この記事にはPR広告が含まれています。

破産手続開始前の第三者に対する保全処分とは?

破産法の画像
point

破産手続開始申立てから破産手続開始決定までの間における債権者等の債権回収行為等による債務者の財産の散逸を防止するため、破産法は、第三者に対する保全処分を用意しています。

破産手続開始前の第三者に対する保全処分としては、①他の手続の中止命令等(破産法24条)、②包括的禁止命令(破産法25条以下)、③否認権のための保全処分(破産法171条)、④役員財産に対する保全処分(破産法177条2項)があります。

破産手続開始前の第三者に対する保全処分とは

裁判所によって破産手続を開始してもらうためには、破産手続開始の申立てをする必要があります。

とはいえ、申立てをすればすぐに手続が開始されるわけではありませんから、破産手続開始の申立てから破産手続開始決定までの間に若干のタイムラグが生じます。

このタイムラグの間に、第三者の行為によって債務者の財産が散逸してしまったり、その後の破産手続が円滑に進行しなくなる要因を生み出してしまったりするおそれがあります。

特に多いのは、債権者の一部による抜け駆け的な債権回収行為です。

破産手続が開始されると、債権者は個別に権利を行使することができなくなりますから、債権者の一部が、破産手続が開始される前に、我先にと、自身の債権だけでも回収しようとして債権回収行為に及ぶことがあります。

しかし、この一部の債権者による債権回収行為がなされると、債務者の財産が減少し、債権者の平等が害されます。

そこで、破産法では、第三者、特に債権者の行為などによる債務者財産の散逸等を防ぐため、第三者に対して効力を生じる保全処分を用意しています。具体的には、以下の保全処分があります。

第三者に対する保全処分

他の手続の中止命令・取消命令

破産法 第24条

  • 第1項 裁判所は、破産手続開始の申立てがあった場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、破産手続開始の申立てにつき決定があるまでの間、次に掲げる手続又は処分の中止を命ずることができる。ただし、第1号に掲げる手続又は第6号に掲げる処分についてはその手続の申立人である債権者又はその処分を行う者に不当な損害を及ぼすおそれがない場合に限り、第5号に掲げる責任制限手続については責任制限手続開始の決定がされていない場合に限る。
  • 第1号 債務者の財産に対して既にされている強制執行、仮差押え、仮処分又は一般の先取特権の実行若しくは留置権(商法(明治32年法律第48号)又は会社法の規定によるものを除く。)による競売(以下この節において「強制執行等」という。)の手続で、債務者につき破産手続開始の決定がされたとすれば破産債権若しくは財団債権となるべきもの(以下この項及び次条第8項において「破産債権等」という。)に基づくもの又は破産債権等を被担保債権とするもの
  • 第2号 債務者の財産に対して既にされている企業担保権の実行手続で、破産債権等に基づくもの
  • 第3号 債務者の財産関係の訴訟手続
  • 第4号 債務者の財産関係の事件で行政庁に係属しているものの手続
  • 第5号 債務者の責任制限手続(船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和50年法律第94号)第3章又は船舶油濁損害賠償保障法(昭和50年法律第95号)第5章の規定による責任制限手続をいう。第263条及び第264条第1項において同じ。)
  • 第6号 債務者の財産に対して既にされている共助対象外国租税(租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律(昭和44年法律第46号。第103条第5項及び第253条第4項において「租税条約等実施特例法」という。)第11条第1項に規定する共助対象外国租税をいう。以下同じ。)の請求権に基づき国税滞納処分の例によってする処分(以下「外国租税滞納処分」という。)で、破産債権等に基づくもの
  • 第2項 裁判所は、前項の規定による中止の命令を変更し、又は取り消すことができる。
  • 第3項 裁判所は、第91条第2項に規定する保全管理命令が発せられた場合において、債務者の財産の管理及び処分をするために特に必要があると認めるときは、保全管理人の申立てにより、担保を立てさせて、第1項の規定により中止した強制執行等の手続又は外国租税滞納処分の取消しを命ずることができる。
    (第4項以下省略)

