
自己破産をすると自宅不動産は処分されてしまいますから、住宅ローンの残っている自宅を処分せずに借金を整理をする方法としては、任意整理と個人再生が考えられることになります。
しかし、任意整理の場合はそれほどの減額は期待できません。しかも、住宅ローンを対象にして任意整理をすると、住宅を競売にかけられてしまう可能性もあります。
住宅ローンの残っている自宅を処分せずに借金を整理をする方法としては、個人再生における住宅資金特別条項を利用する方法が最も有効で確実でしょう。
住宅ローンの仕組み
住宅ローンの残っている自宅を処分せずに、住宅ローン以外の借金を整理する方法を検討する前に、まずは、住宅ローンの簡単な仕組みについて考える必要があります。
住宅ローンは、住宅(及びその宅地)を購入するために銀行などから金銭を借入れ、それを20年や30年などのかなり長期の分割払いで支払っていくというものです。
しかし、不動産購入費用ですから、金額はかなりの高額になります。また、かなり長期の分割ですから、貸す側にしてみると、貸し倒れのリスクも小さくありません。
そこで、住宅ローンを組む場合には、その住宅ローンで借り入れた金銭により購入した不動産に抵当権を設定するのが通常です。というよりも、必ず設定されるといってよいでしょう。
「抵当権を設定する」とは、要するに、不動産を担保にしておくということです。
抵当権を設定をしておけば、仮に住宅ローンの支払いが滞った場合でも、銀行などの住宅ローン会社は、その抵当不動産を競売にかけるなどして優先的に返済を受けることができます。
住宅ローンの残っている自宅をどうするか
住宅ローン以外にも借金がある場合、これらの借金を債務整理しなければならない状態に陥ることは、少なくありません。
この場合に自己破産をすると、破産者の財産は換価処分されます。当然、所有している不動産も換価処分されることになります。こればかりはやむを得ないことです。
しかし、不動産のうちでも、居住している「自宅」「マイホーム」は、他の財産と同様の、単なる財産として捉えるのは妥当ではありません。
生活の本拠として債務者の方の生活の基盤となっているといってよいからです。無論、思い入れも他の財産の比ではありません。
また、自宅を残すことができれば、引っ越しなども必要なくなります。生活を安定させておくこともできますから、かえって債務者の経済的更生に資するでしょう。
しかし、前記のとおり、住宅ローンで購入した自宅には、抵当権が設定されています。したがって、住宅ローンの支払いが止まると、抵当権が実行されて自宅は競売にかけられ、最終的に自宅を失うことになります。
住宅ローン会社としては、抵当権という強力な担保権を有していることから、あまりに大きな返済条件の変更には応じてくれないという可能性もあります。
そこで、住宅ローンとそれ以外の借金を整理しようという場合、住宅ローンについては、できる限り従前どおりに、あるいは多少のリスケをしながら支払い、それ以外の借金を債務整理するという方法をとるのが現実的と言えるでしょう。
任意整理の利用
任意整理とは、弁護士等が債務者の代わりに債権者と交渉し、借金の減額や返済条件の変更をしてもらう裁判外の手続です。
任意整理によって、住宅ローンも含めた借金の整理が可能であれば、その方法を選択できます。
しかし、前記のとおり、住宅ローン会社は抵当権を持っています。不動産を競売にかければある程度の回収は可能となりますから、住宅ローン会社側からすると、無理に任意整理に応じる必要性がありません。
そのため、任意整理の場合、住宅ローンそのものについて大幅な条件変更は難しいことが少なくありません。減額にいたっては、ほとんど応じてもらえないでしょう。
したがって、任意整理の場合には、住宅ローンは外して、それ以外の債務についてのみ交渉をしていく方法をとることになるのが通常です。
住宅ローン以外の借金を任意整理することで、住宅ローンはこれまでどおり支払いつつ、それ以外の借金も支払っていけるようになるのであれば、何も問題はありません。
しかし、住宅ローン以外の借金についても、それなりに長期の分割払いにしてもらえることはありますが、借金総額の減額まで認めてもらえることはほとんどないのが現状です。
そのため、任意整理をしても、住宅ローンの通常返済をしながら、それ以外の借金を支払っていくことは難しいということも生じる可能性があります。その場合には、別の方法を考えなければなりません。
個人再生の住宅資金特別条項を利用する方法
自己破産を選択すれば自宅は失われ、かといって任意整理も難しいということになると、マイホームは諦めるほかない、と考えてしまうのも無理はありません。
しかし、前記のとおり、不動産のうちでも自宅は単なる財産とはいえないような価値を持っています。簡単にあきらめることはできないというのが人情でしょう。
そこで、債務者の方の経済的更生のため、自宅・マイホームをできる限り残しつつ借金を整理できるように、個人再生手続には「住宅資金特別条項(住宅ローン特則)」という特殊な制度が用意されています。
この制度は、個人再生をしていても、住宅ローンだけは特別に、従前どおり又は多少のリスケをしながら返済を続けてよいとされています(ただし、住宅ローン会社の承諾は必要です。)。
従前どおり又は多少のリスケをして返済を継続していくことができるため、住宅ローン会社による抵当権の実行を回避できます。つまり、自宅を競売にかけられることがなくなります。
その上で、住宅ローン以外の借金については、個人再生手続に従って大幅に減額され、しかも長期の分割払いにしてもらえます。
この個人再生における住宅資金特別条項の制度は、住宅ローンの残っている自宅・マイホームを処分せずにその他の借金を整理する方法として、非常に有力な方法といってよいでしょう。
自宅・マイホームを処分せずに債務整理をしたいと考えている場合には、この個人再生の住宅資金特別条項を利用することも選択肢に入れておくべきでしょう。