
準自己破産申立てを選択するのは、取締役や理事等が複数人いるものの、どうしても取締役会や理事会等の決議や取締役や理事等全員の同意を得られず、自己破産を申し立てることができない場合に限られると考えておいた方がよいでしょう。
自己破産を申し立てることができるのであれば、自己破産申立てをすべきです。
準自己破産の申立て
破産法 第19条
- 第1項 次の各号に掲げる法人については、それぞれ当該各号に定める者は、破産手続開始の申立てをすることができる。
- 第1号 一般社団法人又は一般財団法人 理事
- 第2号 株式会社又は相互会社(保険業法(平成7年法律第105号)第2条第5項に規定する相互会社をいう。第150条第6項第3号において同じ。) 取締役
- 第3号 合名会社、合資会社又は合同会社 業務を執行する社員
- 第2項 前項各号に掲げる法人については、清算人も、破産手続開始の申立てをすることができる。
- 第3項 前2項の規定により第1項各号に掲げる法人について破産手続開始の申立てをする場合には、理事、取締役、業務を執行する社員又は清算人の全員が破産手続開始の申立てをするときを除き、破産手続開始の原因となる事実を疎明しなければならない。
- 第4項 前3項の規定は、第1項各号に掲げる法人以外の法人について準用する。
- 第5項 法人については、その解散後であっても、残余財産の引渡し又は分配が終了するまでの間は、破産手続開始の申立てをすることができる。
裁判所に破産手続を開始してもらうためには、原則として、裁判所に対して破産手続開始の申立てをする必要があります。
破産手続開始の申立てをすることができるのは、破産法等で定められた破産申立権者に限られます。
個人(自然人)破産でも法人破産でも、債務者自身が申立人となって申立てを行う「自己破産申立て」が大半です。
ただし、法人破産の場合には、法人・会社自身だけではなく、その法人・会社の理事・取締役等の個人(準債務者)が申立人となって行う「準自己破産申立て」も認められています(破産法19条)。
準自己破産の場合、申立てをするのは理事や取締役等の個人ですが、破産する債務者(破産者)は法人・会社です。理事や取締役等が破産するものではありません。
準自己破産を選択する基準
自己破産を申し立てるためには、取締役や理事が複数人いる場合、取締役会設置会社(理事会設置法人)であれば、破産申立てをすることについての取締役会決議・理事会決議(定款に定めがあれば破産申立てをすることについての取締役または理事全員の同意)が必要です。
この取締役会や理事会決議は、定足数・可決要件を満たすものであれば足りるのが原則ですが、実務上は、全員一致の取締役会決議を求める裁判所もあるようです。
他方、取締役会非設置会社や理事会非設置法人であれば、自己破産申立てをすることについて取締役または理事全員の同意を得る必要があります。
したがって、これらを得ることができないために自己破産を申し立てることができない場合、すなわち、取締役等が複数人いる場合で、取締役会等の決議や取締役全員の同意を得ることができないときに、準自己破産申立てを選択することになります。
この点、破産法には、取締役会決議や取締役全員の同意書を得ることが可能なため自己破産を申し立てることもできる場合には、準自己破産を申し立てることができない、というような規定はありません。
しかし、準自己破産の場合、自己破産と異なり、破産手続開始の原因の疎明または証明が求められたり、事案によっては、少額管財ではなく特定管財になって高額の予納金の納付が求められるような可能性もあります(予納金全額を法人・会社の財産で賄えるのであれば問題ありませんが、そうでない場合、申立人が不足分を負担しなければならなくなります。)。
したがって、自己破産申立てが可能な場合には自己破産申立てを選択すべきであり、安易に準自己破産を選択すべきではありません。
そうすると、準自己破産を選択するのは、取締役等が複数人いるが、どうしても取締役会等の決議(裁判所によっては全員一致の決議)や取締役全員の同意を得ることができない場合に限られると考えておいた方がよいでしょう。
一部の取締役等と連絡がとれない等の場合
取締役等が複数人いるものの、一部の取締役等と連絡をとることができない場合があり得ます。
この場合でも、取締役会設置会社等で、連絡がとれる取締役等だけで取締役会決議をすることができるのであれば、自己破産を申し立てることが可能です。
他方、取締役会非設置会社等の場合や、取締役会設置会社等であるが連絡のとれる取締役等だけでは決議の要件を充たせない場合には、準自己破産を選択することになります。
一部の取締役等が破産に反対している場合
取締役等が複数人いるものの、一部の取締役等が破産を申し立てることに反対している場合もあるでしょう。
この場合でも、取締役会設置会社等で、破産することに賛成している取締役等だけで取締役会決議をすることができるのであれば、自己破産を申し立てることが可能です。
他方、取締役会非設置会社等の場合や、取締役会設置会社等であるが賛成している取締役等だけでは決議の要件を充たせない場合には、準自己破産を選択することになります。
ただし、取締役等に反対者がいる場合、その反対者の非協力や妨害等によって破産手続の遂行に困難をきたすおそれがあることから、少額管財ではなく、特定管財になる可能性があります。
したがって、できる限り事前に反対者とも話し合いをし、同意を得るように努めるべきでしょう。
代表取締役等が行方不明または死亡している場合
法人・会社の破産手続開始を申し立てるに当たって、代表権のある取締役等が行方不明になっていたり、すでに亡くなっているというようなことがあります。
この場合でも、取締役会等で新たな代表取締役を選任した上で自己破産を申し立てることが可能であれば、そうすべきでしょう。
何らかの事情によりそれができない場合であっても、準自己破産の申立権者は「取締役」や「理事」ですから、代表権のない取締役や代表理事等でも、準自己破産を申し立てることができます。
したがって、行方不明または死亡している代表取締役等のほかに取締役等がいるのであれば、その人が準自己破産を申し立てることができます。
とはいえ、申立てができるとしても、代表取締役や代表理事がいないと、裁判所から破産会社宛てに送達される破産手続開始決定書を受領する権限のある人がいないことになりますから、手続が進みません。
そこで、取締役または理事が準自己破産申立てする場合には、それとともに、特別代理人選任の申立てを行う必要があります。