
破産手続開始の申立権者は、債権者・債務者・準債務者(法人の理事・会社の取締役・清算人など)ですが、これらの申立権者には、破産手続開始の申立てをしなければならない義務はないのが原則です。
ただし、清算中の法人・会社の清算人は、当該法人・会社の債務超過が明らかになった場合には破産手続開始を申し立てなければならない義務を課されます。また、一定の特殊な公益性の高い法人・会社の理事・取締役も、破産申立義務者とされることがあります。
破産手続開始の申立義務
破産手続は、裁判所の破産手続開始決定によって開始されます(破産法30条1項)が、裁判所に破産手続開始決定を出してもらうためには、破産手続開始の申立てをしなければなりません。
この破産手続開始の申立ては、誰にでもできるわけではなく、破産法上、一定の者だけがすることができるとされています。この破産手続開始申立てをすることができる者のことを「破産申立権者」と呼んでいます。
具体的に言うと、破産申立権者は、債権者、債務者および準債務者(法人の理事、会社の取締役、清算人等)です(なお、例外的に監督官庁が申立権者となることがあります。)。
申立権とは、つまり、破産手続開始の申立てをする権利または権能があるということです。
それでは、これらの申立権者は、申立てをする権利または権能があるというだけではなく、法人・会社が支払不能または債務超過に陥った場合、破産手続開始の申立てを必ずしなければならないのでしょうか?
破産手続開始について申立義務があるのか、という問題です。
債権者・債務者・監督官庁の場合
前記のとおり、法人・会社の債権者・債務者・監督官庁は、破産手続開始の申立権者とされています。
これらの申立権者は、破産手続開始を申し立てることができる権利を持っています。
しかし、権利を持っているといって、支払不能または債務超過になったとしても、必ず破産手続開始の申立てをしなければならない義務はありません。
債権者が破産手続開始の申立てをするには、債務者の財産状況や負債の調査など、かなりの労力を割かなければなりませんし、また、安くない破産手続のための費用も負担しなければなりません。
債権者に破産申立義務を負わせると、すでに債権を満足に回収できない状態でなってしまっているところに、さらに上記のような多大なコストの支払いを強制することになり、債権者に著しい負担を課すことになります。
また、債務者である法人・会社自身に破産申立義務を課すと、再建の可能性を途絶してしまうおそれがあります。
監督官庁による申立てはあくまで例外的な申立てですから、その申立権の行使は抑制的であるべきです。また、監督官庁に申立義務を認めてしまうと、行政によって債務者の経済的再建の可能性を阻んでしまうことになり不当です。
そのため、債権者・債務者・監督官庁については、破産申立義務は認められていないのです。
準債務者の場合
前記のとおり、法人・会社の理事・取締役や清算中の会社等の清算人(一般社団法人・一般財団法人の清算人、清算株式会社・清算持分会社の清算人)は、準債務者として、破産手続開始の申立権者とされています。
仮に法人・会社が支払不能・債務超過になったとしても,そこから経済的な再建を図るための努力をすることによって支払不能や債務超過の状況から脱し,事業の再建を図ることができるかもしれません。
ところが,理事や取締役に破産申立義務を課してしまうと,そのような努力をして再建を図ることができなくなってしまいます。
そのため,理事や取締役には,破産申立義務が課されていないのが原則とされているのです。
ただし、準債務者の場合、例外的に、破産申立義務が課される場合があります。
取締役・理事に破産申立義務が課される場合
公益性の高い法人・会社の場合,それらの法人や会社が支払不能または債務超過になったままにしておくと,通常の法人・会社の場合よりも多くの人々に不利益を生じさせてしまうおそれがあります。
そこで,公益性の高い特殊な法人・会社については,例外的に,その理事や取締役に対して破産申立義務が課されている場合があります。
例えば,私立学校法人や金融商品会員制法人などについては,その理事・取締役に破産申立義務が課されています(私立学校法50条の2第2項,金融商品取引法100条の7第2項)。
清算人に破産申立義務が課される場合
清算中の法人・会社について,清算手続中に債務超過であることが明らかになった場合,清算手続を進めていくことは困難です。無理に清算手続を進めていくと,かえって債権者に損失を与えるおそれがあります。
そこで,清算中の法人・会社の清算人は,当該清算中の法人・会社について債務超過であることが明らかになった場合には,破産手続開始の申立てをしなければならない義務を負うものとされています。
なお,清算中の法人・会社について支払不能であることが明らかになった場合でも,債務超過であることが明らかでない場合には,破産申立義務は課されません。
また,当該清算中の法人・会社について債務超過が明らかとまでは言えないが,債務超過のおそれはあるという段階の場合には,破産手続開始の申立義務は課されませんが,特別清算開始の申立てをする義務はあるとされています。