共通のデメリット・リスク
借金返済の問題の法的解決方法のことを,総称して債務整理と呼びます。債務整理には,自己破産・個人再生・任意整理・過払い金返還請求などの手段があります。
しかし,債務整理は,債権者に負担を強いることも事実です。債権者の協力なくして債務整理を行うことはできません。
公平の観点からすれば,ある程度,債務者側にも負担が生じるものでなければ,債権者の理解や協力を得ることはできないでしょう。
そのため,債務整理をする場合,債務者側にもいくつかのデメリットが生じることがあります。
したがって,債務整理をするにあたっては,そのデメリットや生じるリスクについても十分に理解しておく必要があります。
債務整理には,自己破産・個人再生・任意整理といった各手続がありますが,これらはそれぞれデメリットやリスクも異なってきます。
しかし,これらの債務整理手続すべてに共通するデメリットやリスクもあります。
ブラックリスト(信用情報)への登録
債務整理をすることによって生じるデメリット・リスクとして代表的なものは,信用情報機関(JICC,CIC,KSC)の信用情報に事故情報(ブラックリスト)として登録されることでしょう。
債務整理をするということは,少なくとも,約定どおりの返済ができなかったということです。したがって,金銭的な面において,債権者からの信用を失うことは避けられないでしょう。
金融機関は,貸付・融資に際して,その相手方の金銭面での信用を調査していますが,その与信調査の方法として,信用情報機関に登録してある信用情報を利用しています。
信用情報機関とは,金銭面での信用性に関する情報を蓄積する機関です。
現在では,貸金業者等はこの信用情報機関に必ず加盟しなければならないことになっています。貸金業者だけでなく,銀行等やローン会社も含め多くの金融機関がこの信用情報機関に会員として参加しています。
信用情報機関は,各会員からの情報提供をもとにして,個人の信用情報を蓄積しています。
例えば,どれだけの借入れをしているのか,滞納をしたことはないか,債務整理手続をしたことはないかなどの情報がこの機関に集約されているということです。
この信用情報機関に参加している金融機関は,信用情報機関から,取引の相手方となる個人の信用情報を取得することができます。そして,それをもとに融資や貸付を行うかどうかを判断しているのです。
この信用情報には,事故情報と呼ばれる情報があります。つまり,滞納や債務整理をしたことがあるなどといった,約定どおりの返済ができなかったという金銭面での信用を疑わせるような情報です。
この信用情報における事故情報のことを「ブラックリスト」と呼ぶことがあります。
債務整理をすると,このブラックリストに登録されることになります。
そして,ブラックリストに登録されると,新規の貸付けや融資の審査がほとんど通らなくなってしまうので,新規で融資・貸付を受けることが非常に困難になります。
また,同様に,クレジットでのショッピングやローンを組むことなども非常に困難になります。
したがって,弁護士等を介入させて債務整理を行った場合,このブラックリストに登録され,以後しばらくの間は借入れやカードでの買い物,あるいはローンを組んで何かを買うということはできなくなるという覚悟が必要となります。
もっとも,今後借入れ等ができないことと,支払いきれない借金を抱えて不安な毎日を過ごしていくこととを比べれば,どちらが自分にとって良いことなのかは,歴然だと思います。
また,借金返済で苦しんできたのですから,借金ができなくなるということは,生活を立て直すチャンスともいえますので,デメリット・リスクとして捉えるかどうかは考え方一つであるともいえます。
むしろ,自分で借入れをすることを自制しきれない人などは,強制的に借入れができなくない状態になったことを喜ばれることがあるくらいです。
なお,過払い金返還請求をした場合には,ブラックリストに登録されることはありません。あくまで,借金の残高がある場合に債務整理をしたときに,ブラックリストに登録されるということです。
闇金からの勧誘に注意
上記のとおり,債務整理をすると借入れができなくなります。ヤミ金は,そこにつけ込んできます。つまり,債務整理をしているので,普通の金融機関からは借りれないかもしれないけれど,うちならお金を貸してあげますよ,と勧誘してくるのです。
自己破産や個人再生の場合には,債務者の氏名・住所が官報に掲載されるので,それで氏名・住所を調べて,ダイレクトメールなどを送りつけてくる場合が多いです。
また,雑誌などに「債務整理後でも貸します」などと書いている場合もあります。ネットでもそういうサイトがあるようです。
この誘いには絶対に乗らないで下さい。せっかく債務整理をしているのにすべてが無になってしまうおそれがあります。また,平穏な生活を破壊される危険性もあります。くれぐれも気をつけましょう。
保証人に影響を及ぼす可能性があること
債務者の方ご自身のことではありませんが,債務整理をすることによって生じるデメリット・リスクの1つとして,保証人・連帯保証人に影響を及ぼす可能性があることが挙げられます。
主たる債務者が債務整理をして支払いを停止すると,期限の利益が失われるのが通常です。期限の利益が失われるというのは,要するに,分割払いの約束がなくなり,債権者は一括請求できるようになるということです。
