この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
- Q心裡留保(しんりりゅうほ)とは何?
- A
心裡留保とは、意思表示をした本人(表意者)が、真意ではないことを知りながら意思表示をすることです。心裡留保による意思表示は原則有効ですが、相手方に悪意または過失がある場合は無効となります。
このページでは、心裡留保について、わかりやすく説明します。
- 心裡留保とは
- 心裡留保の効力・第三者に対する効力
- 心裡留保の要件
- 身分行為の心裡留保
- 虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫との違い

心裡留保(しんりりゅうほ)とは
意思表示とは、一定の法律効果の発生を望む意思(効果意思)を外部に表示する行為のことです。
心裡留保とは、意思表示をした本人(表意者)が、真意ではないことを知りながら意思表示をすることを意味します(民法93条1項本文)。
簡単に言うと、「嘘の意思表示」をすることです。真意を心のうちに留保したまま意思表示をするため、心裡留保と呼ばれています。
この心裡留保による意思表示は、原則として「有効」です。
心裡留保の具体例
前記のとおり、心裡留保は、真意を隠して嘘の意思表示をすることです。
例えば、所有する不動産を売る気がないのに、「売ります」と相手方に意思表示するような場合です。逆に、買う気もないのに、「買います」と相手方に意思表示する場合も、心裡留保になります。
心裡留保の効力
民法 第93条
- 第1項 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
引用元:e-Gov法令検索
心裡留保は真意ではない意思表示であるものの、原則として「有効」になります。ただし、相手方が表意者の真意を知っているか、知らないことについて過失がある場合には「無効」となります(民法93条1項)。
原則:意思表示は有効
本来、真意でない意思表示は無効になるように思えます。
しかし、自ら嘘の意思表示をしている表意者を保護する必要がありません。むしろ、意思表示を信じた相手方を保護すべきです。
そこで、取引の安全を図るため、心裡留保による意思表示は、原則として「有効」になります(民法93条1項本文)。
例えば、売る気もないのに所有する不動産を「売ります」と意思表示し、相手方が過失なくその言葉を信じて「買います」と意思表示した場合、その売買契約は成立します。
売主としては本当は売る気がなかったとしても、売らざるを得なくなるのです。
例外:意思表示は無効
上記のとおり、心裡留保による意思表示は原則有効です。
ただし、心裡留保の相手方が、心裡留保であることを知っていた(悪意)か、または、知らないことに落ち度(過失)がある場合には、意思表示は無効になります(民法93条1項ただし書)。
心裡留保があっても意思表示が有効になるのは、相手方を保護するためです。しかし、心裡留保について悪意または過失がある相手方まで保護する必要はありません。
そのため、相手方が心裡留保について悪意または過失がある場合は、「真意を欠く意思表示は無効」の大原則に戻り、無効となるのです。
心裡留保の当事者間効力のまとめ
以上のとおり、心裡留保による意思表示は原則有効であるものの、相手方が悪意または過失がある場合は無効になります。つまり、以下のようになるのです。
| 相手方の主観 | 意思表示の効力 |
|---|---|
| 善意無過失 | 有効 |
| 善意だが過失あり | 無効 |
| 悪意 | 無効 |
心裡留保の無効を第三者に対抗できるか?
