
破産手続開始の申立書には、破産規則で定める事項を記載した債権者一覧表、破産規則14条3項で定める書類(登記事項証明書、破産手続開始の申立ての日の直近において法令の規定に基づき作成された貸借対照表・損益計算書、財産目録)を添付する必要があります。
また、実務では、これらのほかにも、報告書や疎明資料を添付するのが通常です。
破産手続開始の申立書の添付書類とは
破産法 第20条
- 第1項 破産手続開始の申立ては、最高裁判所規則で定める事項を記載した書面でしなければならない。
破産手続は、破産申立権者が裁判所に対して破産手続開始の申立てをすることによって開始されるのが原則です。
破産手続開始の申立ては、裁判所に対して「最高裁判所規則で定める事項を記載した書面」を提出するという方式でしなければなりません(破産法20条1項)。
この「最高裁判所規則で定める事項を記載した書面」のことを「破産手続開始の申立書」と呼んでいます。ただし、この破産手続開始の申立書をただ提出すればよいというものでもありません。
破産手続は単なる届出ではありません。破産手続は裁判手続です。そのため、申立てが破産手続開始の要件を満たしているのかどうかなどを、裁判所が審査することになります。
そこで、破産手続開始の申立書には、裁判所が審査するに当たって必要となる各種の書類や資料を添付しなければならないとされています。
具体的には、以下のような書類を提出する必要があります。
- 債権者一覧表
- 破産規則14条3項に定める書類
- 取締役会・理事会の議事録または取締役・理事の同意書(法人破産の場合)
- 報告書
- 財産等に関する各種資料
- 委任状(弁護士に依頼した場合)
これらの書類のほか、裁判所が指定した書類の提出も必要となることがあります。裁判所ごとに異なる場合があるため、申立て前に裁判所に確認しておいた方がよいでしょう。
債権者一覧表
破産法 第20条
- 第2項 債権者以外の者が破産手続開始の申立てをするときは、最高裁判所規則で定める事項を記載した債権者一覧表を裁判所に提出しなければならない。ただし、当該申立てと同時に債権者一覧表を提出することができないときは、当該申立ての後遅滞なくこれを提出すれば足りる。
破産規則 第14条
- 第1項 法第20条第2項の最高裁判所規則で定める事項は、次に掲げる債権を有する者の氏名又は名称及び住所並びにその有する債権及び担保権の内容とする。
- 第1号 破産手続開始の決定がされたとすれば破産債権(法第2条第5項に規定する破産債権をいう。以下同じ。)となるべき債権であって、次号及び第3号に掲げる請求権に該当しないもの
- 第2号 租税等の請求権(法第97条第4号に規定する租税等の請求権をいう。)
- 第3号 債務者の使用人の給料の請求権及び退職手当の請求権
- 第4号 民事再生法(平成11年法律第225号)第252条第6項、会社更生法第214条第6項又は金融機関等の更生手続の特例等に関する法律第158条の10第6項若しくは第331条の10第6項に規定する共益債権
- 第2項 債権者が破産手続開始の申立てをするときは、前項に規定する事項を記載した債権者一覧表を裁判所に提出するものとする。ただし、当該債権者においてこれを作成することが著しく困難である場合は、この限りでない。
債権者以外の者が破産手続開始を申し立てる場合には、破産手続開始の申立書に、破産規則で定める事項を記載した債権者一覧表を添付して提出しなければならないとされています(破産法20条2項、破産規則14条1項)。
債権者一覧表とは、文字どおり、債務者に対して債権を有している債権者を一覧にした書面です。
債権者破産申立ての場合、債務者がどのような債務を負っているのかを債権者が把握するのが困難であるという実情に鑑みて、作成が困難であるときには債権者一覧表の提出が不要とされることがあります(破産規則14条2項ただし書き)。
債権者申立てでない場合、つまり、自己破産や準自己破産の場合には、債権者一覧表を破産手続開始の申立書に添付しなければなりません。
上記破産法20条2項では「申立てと同時に債権者一覧表を提出することができないときは、当該申立ての後遅滞なくこれを提出すれば足りる。」と規定されていますが、実務では、申立てと同時に債権者一覧表も提出するよう求められるのが一般的です。
この債権者一覧表には、上記破産規則14条1項で定める債権について記載する必要があります。