保証人・連帯保証人が付けられている債務について債務整理した場合,債権者は,債務者に代わって,その保証人・連帯保証人に対して支払いの請求をします。
そして,その保証人・連帯保証人に対する請求は,債務残額の一括請求となるのが原則です。
ただし,債権者によっては,一括請求ではなく,従前と同じ分割払いでよい,としてくれる場合もあります。例えば,奨学金の債権者(日本学生支援機構など)は,分割払いでの請求の対応をしてくれます。
また,保証人・連帯保証人に対して一括請求はしたものの,分割払いの話し合いには応じてくれるというところも少なくありません。
とはいえ,保証人・連帯保証人に対して請求されてしまうことに変わりありません。
任意整理であれば,保証人・連帯保証人が付けられている債務だけ外すことが可能ですが,自己破産や個人再生の場合は,保証人・連帯保証人が付けられている債務だけ外すことはできません。
したがって,特に自己破産や個人再生をする場合には,あらかじめ,保証人や連帯保証人に事情を説明しておいた方がよいかもしれません。
クレジット・ローンで購入した物品を失う可能性
債務整理をすることによって生じるデメリット・リスクの1つとして,クレジットカードやローンで購入した物品を失う可能性があることが挙げられます。
クレジットやローンで物品を購入した場合,その物品について所有権留保が設定されるのが通常です。
そのため,クレジットやローンの支払いがなされなかった場合,債権者であるクレジット会社やローン会社は,所有権留保を実行し,物品の返還を求めることができます。
物品の返還を受けたクレジット会社やローン会社は,その物品を売却して債務の残高に充当することができます。
物品購入のクレジットやローンの債務について債務整理をした場合も,債権者によって所有権留保が実行され,物品の返還を求められることになります。
例えば,オートローン(自動車ローン)を債務整理すると,所有権留保を実行され,自動車を引き揚げられてしまいます。
ただし,自己破産の場合には,破産管財人に自動車を引き継いで,破産管財人から返還してもらうこともあります。また,個人再生の場合には,契約内容によっては,自動車を引き揚げられないこともあります。
いずれにしても,クレジットやローンで物品を購入し,その債務の支払いが終わっていない場合には,物品を返還しなければならなくなる可能性があることは考慮に入れておく必要があります。
ただし,どのような物品でも返還を求められるわけではありません。返還を受けても売却する価値が無いようなものや,回収に大きなコストがかかるようなものは,引き揚げられないこともあります。
家族・同居人に知られる可能性
常に生じるものではありませんが,債務整理をすることによって生じるデメリット・リスクの1つとして,債務整理をしていることを家族や同居人に知られる可能性があることも挙げられるでしょう。
債務整理をしたことを,できれば家族や同居人に知られたくないと思うのは当然のことです。
債務整理をしたからといって,当然に,家族や同居人に債務整理をしたことが通知されてしまうようなことはありません。したがって,原則で言えば,知られる可能性は低いということになるでしょう。
しかし,絶対に知られないようにできる,とまでは言えません。
自己破産や個人再生の場合(任意整理にはありません。)は,自己破産や個人再生をしたことが官報に掲載されます。それを見られてしまえば,自己破産や個人再生をしていることは知れてしまいます。
また,官報以外にも,以下のような場合には,家族や勤務先などに知られてしまう可能性があります。
- 家族や同居人から借金をしているなど,家族や勤務先も債権者である場合
- 家族や同居人の人が保証人や連帯保証人となっている債務について債務整理をする場合
- 家族や同居人にお金を貸しているなど,家族や勤務先に請求権を持っている場合
- 債権者から訴訟などを提起された場合
任意整理の場合は,家族や同居人の債権や保証人・連帯保証人がいる債権を外して,それ以外の債権だけ整理することが可能ですが,自己破産や個人再生の場合は,一部の債権者だけ外すことは許されていません。
したがって,家族や同居人等が債権者の場合,裁判所から自己破産や個人再生の通知が,債権者である家族や勤務先等に送付されます。それによって債務整理をしていることを知られてしまうことになります。
保証人や連帯保証人がいる債務について債務整理をすると,債権者が保証人や連帯保証人に対して支払いを請求することになります。したがって,それによって知られてしまう可能性があります。
また,特に自己破産の場合ですが,家族や同居人などに請求権を持っている場合,破産管財人がその家族や同居人に請求をすることになります。それによって自己破産していることを知られてしまう可能性があります。
さらに,債権者から訴訟を提起されてしまうと,自宅に訴状が届けられます。それを家族や同居人などに見られ,それによって,借金があることや,場合によっては債務整理していることを知られる可能性があります。
このように,任意整理であれば,比較的,他人に知られる可能性は低くなるでしょうが,それでもゼロとまでは言えないでしょう。
また,上記のほかでも,同居している家族などには,債務整理関連の書類を見られるなど何かの拍子で知られてしまう可能性はあります。
勤務先会社や知人などに知られる可能性