民法 第93条
- 第2項 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
引用元:e-Gov法令検索
前記のとおり、意思表示の相手方が心裡留保について悪意または過失がある場合、意思表示は無効になります。この場合、意思表示をした人(表意者)は、相手方に対して意思表示の無効を主張できます。
ただし、心裡留保による意思表示に基づいて法律関係に入った第三者がいる場合には、その第三者を保護して取引の安全を図る必要があります。
そこで、当事者間で意思表示が無効になる場合であっても、第三者が、心裡留保であることを知らない(善意)場合には、意思表示の無効を第三者に主張できません(民法93条2項)。
例えば、Aが売る真意もないのにBに所有する土地を売却した後、Bが心裡留保であることを知らないCにその土地を転売した場合、Aは善意のCに対して、Bとの売買は心裡留保により無効なので土地を返還しろと請求することはできません。
なお、相手方の保護要件は「善意無過失」ですが、第三者の保護要件は、「善意」だけで足ります。混同しないように注意しましょう。
| 第三者の主観 | 第三者の保護 |
|---|---|
| 善意無過失 | 保護される(無効を対抗できない) |
| 善意だが過失あり | 保護される(無効を対抗できない) |
| 悪意 | 保護されない(無効を対抗できる) |
心裡留保の要件
心裡留保となるのは、「真意ではないことを知りながら意思表示をすること」です。
- 表意者が、内心の意思と表示行為が一致していないこと
- 内心の意思と表示行為が一致していないことを、表意者自身が知っていること
そのため、単にうっかりして、真意ではない意思表示をしてしまった場合は、心裡留保にはなりません。この場合は、意思を欠く表示をしたものとして「錯誤」に該当します。
意思表示の無効の立証責任
前記のとおり、心裡留保による意思表示は原則有効です。相手方は、自分が善意無過失であることを立証する必要はありません。
意思表示が無効であることを主張する表意者に、立証責任があります。
- 相手方に対して意思表示の無効を主張する場合
表意者が、相手方に悪意(表意者の真意を知っていたこと)または表意者の真意を知らないことについて過失があることを立証する必要がある - 第三者に対して意思表示の無効を主張する場合
表意者が、相手方の悪意または過失があること、第三者の悪意を立証する必要がある
身分行為と心裡留保
これまで説明してきた財産に関する意思表示と違い、婚姻や養子縁組などの身分行為の場合、心裡留保があっても、その意思表示は有効になりません。
真意を欠く身分行為は、心裡留保だとしても、すべて無効になります(養子縁組について、最一小判昭和23年12月23日)。
身分行為には真意が必要であるため、たとえ表意者が嘘を言っていたとしても、有効にはならないのです。
心裡留保と他の意思表示の欠缺・瑕疵の違い
内心の意思を欠く意思表示のことを意思表示の欠缺といい、内心の意思の形成過程に問題があることを意思表示の瑕疵ということがあります(厳密に区別しない考え方もあります。)。
心裡留保は、この意思表示の欠缺に当たります。
民法では、心裡留保のほか、意思表示に欠缺・瑕疵がある場合として、「虚偽表示」「錯誤」「詐欺」「強迫」を規定しています。
心裡留保と虚偽表示
虚偽表示とは、意思表示をした人(表意者)と相手方が通じて、虚偽の意思表示をすることです。
相手方と通じて嘘の意思表示をすることから、虚偽表示を「通謀虚偽表示」といい、心裡留保のことを「単独虚偽表示」と呼ぶこともあります。
虚偽表示の場合、相手方も意思を通じているので、相手方保護の必要性がありません。そのため、虚偽表示による意思表示は無効です(民法94条1項)。
ただし、虚偽表示の当事者は、「善意」の第三者には、意思表示の無効を対抗できません(民法94条2項)。
心裡留保と錯誤
錯誤には、以下の2種類があります。
- 表示行為の錯誤(民法95条1項1号)
意思表示に対応する意思を欠く錯誤 - 動機の錯誤(民法95条1項2号)
表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
これらの錯誤が、法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものである場合、表意者は、意思表示を取り消すことができます(民法95条1項柱書)。
心裡留保と違って当然に「無効」になるのではなく、錯誤の場合は、取り消されるまでは、一応有効な意思表示として存続します。
ただし、錯誤取消し前に法律関係に入った第三者が錯誤について「善意無過失」である場合、表意者は、錯誤取消しを第三者に対抗できません(民法95条4項)。
心裡留保と詐欺
詐欺とは、人を欺いて錯誤に陥らせて意思表示をさせることです。つまり、「騙して意思表示させる」のが、詐欺です。
