この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

支払不能等に陥った債務者自身が破産手続開始を申し立てることを「自己破産申立て」といい、支払不能等に陥った法人の理事・会社の取締役等が個人名義で法人・会社の破産手続開始を申し立てることを「準自己破産申立て」といいます。
また、債権者が支払不能等に陥った債務者の破産手続の開始を申し立てることを「債権者破産申立て)」と呼んでいます。
破産手続開始の申立権者
破産手続を利用するためには、まず裁判所に対して破産手続の開始を申し立てる必要があります。
もっとも、誰でも破産手続開始を申し立てることができるわけではなく、誰が申立てができるのかは破産法などの法律で定められています。破産手続開始を申し立てできる権利を有する者のことを「破産申立権者」といいます。
破産法上、破産手続開始の申立権を有するとされるのは、「債権者」「債務者」「準債務者」などです(破産法18条、19条)。
準債務者は、法人が債務者の場合における「法人の理事」「会社の取締役」などのことです。
このように破産手続開始の申立権者は法定されていますが、誰が申立てをするのかによって、事件名の呼称が「自己破産申立て」「準自己破産申立て」「債権者破産申立て」と区別される場合があります。
また、申立者が誰かによって、裁判費用なども異なってきます。
自己破産申立て
破産手続というと「自己破産」を思い浮かべる方が多いと思います。実際、最も多い類型は、やはりこの自己破産申立てです。個人破産でも法人破産でも、大半が自己破産申立てによるものです。
自己破産とは、支払不能(法人破産の場合は、支払不能または債務超過)に陥った債務者自身が破産手続の開始を申し立てることをいいます。債務者が自己の破産を申し立てるから「自己破産」なのです。
法人破産においては、取締役会や理事会などの決議に基づいて、その法人・会社自身が破産手続開始の申立人となる場合を自己破産申立てと言います。
準自己破産申立て
前記のとおり、法人・会社が自己破産する場合には、取締役会等の決議に基づいて、その法人・会社自身が申立人となって破産手続開始の申立てをするのが通常です。
もっとも、一部の取締役等に反対者がいるために、自己破産をする旨の決議ができない場合や、そもそも一部の取締役等が行方不明などで取締役会等を開催すること自体もできないという場合、または代表取締役が行方不明で代表者をたてられないという場合もあり得ます。
そのような場合に備え、破産法では、その法人の理事や会社の役員が、理事会や取締役会の決議なしで、個人の名義で法人・会社の破産手続開始を申し立てることができるとされています。
この場合、申立人は、法人・会社自体ではなく、法人の理事や会社の役員個人ということになりますので、自己破産そのものではありません。
もっとも、法人・会社の内部者である理事や役員によるものであり、自己破産に準ずるものといえるため、「準自己破産」と呼ばれます。
かつては、株式会社において取締役が3名以上いることが必要的であったことから、数合わせのために名義だけ借りて取締役になってもらっていたものの、その後疎遠となり、その名目取締役の連絡先が分からないという事例が、意外とあります。
そのような場合には、自己破産申立てができないため、準自己破産申立てをすることがあります。
なお、準自己破産申立ての場合、申立人は理事や取締役など個人ですが、破産者はあくまで法人・会社です。理事や取締役個人が破産するわけではありません。
債権者破産申立て
前記のように、破産というと自己破産のイメージが強いかもしれませんが、破産手続開始を申し立てることができるのは、債務者に限られません。債権者にも申立権が認められています。
債権者が破産手続開始を申し立てるというのは、つまり、債務者が支払不能に陥っているにかかわらず自己破産を申し立てない場合に、債権者がその債務者を強制的に破産させてしまうということです。
これを「債権者破産申立て」または「債権者による破産申立て」などと呼んでいます。
債権者破産申立ての場合には、当面の予納金をその債権者が負担しなければならず、しかもかなり高額となる場合もあります。
最終的に破産財団が集まれば返還されますが、絶対ではありません。返還するだけの破産財団が集まらなかった場合には、当然、返還されないことになります。
債権者としては、ただでさえ債務の支払いをしてもらえない上に、高額な予納金まで支払わなければならないというリスクを負うため、財産の回収見込みが薄いまたは低額である可能性の高い個人破産の場合には、よほどの場合でない限り、債権者破産申立てされることはありません。
他方、法人・会社の破産の場合には、もちろん自己破産ほど数は多くはないですが、債権者破産申立ても実際に行われています。
例えば、かつてよくあったのは、過払い金を支払わない貸金業者について、多数の過払い金債権者(弁護団)が債権者破産申立てを行う場合です。
参考書籍
破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、本記事「自己破産・準自己破産・債権者破産申立て」に関する参考書籍を紹介します。
破産法・民事再生法(第5版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。
条解破産法(第3版)
著者:伊藤 眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。
破産実務Q&A220問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
破産実務を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、破産実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。
倒産処理法入門(第6版)
著者:山本和彦 出版:有斐閣
倒産法の入門書。「入門」ではありますが、ボリュームはそれなりにあります。倒産法全体を把握するために利用する本です。
倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。