この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

委任者または受任者について破産手続が開始された場合、委任契約は、契約解除を待たずに、当然に終了します(民法653条2号)。
ただし、委任者について破産手続が開始した場合、受任者が、破産手続開始の通知を受けず、かつ、破産手続開始の事実を知らないで破産手続開始後に委任事務処理を遂行した場合には、その委任事務処理によって発生した報酬等の請求権は破産債権として権利行使できるとされています(破産法57条)。
委任契約とは
委任契約とは、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって効力を生じる契約のことをいいます(民法643条)。
破産申立ての法律行為の代理人となることを弁護士に依頼する場合などが、委任契約の典型です。
委任契約は、本来無償契約とされていますが、当事者間の合意によって有償契約とすることも可能です。業務として委任契約を締結する場合には、有償委任契約とするのが通常でしょう。
無償委任契約は受任者のみが義務を負う片務契約ですが、有償委任契約の場合には双務契約として扱われます。
破産手続の開始による委任契約の終了
民法 第653条
- 委任は、次に掲げる事由によって終了する。
- 第1号 委任者又は受任者の死亡
- 第2号 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。
- 第3号 受任者が後見開始の審判を受けたこと。
引用元:e-gov法令検索
委任契約の当事者である委任者または受任者のいずれかについて破産手続が開始された場合、当該委任契約は当然に終了します(民法653条2号)。
委任者が破産した場合でも、受任者が破産した場合でも、委任契約は、契約解除をせずとも、当然に終了になるのです。
通常の契約の場合、当事者の一方が破産手続を開始したとしても、その契約は当然に終了とはされず、契約解除されるまでは破産手続開始後も契約が存続します。
しかし、委任契約については、例外的に、当事者の一方が破産手続を開始すると、委任契約は当然に終了となるのです。
破産手続における委任契約の残務処理
前記のとおり、委任者または受任者のどちらかが破産手続を開始すれば、委任契約は当然に終了します。
したがって、委任契約を解除すべきか否かは問題になりません。破産手続においては、委任契約が終了した後の残務処理をどうするのかが問題となるだけです。
委任者が破産した場合
委任契約継続中に委任者が破産した場合、受任者は委任事務処理を終了して、破産管財人に預かっている物品などを引き渡すことになります。
破産手続開始までに終了している委任事務について報酬が発生している場合、受任者の報酬請求権は破産債権となります。
仮に、破産管財業務のためにその受任者に委任事務処理を継続してもらうことが必要となる場合には、破産管財人が、その受任者との間で、新たに委任契約を締結して委任事務処理を依頼することになります。
受任者が破産した場合
委任契約継続中に受任者が破産した場合、破産管財人は、委任者に対して委任者から受任者(破産者)が預かっていた物を返還することになります。
破産者がすでに一定の委任事務処理を終了しており、その分の報酬請求権が発生している場合には、破産管財人はその報酬の支払いを委任者に求め、回収した報酬は破産財団に組み入れられます。
破産手続開始後に受任者が委任事務処理をした場合
民法 第655条
- 委任の終了事由は、これを相手方に通知したとき、又は相手方がこれを知っていたときでなければ、これをもってその相手方に対抗することができない。
引用元:e-gov法令検索
破産法 第57条
- 委任者について破産手続が開始された場合において、受任者は、民法第655条の規定による破産手続開始の通知を受けず、かつ、破産手続開始の事実を知らないで委任事務を処理したときは、これによって生じた債権について、破産債権者としてその権利を行使することができる。
引用元:e-gov法令検索
前記のとおり、委任者または受任者のいずれかが破産手続を開始すると委任契約は当然に終了します。
したがって、委任者が破産手続を開始した後に、受任者がそのことを知らずに委任事務処理を遂行したとしても、契約が終了している以上、破産手続開始後の委任事務処理について報酬は発生しないのが原則のはずです。
しかし、委任契約の終了を知らずに委任事務処理をしたにもかかわらず、何らの権利行使も認めないというのは受任者に酷です。
そこで、民法655条は、委任の終了事由があった場合でも、そのことを相手方に通知した場合か、または、相手方が終了事由があったことを知っていた場合でなければ、相手方に対して委任の終了を対抗できないと定めています。
