
会社など法人の破産手続開始の申立ての土地管轄は、原則として、主たる営業所の所在地を管轄する地方裁判所とされています。
もっとも、法人またはその代表者のどちらか一方について破産事件・再生事件・更生事件が係属している場合には、他方も、同じ地方裁判所に破産手続開始の申立てをすることができるものとされています(破産法5条6項)。
破産事件の土地管轄
破産法 第5条
- 第1項 破産事件は、債務者が、営業者であるときはその主たる営業所の所在地、営業者で外国に主たる営業所を有するものであるときは日本におけるその主たる営業所の所在地、営業者でないとき又は営業者であっても営業所を有しないときはその普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。
- 第2項 前項の規定による管轄裁判所がないときは、破産事件は、債務者の財産の所在地(債権については、裁判上の請求をすることができる地)を管轄する地方裁判所が管轄する。
- 第3項 前二項の規定にかかわらず、法人が株式会社の総株主の議決権(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株式についての議決権を除き、会社法(平成17年法律第86号)第897条第3項の規定により議決権を有するものとみなされる株式についての議決権を含む。次項、第83条第2項第2号及び第3項並びに第161条第2項第2号イ及びロにおいて同じ。)の過半数を有する場合には、当該法人(以下この条及び第161条第2項第2号ロにおいて「親法人」という。)について破産事件、再生事件又は更生事件(以下この条において「破産事件等」という。)が係属しているときにおける当該株式会社(以下この条及び第161条第2項第2号ロにおいて「子株式会社」という。)についての破産手続開始の申立ては、親法人の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができ、子株式会社について破産事件等が係属しているときにおける親法人についての破産手続開始の申立ては、子株式会社の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができる。
- 第4項 子株式会社又は親法人及び子株式会社が他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する場合には、当該他の株式会社を当該親法人の子株式会社とみなして、前項の規定を適用する。
- 第5項 第1項及び第2項の規定にかかわらず、株式会社が最終事業年度について会社法第444条の規定により当該株式会社及び他の法人に係る連結計算書類(同条第1項に規定する連結計算書類をいう。)を作成し、かつ、当該株式会社の定時株主総会においてその内容が報告された場合には、当該株式会社について破産事件等が係属しているときにおける当該他の法人についての破産手続開始の申立ては、当該株式会社の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができ、当該他の法人について破産事件等が係属しているときにおける当該株式会社についての破産手続開始の申立ては、当該他の法人の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができる。
- 第6項 第1項及び第2項の規定にかかわらず、法人について破産事件等が係属している場合における当該法人の代表者についての破産手続開始の申立ては、当該法人の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができ、法人の代表者について破産事件又は再生事件が係属している場合における当該法人についての破産手続開始の申立ては、当該法人の代表者の破産事件又は再生事件が係属している地方裁判所にもすることができる。
- 第7項 第1項及び第2項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる者のうちいずれか一人について破産事件が係属しているときは、それぞれ当該各号に掲げる他の者についての破産手続開始の申立ては、当該破産事件が係属している地方裁判所にもすることができる。
- 第1号 相互に連帯債務者の関係にある個人
- 第2号 相互に主たる債務者と保証人の関係にある個人
- 第3号 夫婦
- 第8項 第1項及び第2項の規定にかかわらず、破産手続開始の決定がされたとすれば破産債権となるべき債権を有する債権者の数が500人以上であるときは、これらの規定による管轄裁判所の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所にも、破産手続開始の申立てをすることができる。
- 第9項 第1項及び第2項の規定にかかわらず、前項に規定する債権者の数が1000人以上であるときは、東京地方裁判所又は大阪地方裁判所にも、破産手続開始の申立てをすることができる。
- 第10項 前各項の規定により二以上の地方裁判所が管轄権を有するときは、破産事件は、先に破産手続開始の申立てがあった地方裁判所が管轄する。
会社など法人について破産手続開始を申し立てる裁判所は、どこの裁判所でもよいわけではありません。どこの裁判所に申立てをしなければならないのかは、破産法で定められています(破産法5条)。
どこの裁判所に破産手続開始申立てをしなければならないのかが法律によって定められていることを「法定管轄」といいます。法定管轄には、職分管轄・事物管轄・土地管轄があります。
このうち土地管轄とは、裁判所の所在地に応じて定められる裁判管轄のことをいいます。
破産事件の土地管轄は、原則として、主たる営業所の所在地を管轄する地方裁判所とされています(破産法5条1項)。
ただし、破産事件における土地管轄にはいくつかの特例があります。そのうちの1つが、法人・会社または代表者について破産事件等が係属している場合の特例です。
法人の破産と代表者の破産等
会社などの法人と代表者個人は、法律上、別人格とされています。
そのため、法人・会社が破産したからといって、必ずしも、その法人・会社の代表者も一緒に破産または債務整理の手続をとらなければならないということはありません。
ただし、法人・会社の借入れ等については、代表者が連帯保証人となっていることが少なくありません。
この場合、法人・会社が破産すると、その借入れ等の債務を連帯保証人である代表者が負担しなければならなくなります。
もちろん、代表者個人の収入や資産をもってその連帯保証債務を弁済できるのであれば、代表者も破産したり債務整理をしたりする必要はありませんが、そうでないのであれば、代表者も、自己破産の申立てや債務整理をする必要が出てきます。
一般的には、法人・会社の連帯保証債務を代表者個人の収入や資産でそのまま弁済できるということがあまりないため、法人・会社の破産申立てと同時に、その代表者も破産申立てをすることが多いと思われます。
破産事件の土地管轄における法人と代表者の特例
前記のとおり、会社などの法人が破産する場合、代表者も自己破産を申し立てたり、個人再生などの手続をとることがあります。
逆に、代表者が自己破産等をしたことにより、法人・会社も破産を申し立てることになるという場合もあるでしょう。
このように、法人・会社と代表者がいずれも破産申立てをする場合には、土地管轄について特例が認められています。
すなわち、法人またはその代表者のどちらかについて破産事件・再生事件・更生事件が係属している場合、他方の法人またはその代表者も、すでに破産事件・再生事件・更生事件が係属している地方裁判所に破産手続開始の申立てをすることができるものとされています(破産法5条6項)。
例えば、東京都に本店営業所のあるA法人の代表者が大阪府に住所のあるBであった場合、本来であれば、Bは大阪地方裁判所に破産手続開始の申立てをしなければなりません。
しかし、すでにA法人の破産事件が東京地方裁判所に係属しているときは、破産法5条6項により、Bも東京地方裁判所に破産手続開始の申立てをすることができるということです。
逆に、先にBの破産事件が大阪地方裁判所に係属している場合、A法人は、大阪地方裁判所に破産手続開始の申立てをすることができます。