
債権者破産申立て(債権者申立て)の場合、予納金は申立人が納付しなければなりません。その金額は、事案によっては数百万から数千万になることもあります。
破産財団が形成されれば、納付した予納金は優先的に返還されますが、破産財団が十分に形成できなければ、返還されないこともあります。また、債務者の財産状況等の調査が容易ではなく、手続も難航することがあるため、時間的なコストも多大になる可能性があります。
したがって、予納金を全額回収でき、調査の労力や手続長期化のデメリットを補える程度の配当がされるだけの破産財団が形成される見込がある場合に、債権者破産申立てを選択することになるでしょう。
債権者破産申立て
破産法 第18条
- 第1項 債権者又は債務者は、破産手続開始の申立てをすることができる。
- 第2項 債権者が破産手続開始の申立てをするときは、その有する債権の存在及び破産手続開始の原因となる事実を疎明しなければならない。
債務者が支払不能または債務超過になったからといって、自動的に破産手続が開始されるわけではありません。
債務者について破産手続が開始されるためには、原則として、破産法などで定められた一定の破産申立権者によって破産手続開始の申立てがなされる必要があります。
破産というと、債務者自身が破産手続開始の申立てを行う「自己破産申立て」が一般的ですが、破産申立権者とされるのは債務者だけではありません。
債権者も破産申立権者として破産手続開始の申立てをすることができます(破産法18条1項)。
債権者が破産手続開始の申立てを行うことを「債権者破産申立て」と呼んでいます。「債権者申立て」と呼ぶこともあります。
つまり、債権者が申し立てることによって、債務者の意思にかかわらず、その債務者を破産させるのが債権者破産申立てです。
債権回収の方法としての債権者破産申立て
破産すると、債務者の財産は換価処分され、それによって得た金銭は、破産管財人報酬や破産管財業務遂行のための費用に充てられ、その残余金が各債権者に対して公平・平等に弁済・配当されます。
破産しているくらいですから、全財産を換価処分したとしても、すべての債権者を完全に満足させるほどの配当はされないのが通常でしょう。場合によっては、まったく配当がないこともあり得ます。
したがって、債権者としては、債権者破産申立てをするのでなく、まず、個別に強制執行をするなどして、債権全額の回収を図ることになります。
しかし、債務者の財産の内容等が判明せず、個別の強制執行等が功を奏しないことがあります。
そこで、債権を回収するための最後の手段として行うのが、債権者破産申立てということになります。
債権者破産申立てを行い、債務者について破産手続が開始されれば、債務者の財産の管理処分権は破産管財人に移り、債務者が自由に財産を処分することができなくなります。
また、破産管財人が調査をすることにより、債務者の財産が新たに発覚し、配当の可能性が上がることもあります。
個別の強制執行等によっても債権回収ができない場合には、債権者破産申立てを行うことによって、少しでも債権を多く回収できるように、最終手段として債権者破産申立てをすることがあるのです。
債権者破産申立てのデメリット・リスク
上記のとおり、債権者破産申立てをすることにより、債権回収を図ることができる場合があります。しかし、リスクもあります。
破産申立てにおいては、申立人が予納金を納付しなければなりません。債権者破産申立てにおいて予納金を納付しなければならないのは、申立人債権者です。
債権者破産申立ての場合、事案によって異なりますが、予納金の金額が数百万円以上、場合によっては数千万円にのぼることさえあります。
破産者の財産が収集されて破産財団が形成されれば、この申立人債権者が納付した予納金は、他の債権に優先した返還されます。
しかし、破産財団が十分に形成されなかった場合、納付した予納金の一部しか返還されない可能性もあります。
つまり、債権者破産申立てには、債権を十分に回収できない上に、予納金を納付するために余分な支出までしなければならないというデメリットがあるということも考慮しておく必要があるでしょう。
また、債権者破産申立ての場合でも、債務者の財産状況等をある程度調査の上で申立てをしなければなりません。
しかし、債権者側からすれば、債務者の内情は分からないのが通常ですから、調査をするのも容易ではありません。したがって、調査にかなりの労力や費用を割く必要があります。
加えて、意に沿わずに破産を申し立てられた債務者による抵抗にあい、破産手続が非常に長期化するというデメリットもあります。数年かかることも珍しくはありません。
債権者破産申立てを選択する判断基準
前記のとおり、債権者破産申立てには、個別の強制執行等によっても債権回収が図れない場合でも、債権回収の最終手段として利用できるというメリットがあります。
しかし、その反面、多額の予納金を納めなければならず、破産手続の進行によっては、そのうちの一部しか返還されず、かえって支出を増やしてしまうというリスクもあります。
また、債権者破産申立ての場合、債務者の財産状況等の調査にかなりの労力が必要ですし、手続が難航することもあります。
したがって、それらの時間的なコストも考慮に入れて、予納金を全額回収でき、調査の労力や手続長期化のデメリットを補える程度の配当がされるだけの破産財団が回収できる見込がある場合に、債権者破産申立てを選択することになるでしょう。