破産手続開始前における第三者に対する保全処分の1つに、「他の手続の中止命令・取消命令」があります(破産法24条)。

債権者の平等を図るため、破産手続が開始されると、破産財団に属する財産に対する強制執行等のうち破産債権や財団債権に基づくものはできなくなり、また、破産手続開始前からすでにされている強制執行等は、破産財団に対して効力を失うとされています(破産法42条1項、2項)。

破産手続開始前に、債権者が先駆け的に債権回収を図ろうとして、債務者に対して訴訟を提起したり、強制執行を行うなどをする場合がありますが、債権者の平等を図るためにこれを制限しなければならないことは、破産手続が開始された後の場合と同様です。

そこで、上記破産手続開始による効力を破産手続開始前にも及ぼしたものが他の手続の中止命令・取消命令です。「他の手続」とは、破産手続以外の手続という意味です。

具体的にいうと、裁判所は、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てまたは職権で、破産手続開始の申立てから破産手続開始決定までの間、以下の第三者の行為の中止を命ずることができるとされています(破産法24条1項)。

破産手続開始前の中止命令の対象
  • 債務者の財産に対してすでにされている強制執行・仮差押え・仮処分・一般の先取特権の実行・留置権(商法・会社法の規定によるものを除く。)による競売の手続で、債務者について破産手続開始の決定がされたとすれば破産債権・財団債権となるべきものに基づくもの、または、破産債権・財団債権を被担保債権とするもの
  • 債務者の財産に対してすでにされている企業担保権の実行手続で、破産債権・財団債権に基づくもの
  • 債務者の財産関係の訴訟手続
  • 債務者の財産関係の事件で行政庁に係属しているものの手続
  • 債務者の責任制限手続(船舶の所有者等の責任の制限に関する法律第3章又は船舶油濁損害賠償保障法第5章の規定による責任制限手続)
  • 債務者の財産に対してすでにされている外国租税滞納処分で、破産債権等に基づくもの

さらに、裁判所は、保全管理命令が発せられている場合で、債務者の財産の管理・処分のために特に必要があると認めるときは、保全管理人の申立てにより、担保を立てさせて、上記の強制執行等の手続を中止するだけでなく、取り消すことができるとされています(破産法24条3項)。

なお、債務者の財産に対するものであっても、国税滞納処分については、中止または取り消すことはできません。

包括的禁止命令

破産法 第25条

  • 第1項 裁判所は、破産手続開始の申立てがあった場合において、前条第1項第1号又は第6号の規定による中止の命令によっては破産手続の目的を十分に達成することができないおそれがあると認めるべき特別の事情があるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、破産手続開始の申立てにつき決定があるまでの間、全ての債権者に対し、債務者の財産に対する強制執行等及び国税滞納処分(国税滞納処分の例による処分を含み、交付要求を除く。以下同じ。)の禁止を命ずることができる。ただし、事前に又は同時に、債務者の主要な財産に関し第28条第1項の規定による保全処分をした場合又は第91条第2項に規定する保全管理命令をした場合に限る。
  • 第2項 前項の規定による禁止の命令(以下「包括的禁止命令」という。)を発する場合において、裁判所は、相当と認めるときは、一定の範囲に属する強制執行等又は国税滞納処分を包括的禁止命令の対象から除外することができる。
  • 第3項 包括的禁止命令が発せられた場合には、債務者の財産に対して既にされている強制執行等の手続及び外国租税滞納処分(当該包括的禁止命令により禁止されることとなるものに限る。)は、破産手続開始の申立てにつき決定があるまでの間、中止する。
    (第4項以下は省略)

