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破産手続開始前の債務者の財産に関する保全処分とは?

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破産手続開始申立てから破産手続開始決定までの間における債務者による財産処分行為を制限するため、裁判所は、利害関係人の申立てによりまたは職権で、破産手続開始の申立て後破産手続開始前に、債務者の財産に関し、その財産の処分禁止の仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができるとされています(破産法28条)。

破産手続開始前における債務者の財産に関する保全処分

破産法 第28条

  • 第1項 裁判所は、破産手続開始の申立てがあった場合には、利害関係人の申立てにより又は職権で、破産手続開始の申立てにつき決定があるまでの間、債務者の財産に関し、その財産の処分禁止の仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。
  • 第2項 裁判所は、前項の規定による保全処分を変更し、又は取り消すことができる。
  • 第3項 第1項の規定による保全処分及び前項の規定による決定に対しては、即時抗告をすることができる。
  • 第4項 前項の即時抗告は、執行停止の効力を有しない。
  • 第5項 第3項に規定する裁判及び同項の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならない。この場合においては、第10条第3項本文の規定は、適用しない。
  • 第6項 裁判所が第1項の規定により債務者が債権者に対して弁済その他の債務を消滅させる行為をすることを禁止する旨の保全処分を命じた場合には、債権者は、破産手続の関係においては、当該保全処分に反してされた弁済その他の債務を消滅させる行為の効力を主張することができない。ただし、債権者が、その行為の当時、当該保全処分がされたことを知っていたときに限る。

破産手続が開始されるためには、破産手続開始の申立てをする必要がありますが、申立てをしたからといって、すぐに破産手続開始決定(旧破産宣告)が発令されるとは限りません。

そのため、破産手続開始の申立てから破産手続開始までの間には、若干のタイムラグが生じる場合があります。

このタイムラグの間に、債務者が、自分の財産を処分または散逸させてしまう可能性があります。

債務者の財産は、破産手続開始後、破産財団に組み入れられて換価処分され、最終的には債権者に対する弁済や配当の原資となるものです。

これが正当な理由もなく処分されると、債権者に対する弁済または配当のための原資が減少してしまい、債権者に不利益を与えることになってしまいます。

そこで、破産手続開始申立てから破産手続開始決定までの間における債務者による財産処分行為を制限するため、裁判所は、利害関係人の申立てによりまたは職権で、破産手続開始の申立て後破産手続開始前に、債務者の財産に関し、その財産の処分禁止の仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができるとされています(破産法28条)。

債務者の財産に関する保全処分の効力

前記のとおり、裁判所は、利害関係人の申立てによりまたは職権で、破産手続開始の申立て後破産手続開始前に、債務者の財産に関し、その財産の処分禁止の仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができます(破産法28条)。

ここでいう「処分禁止の仮処分その他の必要な保全処分」とは、債務者の財産処分行為を制限する目的を達成するのに、債務者の財産に関して必要な処分であれば、処分禁止の仮処分に限らず、さまざまな保全処分が許容されると解されています。

ただし、破産手続開始前の保全処分は、あくまで破産手続開始によって生じる効力を前倒しで生じさせるものですから、破産手続開始後でも認められないような保全処分まで許容されるわけではありません。

必要な保全処分としては、以下のものが考えられます。

債務者の財産に関する保全処分の具体例
  • 処分禁止の仮処分
  • 仮差押え
  • 占有移転禁止の仮処分
  • 債権譲渡禁止の仮処分
  • 執行官保管の仮処分
  • 借財禁止の仮処分
  • 弁済禁止の仮処分(破産法28条6項)
  • 商業帳簿等の保管・閲覧の仮処分

弁済禁止の保全処分が発令された場合、債権者は、破産手続の関係においては、当該保全処分に反してされた弁済その他の債務を消滅させる行為の効力を主張することができないものとされています(破産法28条6項本文)。

つまり、弁済禁止の保全処分が発令されていたにもかかわらず、それに反して、債務者が債権者に対してその財産をもって弁済等をしていた場合、その債権者は、破産管財人に対して弁済として財産を受領したということを主張できません。

したがって、破産手続開始後に破産管財人による否認権の行使などがされると、その受領した財産を破産管財人に返還しなければならなくなります。

ただし、保全処分に反してされた弁済その他の債務を消滅させる行為の効力を主張することができなくなるのは、その債権者が、弁済等を受けた当時、当該保全処分がされたことを知っていたときに限られます(破産法28条6項ただし書き)。

なお、これらの保全処分が効力を有するのは、破産手続開始決定までの間です。破産手続開始決定がなされると、保全処分は当然に失効します。

債務者の財産に関する保全処分の申立て

債務者の財産に関する必要な保全処分は、裁判所が職権で、つまり、裁判所が自ら判断して行うこともできますが、利害関係人の申立てによって行われるのが一般的でしょう。

債務者の財産に関する必要な保全処分の申立てをすることができる「利害関係人」には広く利害関係を有する者が含まれると解されています。

例えば、破産手続開始の申立人、申立権者(債務者、債権者、準債務者)、保全管理人などが利害関係人に含まれます。

とはいえ、利害関係人が申立てをすれば当然に保全処分が認められるわけではありません。債務者の財産に関する必要な保全処分の申立てが認められるためには、以下の要件が必要です。

債務者の財産に関する保全処分の要件
  • 保全の必要性
  • 債務者の財産に関するものであること
  • 書面(申立書)によって申立てをすること(破産規則1条1項、2条1項)

保全の必要性を要するとの明確な規定はありませんが、何らの必要性もなく保全処分をすることは権利者等に余分な負担を与えるおそれがあること、破産法28条1項の条文上「必要な保全処分」と規定されていることなどから、保全の必要性が求められると解されています。

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