
産手続開始申立てから破産手続開始決定までの間における債権者等の債権回収行為等による債務者の財産の散逸を防止するため、裁判所は、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てまたは職権で、破産手続開始の申立てから破産手続開始決定までの間、破産手続以外の手続の中止を命ずることができるとされています(破産法24条1項)。
さらに、保全管理命令が発せられている場合で、債務者の財産の管理・処分のために特に必要があると認めるときは、保全管理人の申立てにより、担保を立てさせて、強制執行等の手続を中止するだけでなく、その手続を取り消すこともできるとされています(破産法24条3項)。
破産手続開始前における他の手続の中止命令・取消命令とは
破産法 第24条
- 第1項 裁判所は、破産手続開始の申立てがあった場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、破産手続開始の申立てにつき決定があるまでの間、次に掲げる手続又は処分の中止を命ずることができる。ただし、第1号に掲げる手続又は第6号に掲げる処分についてはその手続の申立人である債権者又はその処分を行う者に不当な損害を及ぼすおそれがない場合に限り、第5号に掲げる責任制限手続については責任制限手続開始の決定がされていない場合に限る。
- 第1号 債務者の財産に対して既にされている強制執行、仮差押え、仮処分又は一般の先取特権の実行若しくは留置権(商法(明治32年法律第48号)又は会社法の規定によるものを除く。)による競売(以下この節において「強制執行等」という。)の手続で、債務者につき破産手続開始の決定がされたとすれば破産債権若しくは財団債権となるべきもの(以下この項及び次条第8項において「破産債権等」という。)に基づくもの又は破産債権等を被担保債権とするもの
- 第2号 債務者の財産に対して既にされている企業担保権の実行手続で、破産債権等に基づくもの
- 第3号 債務者の財産関係の訴訟手続
- 第4号 債務者の財産関係の事件で行政庁に係属しているものの手続
- 第5号 債務者の責任制限手続(船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和50年法律第94号)第3章又は船舶油濁損害賠償保障法(昭和50年法律第95号)第5章の規定による責任制限手続をいう。第263条及び第264条第1項において同じ。)
- 第6号 債務者の財産に対して既にされている共助対象外国租税(租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律(昭和44年法律第46号。第103条第5項及び第253条第4項において「租税条約等実施特例法」という。)第11条第1項に規定する共助対象外国租税をいう。以下同じ。)の請求権に基づき国税滞納処分の例によってする処分(以下「外国租税滞納処分」という。)で、破産債権等に基づくもの
- 第2項 裁判所は、前項の規定による中止の命令を変更し、又は取り消すことができる。
- 第3項 裁判所は、第91条第2項に規定する保全管理命令が発せられた場合において、債務者の財産の管理及び処分をするために特に必要があると認めるときは、保全管理人の申立てにより、担保を立てさせて、第1項の規定により中止した強制執行等の手続又は外国租税滞納処分の取消しを命ずることができる。
(第4項以下は省略)
破産手続開始の申立てをしたからといって、即座に破産手続が開始されるとは限りません。そのため、破産手続開始の申立てをしてから破産手続開始決定までの間にタイムラグが生じることがあります。
債務者について破産手続が開始されてしまうと、各債権者は個別の権利行使を禁止され、優先的に弁済を受けることはできなくなります。
そのため、債権者からしてみれば、破産手続が開始される前に何らかの手を打って債権を回収しておきたいと考えるでしょう。
そこで、債権者は、破産手続開始申立てから破産手続開始決定がなされるまでの間に債務者の財産に対して強制執行をかけるなどして、抜け駆け的に債権回収を図ろうとすることがあります。
しかし、これが認められてしまうと、他の債権者に弁済または配当すべき財産が減少してしまうことになり、債権者の平等を害します。
そこで、債権者等の行為によって債務者財産が散逸してしまうのを防ぐために、裁判所は、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てまたは職権で、破産手続開始の申立てから破産手続開始決定までの間、破産手続以外の手続の中止を命じることができるとされています(破産法24条1項)。