破産手続開始前における第三者に対する保全処分の1つに、「包括的禁止命令」があります(破産法25条以下)。

破産手続開始前に多数の債権者が強制執行等を行った場合、前記の他の手続の中止命令ですべて対応しようとすると、手続が著しく煩雑になってしまい、場合によっては、対応さえ十分にできないという状態になってしまうおそれがあります。

そこで、裁判所は、中止の命令によっては破産手続の目的を十分に達成することができないおそれがあると認めるべき特別の事情があるときには、債務者の主要な財産に関する必要な保全処分または保全管理命令がなされている場合に限り、利害関係人の申立てまたは職権で、破産手続開始の申立てから破産手続開始決定があるまでの間、全ての債権者に対し、債務者の財産に対する強制執行等や国税滞納処分の禁止を命じることができるとされています。これを「包括的禁止命令」といいます。(破産法25条1項本文)。

包括的禁止命令が発令されると、すべての債権者について、破産債権または財団債権に基づく債務者の財産に対する強制執行・仮差押え・仮処分・一般の先取特権の実行・留置権による競売の手続・国税滞納処分等をすることができなくなります(破産法25条3項)。

ただし、包括的禁止命令が発せられた場合でも、すでにされている国税滞納処分は中止されません。

否認権のための保全処分

破産法 第171条

  • 第1項 裁判所は、破産手続開始の申立てがあった時から当該申立てについての決定があるまでの間において、否認権を保全するため必要があると認めるときは、利害関係人(保全管理人が選任されている場合にあっては、保全管理人)の申立てにより又は職権で、仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。

破産手続開始前における第三者に対する保全処分の1つに、「否認権のための保全処分」があります(破産法171条1項)。

破産管財人には否認権と呼ばれる権能が与えられています。

否認権とは、本来であれば破産財団に属していたはずの財産が破産手続開始前に流出してしまった場合に、それを破産財団に取り戻すことができるという破産管財人の権能です。

破産管財人の否認権行使によって破産財団が増殖すれば、それだけ債権者に対する弁済・配当原資が増えることになります。

そこで、この破産管財人の否認権の実効性を確保するため、裁判所は、破産手続開始前であっても、破産手続開始申立て後であれば、否認権を保全するため必要があると認めるときは、利害関係人または保全管理人の申立てまたは職権で、仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命じることができるものとされています(破産法171条1項)。

役員財産に対する保全処分

破産法 第177条

  • 第1項 裁判所は、法人である債務者について破産手続開始の決定があった場合において、必要があると認めるときは、破産管財人の申立てにより又は職権で、当該法人の理事、取締役、執行役、監事、監査役、清算人又はこれらに準ずる者(以下この節において「役員」という。)の責任に基づく損害賠償請求権につき、当該役員の財産に対する保全処分をすることができる。
  • 第2項 裁判所は、破産手続開始の申立てがあった時から当該申立てについての決定があるまでの間においても、緊急の必要があると認めるときは、債務者(保全管理人が選任されている場合にあっては、保全管理人)の申立てにより又は職権で、前項の規定による保全処分をすることができる。
    (第3項~第7項省略)

破産手続開始前における第三者に対する保全処分の1つに、「役員財産に対する保全処分」があります(破産法177条2項)。

法人・会社が破産したからと言って、必ずしも、その法人・会社の取締役や理事が責任を取らなければならないわけではありません。

もっとも、例は多くありませんが、役員の行為によって法人・会社に損害を与えていた場合には、その役員が法人・会社に対して損害賠償責任を負うこともあります。

その場合、破産手続開始後に、破産管財人がその役員に対して損害賠償を請求することになります。

そして、裁判所は、その役員に対する損害賠償請求権について、役員の個人財産に対する保全処分を命じることができるとされています(破産法177条1項)。

さらに、破産手続開始前であっても、破産手続開始申立て後であれば、裁判所は、緊急の必要があると認めるときは、債務者または保全管理人の申立てにより又は職権で、役員の個人財産に対する保全処分をすることができるとされています(破産法177条2項)。

タイトルとURLをコピーしました