法人破産の場合、破産規則の規定にあまりこだわりすぎず、法人・会社が支払をしていない金融機関などからの借入れ、取引先・買掛先に対する支払い、リース料の支払い、光熱費・通信費・経費の支払い、税金の支払い、従業員等に対する賃金の支払いなど、およそ法人・会社が支払いをしなければならないと考えられるものはすべて記載しておくのがよいでしょう。
破産規則14条3項で定める書類
破産規則 第14条
- 第3項 破産手続開始の申立書には、次に掲げる書類を添付するものとする。
- 第1号 債務者が個人であるときは、その住民票の写しであって、本籍(本籍のない者及び本籍の明らかでない者については、その旨)の記載が省略されていないもの
- 第2号 債務者が法人であるときは、その登記事項証明書
- 第3号 限定責任信託に係る信託財産について破産手続開始の申立てをするときは、限定責任信託の登記に係る登記事項証明書
- 第4号 破産手続開始の申立ての日の直近において法令の規定に基づき作成された債務者の貸借対照表及び損益計算書
- 第5号 債務者が個人であるときは、次のイ及びロに掲げる書面
イ 破産手続開始の申立ての日前1月間の債務者の収入及び支出を記載した書面
ロ 所得税法(昭和40年法律第33号)第2条第1項第37号に規定する確定申告書の写し、同法第226条の規定により交付される源泉徴収票の写しその他の債務者の収入の額を明らかにする書面- 第6号 債務者の財産目録
破産手続開始の申立書には、債権者一覧表のほか、上記破産規則14条3項に定める書類の添付も必要です。
法人破産の場合
会社など法人破産の場合、破産手続開始の申立書には、以下の書類の添付をする必要があります。
- 法人の登記事項証明書
- 破産手続開始の申立ての日の直近において法令の規定に基づき作成された債務者の貸借対照表・損益計算書
- 債務者の財産目録
登記事項証明書
法人の登記事項証明書とは、法人・会社の登記事項を記載した書類です。
現在では、わざわざ本店所在地を管轄する法務局に行かなくても、どこの法務局でも日本各地の法人・会社の登記を取得することが可能となっています。
法人・会社の登記事項証明書には、全部事項証明書と履歴事項証明書がありますが、破産手続開始の申立書に添付するものとしては、いずれでもかまいません。
もっとも、あまりに古いものは添付資料にできません。一申立ての日からさかのぼって3か月以内に発行されたものの添付が求められるのが一般的でしょう。
なお、近時はインターネットで登記事項証明書を取得することも可能になっていますが、インターネットで取得したものには公的証明としての効力がないとされています。
したがって、破産手続開始の申立書に添付するものとしては、やはり法務局に行って直接取得したもの(または郵送で取寄せたもの)が必要となります。
貸借対照表・損益計算書
前記破産規則14条3項のとおり、破産手続開始の申立書には、破産手続開始の申立ての日の直近において法令の規定に基づき作成された債務者の貸借対照表・損益計算書を添付する必要があります。
したがって、貸借対照表や損益計算書を作成していない場合には、破産手続開始の申立てのために、それらを作成しておく必要があります。
確実性を期すのであれば、やはり、貸借対照表や損益計算書は、税理士等に依頼して作成してもらう方がよいでしょう。
なお、実務では、貸借対照表と損益計算書だけでなく、償却資産台帳や勘定科目内訳書なども含めた確定申告書および決算書の全部を提出するのが一般的です。
それも1期分だけではなく、直近2~3期分の確定申告書および決算書が必要とされることがあります。
また、事業年度の途中で破産手続開始の申立てをする場合には、前年事業年度までの貸借対照表や損益計算書のほか、新たな事業年度の開始から破産手続開始の申立て直近までの貸借対照表や損益計算書の作成が必要となる場合もあります。
財産目録
前記破産規則14条3項のとおり、破産手続開始の申立書には、債務者の財産目録を添付する必要があります。
財産目録とは、文字どおり、法人・会社が有している一切の財産を一覧にした書類です。
法人・会社の破産の場合、すべての財産が換価処分の対象となりますから、すべての財産について財産目録に記載する必要があります。
特に、決算書の固定資産・償却資産台帳に記載されているような主要財産は財産目録に記載をしておかなければいけません。
個人破産の場合