さらに、裁判所は、保全管理命令が発せられている場合で、債務者の財産の管理・処分のために特に必要があると認めるときは、保全管理人の申立てにより、担保を立てさせて、強制執行等の手続を中止するだけでなく、その手続を取り消すこともできるとされています(破産法24条3項)。
他の手続の中止命令発令の効果
破産手続が開始されると、その開始の効力として、破産財団に属する財産に対する強制執行等で、破産債権や財団債権に基づくものはできなくなります(破産法42条1項)。
また、破産手続が開始されると、破産手続開始前からすでにされている強制執行等は、破産財団に対して効力を失います(破産法42条2項)。
これらの破産手続開始決定の効力は、個々の債権者による債権回収行為を制限することによって、総債権者の平等を図ろうとすることに趣旨があります。
もっとも、前記のとおり、破産手続開始前であっても、債権者が先駆け的に債権回収行為を行うことによって、債権者の平等が害されるおそれはあります。
そこで、破産手続開始決定によって生じる効果を破産手続開始前にも前倒しで生じさせたものが、破産手続開始前における他の手続の中止命令等なのです。
他の手続の中止命令が発令されると、以下の手続が、破産手続開始までの間、中止されることになります(破産法24条1項)。
- 債務者の財産に対してすでにされている強制執行・仮差押え・仮処分・一般の先取特権の実行・留置権(商法・会社法の規定によるものを除く。)による競売の手続で、債務者について破産手続開始の決定がされたとすれば破産債権・財団債権となるべきものに基づくもの、または、破産債権・財団債権を被担保債権とするもの
- 債務者の財産に対してすでにされている企業担保権の実行手続で、破産債権・財団債権に基づくもの
- 債務者の財産関係の訴訟手続
- 債務者の財産関係の事件で行政庁に係属しているものの手続
- 債務者の責任制限手続(船舶の所有者等の責任の制限に関する法律第3章又は船舶油濁損害賠償保障法第5章の規定による責任制限手続)
- 債務者の財産に対してすでにされている外国租税滞納処分で、破産債権等に基づくもの
他の手続の中止命令の効力は破産手続が開始されるまでしか存続しませんが、破産手続が開始されれば上記の手続はいずれも破産財団に対して効力を失いますので、結局、他の手続の中止命令の発令以降は、上記の手続の効力は生じなくなるということです。
ただし、国税滞納処分は別です。債務者の財産に対するものであっても、国税滞納処分については、中止するすことはできないとされています。
他の手続の中止命令発令の要件
破産手続開始前における他の手続の中止命令は、利害関係人の申立てまたは裁判所の職権で発令されます(破産法24条1項)。
ただし、どのような場合でも発令されるわけではありません。裁判所において他の手続の中止命令をする「必要があると認めるとき」でなければ、他の手続の中止命令は発令されません。
また、破産債権または財団債権となるべき債権に基づく強制執行・仮差押え・仮処分・一般の先取特権の実行・留置権による競売の手続、および、外国租税滞納処分を中止する場合には、必要性があるだけでなく、その手続の申立人である債権者またはその処分を行う者に不当な損害を及ぼすおそれがない場合でなければなりません(破産法24条1項前段)。
加えて、債務者の責任制限手続を中止する場合には、必要性があるだけでなく、責任制限手続開始の決定がされていない場合でなければならないとされています(破産法24条1項後段)。
他の手続の取消命令
前記のとおり、裁判所は、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てまたは職権で、破産手続開始の申立てから破産手続開始決定までの間、破産手続以外の手続の中止を命ずることができます。
もっとも、それだけでなく、さらに、裁判所は、保全管理命令が発せられている場合で、債務者の財産の管理・処分のために特に必要があると認めるときは、保全管理人の申立てにより、担保を立てさせて、強制執行等の手続を中止するだけでなく、その手続を取り消すこともできるとされています(破産法24条3項)。
単に中止するだけでなく、他の手続そのものを取り消してしまうことができるのです。
とはいえ、他の手続を取り消してしまうと、第三者に大きな不利益を与える可能性もあります。
そのため、必要があると認められるだけでは足りず、保全管理命令が発せられており、かつ、債務者の財産の管理・処分のために特に必要があると認めるときで、しかも、担保を立てなければ、他の手続の取消命令は認められないものとされています。