
破産手続開始原因の1つである債務超過は、債務額の総計が資産額の総計を超過している客観的状態にあるかどうかから判断します。債務超過の判断には、債務者の信用や労力は考慮されません。専ら財産のみによって判断されます。
債務額には弁済期(履行期)の到来していない債務も含まれます。資産額は、原則として清算価値を評価基準としますが、企業継続価値が清算価値を上回る場合には、企業継続価値を評価基準とします。
破産手続開始原因となる債務超過
破産法 第15条
- 第1項 債務者が支払不能にあるときは、裁判所は、第30条第1項の規定に基づき、申立てにより、決定で、破産手続を開始する。
- 第2項 債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定する。
破産法 第16項
- 第1項 債務者が法人である場合に関する前条第1項の規定の適用については、同項中「支払不能」とあるのは、「支払不能又は債務超過(債務者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態をいう。)」とする。
- 第2項 前項の規定は、存立中の合名会社及び合資会社には、適用しない。
破産法 第30条
- 第1項 裁判所は、破産手続開始の申立てがあった場合において、破産手続開始の原因となる事実があると認めるときは、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、破産手続開始の決定をする。
- 第1号 破産手続の費用の予納がないとき(第23条第1項前段の規定によりその費用を仮に国庫から支弁する場合を除く。)。
- 第2号 不当な目的で破産手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき。
- 第2項 前項の決定は、その決定の時から、効力を生ずる。
破産手続は、債務者に破産手続開始原因がある場合でなければ開始されません。法人(合名会社・合資会社を除く。)の場合、破産手続開始原因には「支払不能」と「債務超過」の2種類があります。
このうち、債務超過とは、債務者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態、すなわち、債務額の総計が資産額の総計を超過している客観的状態にあることをいいます(破産法16条1項)。
したがって、債務者である法人が債務超過の状態にあるかどうかは、債務額の総計が資産額の総計を超過しているかどうかを客観的に判断しなければならないことになります。
客観的な判断が必要ですから、単に、債務額の総計が資産額の総計を超過していると主観的に考えているだけでは、債務超過とは認められません。
債務超過をもって破産手続開始原因として破産手続開始申し立てる場合には、債務の総額と資産の総額を客観的に明らかにできる資料をもとに債務超過である旨を証明して申立てをする必要があります。
債務超過の判断の基準時
前記のとおり、債務超過であるかどうかは、破産手続開始原因があるかどうかの問題です。
したがって、債務超過であるかどうかは、破産手続開始決定(または破産手続開始の申立ての却下決定)の時点を基準時として判断されることになります。
債務者の財産・信用・労力
債務者が支払不能であると認められるためには、債務者が支払能力を欠いていることが必要です。支払能力とは、金銭など財産上の給付を履行しうる債務者の経済的力量のことをいいます。
債務者が支払能力を欠いているかどうかは、債務者の財産だけでなく、債務者の信用や労力も考慮して判断されます。
したがって、財産だけからみると支払能力を欠いているように判断できる場合でも、信用や労力も併せてみると、収益力等があり支払いが可能であると判断できるときには、支払不能ではないということになります。
これに対し、債務超過であるかどうかは、専ら債務者の財産のみから判断します。債務者の信用や労力は考慮しません。
債務者の財産が負債よりも少ないのであれば、例え、一定の信用や労力があっても、債務超過と認められます。
そもそも債務超過が破産手続開始原因として認められている理由が、債権者が有する債権の最後の引き当てとなる法人財産の減少を防ぎ、債権者の利益を少しでも最大化させるために、支払不能に至るまで待つことなく、財産減少のおそれがある支払不能の前段階で破産手続を開始させることを認めるところにあるからです。
法人・会社の破産の場合には、債務超過を破産手続開始原因として申立てをした方が、支払不能を破産手続開始原因とするよりも、破産手続開始原因の疎明・証明が容易になることが少なくありません。
債務の評価
支払不能であるかどうかの判断の対象となる債務は、すでに弁済期(履行期)が到来している債務です。
これに対して、債務超過であるかどうかの判断となる対象となる債務は、すでに弁済期が到来している債務であるかどうかは問われません。弁済期が到来していない債務も判断の対象に含まれます。
したがって、弁済期が到来している債務だけからみれば債務が財産を超過しているとは言えない場合でも、弁済期未到来の債務も併せてみれば債務が財産を超過しているのであれば、債務超過に該当することになります。
ただし、非金銭債権は、債務総額に含められません。破産手続開始の時点で金銭債権に転化している場合に限り、債務に含められます。
財産・資産の評価
上記のとおり、債務超過であるかどうかは、専ら債務者である法人・会社の財産・資産をもって判断されます。
もっとも、債務者財産といっても、どのような評価方法によって評価するのかによって、その財産価値は異なってきます。
そこで、問題となるのが、この「債務者の財産」の価値をどのように評価するのか、という点です。
債務者財産の価値の評価方法として、「清算価値」をもって評価する方法と「企業継続価値」をもって評価する方法が考えられます。
清算価値とは、法人・会社が現在有している財産・資産をもとに算出される価値のことです。
簡単に言えば、法人・会社が現在有している財産・資産をすべて換価処分した場合に得られる金銭的価値を財産の評価とするものです。
これに対し、企業継続価値とは、財産・資産だけでなく、法人・会社の営業を継続することによって将来得られる収益や将来失われる損失を加味して価値を評価するものです。
原則で言うと、破産手続は最終的な清算のための手続ですから、清算価値をもって債務超過であるかどうかを判断すべきです。
しかし、営業を継続することによって収益が上がる見込みがあるのであれば、営業や事業を譲渡することによって、債権者はその譲渡代金からも配当を受けることが可能となります。
そのため、企業継続価値が清算価値を上回る場合には、企業継続価値をもって債務者の資産・財産を評価すべきであると解されています。