家族や同居人ほどではありませんが,勤務先の会社や知人などにも知られる可能性はあり得ます。これも債務整理をすることによって生じるデメリット・リスクの1つと言えるでしょう。
債務整理をしたからといって,当然に,勤務先の会社や知人に債務整理をしたことが通知されてしまうようなことはありません。したがって,原則で言えば,知られる可能性は低いということになるでしょう。
しかし,絶対に知られないようにできる,とまでは言えません。
自己破産や個人再生の場合(任意整理にはありません。)は,自己破産や個人再生をしたことが官報に掲載されます。それを見られてしまえば,自己破産や個人再生をしていることは知れてしまいます。
また,官報以外にも,以下のような場合には,勤務先会社や知人などに知られてしまう可能性があります。
- 勤務先会社や知人から借金をしているなど,家族や勤務先も債権者である場合
- 勤務先会社や知人が保証人や連帯保証人となっている債務について債務整理をする場合
- 勤務先会社や知人にお金を貸しているなど,家族や勤務先に請求権を持っている場合
- 債権者から給料差押えをされた場合
任意整理の場合は,勤務先会社や知人の債権や保証人・連帯保証人がいる債権を外して,それ以外の債権だけ整理することが可能ですが,自己破産や個人再生の場合は,一部の債権者だけ外すことは許されていません。
したがって,勤務先会社や知人等が債権者の場合,裁判所から自己破産や個人再生の通知が,債権者である家族や勤務先等に送付されます。それによって債務整理をしていることを知られてしまうことになります。
保証人や連帯保証人がいる債務について債務整理をすると,債権者が保証人や連帯保証人に対して支払いを請求することになります。したがって,それによって知られてしまう可能性があります。
また,特に自己破産の場合ですが,勤務先会社や知人などに請求権を持っている場合,破産管財人がその家族や勤務先に請求をすることになります。それにより自己破産していることを知られてしまう可能性があります。
さらに,債権者から訴訟を提起されて判決をとられてしまうと,債権者は給料の差押えができるようになります。
給料差押えがされると,勤務先会社に裁判所から差押えされた旨の通知が届けられ,それによって,借金があることや,場合によっては債務整理していることを知られる可能性があります。
このように,任意整理であれば,比較的,他人に知られる可能性は低くなるでしょうが,それでもゼロとまでは言えないでしょう。
知人に知られる可能性は低いでしょうが,勤務先会社については,特に,給料差押えによって知られることが多いでしょう。
個々の手続のデメリット・リスク
これまで述べてきたものは,債務整理全般に共通するデメリット・リスクですが,これら以外にも,個々の債務整理ごとにそれぞれ異なるデメリット・リスクがあります。
債務整理共通のデメリットやリスクだけでなく,自己破産・個人再生・任意整理にそれぞれ固有のデメリット・リスクも考慮に入れた上で,どの手続を選択すればよいのかを検討する必要があります。
自己破産に固有のデメリット・リスク
自己破産とは,裁判所に債務者自ら破産を申し立て,裁判所から免責を許可してもらうことにより,借金・債務の支払義務を免除してもらうという裁判手続です。
借金・債務の支払義務を免除してもらうというのは,要するに,借金・債務を支払わなくてもよくなるということです。債務整理の方法としては,最も強力な効果があります。
しかし,それだけにデメリットもあります。自己破産に固有のデメリット・リスクとしては,以下のようなものが挙げられます。
- 生活必需品等を除く財産を処分しなければならない
- 自己破産をしたことが官報に公告される
- 破産手続中は公的な資格を使った仕事ができなくなる
- 破産手続中は住居を自由に移転できなくなる
- 破産手続中は郵便物が破産管財人によって調査される
- 免責不許可になった場合には,自己破産したことが市町村役場に通知される
個人再生(個人民事再生)に固有のデメリット・リスク
個人再生は,裁判所に個人再生を申し立て,裁判所から借金の減額などを定めた再生計画を認可してもらうことにより,借金・債務の減額等を実現できるという裁判手続です。
個人再生の場合には,財産の処分が必須とされていません。財産を処分せずに大幅な減額や分割払いへの変更などを強制的に実現できるので,債務整理の方法として非常に有効です。
ただし,やはり個人再生にも一定のデメリットはあります。個人再生(個人民事再生)に固有のデメリット・リスクとしては,以下のようなものが挙げられます。
- 個人再生をしたことが官報に公告されること
- 利用のための要件が厳格であること
- 手続きが複雑なうえに自ら進めていかなければならないこと
- 返済を継続していかなければならないこと
任意整理に固有のデメリット・リスク
任意整理は,弁護士が代理人となって債権者と交渉し,返済条件を変更してもらう裁判外での手続です。裁判外の手続であるため,自己破産や個人再生よりも利用条件の制限がなく,柔軟な対応が可能となります。
ただし,デメリットがないわけではありません。任意整理に固有のデメリット・リスクとしては,以下のようなものが挙げられます。
- 返済を継続していかなければならないこと
- 返済額が高額になる場合があること
- 強制力がないため,任意整理困難な貸金業者などがいると失敗に終わる可能性があること