個人(自然人)破産の場合、破産手続開始の申立書には、以下の書類の添付をする必要があります。
- 本籍の記載が省略されていない債務者の住民票の写し
- 破産手続開始の申立ての日の直近において法令の規定に基づき作成された債務者の貸借対照表・損益計算書
- 破産手続開始の申立ての日前1か月間の債務者の収入および支出を記載した書面
- 確定申告書の写し、源泉徴収票の写しその他債務者の収入の額を明らかにする書面
- 債務者の財産目録
住民票の写し
個人破産の場合、債務者の住民票の写しを添付する必要があります。
ただし、住民票の写しは、本籍の記載が省略されていないものが必要です。条文には記載がありませんが、実務では、本籍だけでなく続柄が省略されていないものが求められるのが一般的です。
なお、逆に、マイナンバーは省略されているものでないと、裁判所が受領してくれないので注意が必要です。
貸借対照表・損益計算書
個人破産の場合であっても、個人事業者・自営業者の場合には、破産手続開始の申立ての日の直近において法令の規定に基づき作成された債務者の貸借対照表・損益計算書を添付する必要があります。
法人破産の場合と同様、税理士に作成してもらったものの方がよいでしょう。
破産手続開始の申立て1か月前の収支を記載した書面
個人破産の場合には、破産手続開始の申立ての日前1か月間の債務者の収入および支出を記載した書面の添付も必要です。
実務では、1か月分の家計簿をまとめた形の書式が用意されていますので、それに記載して添付することになります。1か月分ではなく、2か月分以上を求められることもあります。
確定申告書・源泉徴収票・その他債務者の収入の額を明らかにする書面
個人破産の場合には、確定申告書の写し、源泉徴収票の写しその他債務者の収入の額を明らかにする書面の添付も必要です。
確定申告書の写し、源泉徴収票の写し、その他の書面すべて必要と言うわけではなく、いずれか債務者の収入の額を明らかにする書面があれば足ります。
実務では、例えば、課税証明書などが求められることもあります。
財産目録
個人破産の場合も、財産目録の添付が必要です。資産目録と呼ばれることもあります。
個人破産の場合、生活に最低限度必要となる自由財産は処分の対象になりません。しかし、自由財産であっても、財産目録への記載は必要です。
理事会・取締役会の議事録・理事・取締役の同意書
これまで挙げてきた債権者一覧表や破産規則14条3項に定める書類のほかにも、会社などの法人破産の場合には、理事会または取締役会の議事録や理事または取締役の同意書の添付が求められます。
法人・会社が破産手続開始を申し立てるためには、全理事または全取締役の過半数が出席した理事会または取締役会において、出席した理事会または取締役の過半数による賛成の議決が必要です。
理事会や取締役会が設置されていない場合には、全理事または全取締役の過半数の同意が必要です。
そして、その決議があったこと、または同意があったことを証明するために、理事会または取締役会の議事録や理事または取締役の同意書の添付が必要とされます。
報告書
これまで挙げてきた債権者一覧表、破産規則14条3項に定める書類、理事会又は取締役会の議事録等のほかにも、実務では、破産手続開始の申立書の記載を補完するために、報告書の添付が求められるのが一般的でしょう。
この報告書には、破産手続開始の申立書の訓示的記載事項や、破産管財業務において必要となるであろう情報などを記載します。
例えば、法人破産であれば、法人・会社の事業内容、従業員に関する情報、営業所や倉庫などに関する情報、破産に至った経緯などを記載します。
財産などに関する資料
破産手続開始決定も裁判ですから、決定を受けるためには、支払不能または債務超過である事実などを明らかにする必要があります。
また、破産管財業務の方針を決定するために、破産手続開始の申立書やその添付書類に記載された事実に関連する書類や資料が必要となることもあります。
そこで、実務では、破産手続開始の申立書やその添付書類に記載された事実を裏付けるための資料を破産手続開始の申立書に添付して提出するのが一般的です。
例えば、以下のようなものがあります(以下のものに限られるわけではありません。)
委任状
弁護士等を代理人として破産手続開始を申し立てる場合には、その弁護士等に委任をしたという委任状を添付する必要があります。
なお、裁判所では、破産事件には弁護士を代理人に立てることが原則とされています。