詐欺によって意思表示した人(表意者)は、意思表示を取り消すことができます。当然に「無効」ではなく、取消しです(民法96条1項)。
ただし、詐欺取消し前に法律関係に入った第三者が詐欺について「善意無過失」である場合、表意者は、詐欺取消しを第三者に対抗できません(民法96条3項)。
心裡留保と強迫
強迫とは、害悪の告知や暴力によって人に意思表示をさせることです。「脅して意思表示させる」のが、強迫です。
強迫されて意思表示した人(表意者)は、意思表示を取り消すことができます。当然に「無効」ではなく、取消しです(民法96条1項)。
また、強迫の場合、強迫取消し前に法律関係に入った第三者が善意無過失であっても、強迫取消しを対抗できます。
意思表示の欠缺・瑕疵のまとめ一覧表
意思表示の欠缺・瑕疵をまとめると、以下のようになります。
| 意思表示の欠缺・瑕疵 | 意思表示の効力 | 第三者との関係 |
|---|---|---|
| 心裡留保 | 原則有効 ただし、相手方が悪意または過失があるときは無効 | 「善意」の第三者に無効を対抗できない |
| 虚偽表示 | 無効 | 「善意」の第三者に無効を対抗できない |
| 錯誤 | 取消しができる | 「善意無過失」の第三者に取消しを対抗できない |
| 詐欺 | 取消しができる | 「善意無過失」の第三者に取消しを対抗できない |
| 強迫 | 取消しができる | 第三者が善意無過失であっても取消しを対抗できる |
補足:代理権の濫用と心裡留保
なお、旧民法下では、代理人が代理権を濫用して、本人の利益を図らず代理人自身または第三者の利益を図るために代理行為をした場合、心裡留保の規定を類推適用して、相手方が悪意または過失があるときは代理行為が無効になると考えられていました。
民法改正により、上記の考え方が民法107条により明文化されました。そのため、現行法下では、特に民法93条ただし書を類推適用する必要はなくなりました。
民法 第107条
- 代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。
引用元:e-Gov法令検索
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
民法と資格試験
民法は、私法の基本法です。我々の生活に最も身近な法律です。
そのため、例えば、司法試験(本試験)、司法試験予備試験、司法書士試験、行政書士試験、宅建試験、マンション管理士試験・・・など、実に多くの資格試験の試験科目になっています。
これら法律系資格の合格を目指すなら、民法を攻略することは必須条件です。
とは言え、民法は範囲も膨大です。メリハリを付けないと、いくら時間があっても合格にはたどり着けません。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。
STUDYing(スタディング)
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参考書籍
本サイトでも民法について解説していますが、より深く知りたい方や資格試験勉強中の方のために、民法の参考書籍を紹介します。
新訂民法総則(民法講義Ⅰ)
著者:我妻榮 出版:岩波書店
民法の神様が書いた古典的名著。古い本なので、実務や受験にすぐ使えるわけではありませんが、民法を勉強するのであれば、いつかは必ず読んでおいた方がよい本です。ちなみに、我妻先生の著書として、入門書である「民法案内1(第二版)」や「ダットサン民法総則・物権法(第4版)」などもありますが、いずれも良著です。
我妻・有泉コンメンタール民法(第8版)
著者:我妻榮ほか 出版:日本評論社
財産法についての逐条解説書。現在も改訂されています。家族法がないのが残念ですが、1冊で財産法全体についてかなりカバーできます。辞書代わりに持っていると便利です。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
民法(全)(第3版補訂版)
著者:潮見佳男 出版:有斐閣
1冊で民法総則から家族法まで収録されています。基本書というより入門書に近いでしょう。民法全体を把握するのにはちょうど良い本です。
民法の基礎1(総則)第5版
著者:佐久間毅 出版:有斐閣
民法総則の基本書。基礎的なところから書かれており、読みやすく情報量も多いので、資格試験の基本書として使うには十分でしょう。
スタートアップ民法・民法総則(伊藤真試験対策講座1)
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。民法は範囲が膨大なので、学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。
関連する資格試験の過去問
心裡留保に関しては、資格試験の過去問でも出題されています。
- 宅建試験令和7年度問3
心裡留保の効力・虚偽表示と第三者・錯誤の効力・詐欺取消し前の第三者