この民法655条を受けて、破産法57条は、受任者が、破産手続開始の通知を受けず、かつ、破産手続開始の事実を知らないで、破産手続開始後に委任事務処理を行った場合には、これによって生じた債権は破産債権となることを定めています。
したがって、委任者が破産手続を開始した場合であっても、破産手続開始の通知を受けておらず、かつ、破産手続開始の事実を知らずに、破産手続開始後に委任事務処理を遂行していたときは、その受任者は、委任事務処理によって生じた報酬請求権を、破産債権者として権利行使できます。
破産手続開始によっても委任契約が終了しない場合
前記のとおり、委任者または受任者のいずれかが破産手続を開始すると委任契約は当然に終了するのが原則です。
もっとも、委任契約の当事者間で、当事者の一方について破産手続の開始があった場合でも委任契約は終了しないとする特約を委任契約に付することは可能であると解されています。
※ただし、委任者が破産した場合でも委任契約終了しないとする特約の有効性については、無効とする見解も有力です。
この破産手続開始によっても委任契約は終了しない旨の特約がある場合には、例外的に、当事者の一方について破産手続開始があったとしても、委任契約は終了しないことになります。
この場合には、無償委任契約であれば通常の片務契約と同様に、有償委任契約であれば双方未履行双務契約として処理されることになります。


会社が破産した場合の取締役の地位
会社とその会社の取締役との間には、会社経営を任せる旨の委任契約関係(または委任類似の契約関係)があります(会社法330条)。
そうすると、会社について破産手続が開始された場合、会社と取締役との委任関係も終了するはずです。
しかし、最高裁判所は、「有限会社の破産宣告当時に取締役の地位にあった者は、破産宣告によっては取締役の地位を当然には失わず、社員総会の招集等の会社組織に係る行為等については、取締役としての権限を行使し得ると解されるから、上記「取締役」に該当すると解するのが相当である」として、会社の破産手続開始決定(判決当時は「破産宣告」と呼ばれていました。)によっても取締役の地位は失われないと判示しています(最一小判平成16年6月10日)。
したがって、会社について破産手続が開始されても、その会社の取締役との間の委任関係は終了せず、取締役は破産会社の取締役としての地位を有するものと解されています。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
破産法と資格試験
倒産法の基本法が破産法です。破産以外の民事再生法などの倒産法を理解するためにも、破産法を理解しておく必要があります。
この破産法は、司法試験(本試験)や司法試験予備試験の試験科目になっています。分量が多い上に、かなり実務的な科目であるため、イメージも持ちにくい部分があります。
ただし、出題範囲は限られています。そのため、出題範囲に絞って効率的に勉強することが必要です。そのために、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。
STUDYing(スタディング)
・司法試験・予備試験も対応
・スマホ・PC・タブレットで学べるオンライン講座
・有料受講者数20万人以上・低価格を実現
参考書籍
破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、破産法の参考書籍を紹介します。
破産法・民事再生法(第6版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。
条解破産法(第3版)
著者:伊藤 眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。
破産・民事再生の実務(第4版)民事再生・個人再生編
編集:永谷典雄ほか 出版:きんざい
東京地裁民事20部(倒産部)の現役裁判官による破産実務の解説書。東京地裁の破産事件を扱う実務家必携の本。実務家でなくても、実際の手続運用を知っておくと、破産法をイメージしやすくなるでしょう。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
倒産法(LEGAL QUEST)
著者:杉本和士ほか 出版:有斐閣
法科大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた基本書・概説書。破産法だけでなく、倒産法全般について分かりやすくまとめられています。
倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。
倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。


