限定承認をするにはどのような要件が必要か?

相続の承認・放棄の画像

限定承認を利用するためには、手続的な要件と実体的な要件の両方を満たしていなければいけません。

限定承認の要件

民法 第922条
相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。

限定承認とは,「相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して」相続を承認することをいいます(民法922条)。

限定承認は,相続財産があることは判明しているが,相続債務がどのくらいあるのか分からないため,相続放棄すべきか単純承認すべきか判断ができないような場合などに利用することになります。

もっとも,限定承認は,実際にはほとんど利用されていないのが現状です。その理由は,利用のための要件を満たすことが難しい場合が多く,また,手続が煩雑であるという点にあります。

この限定承認を利用するための要件には,手続的な要件と実体的な要件があります。

限定承認の申述

民法 第924条
相続人は、限定承認をしようとするときは、第915条第1項の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。

民法 915条 第1項
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

家事事件手続法 第201条 第5項
限定承認及びその取消し並びに相続の放棄及びその取消しの申述は、次に掲げる事項を記載した申述書を家庭裁判所に提出してしなければならない。
第1号 当事者及び法定代理人
第2号 限定承認若しくはその取消し又は相続の放棄若しくはその取消しをする旨

限定承認は,単純承認と異なり,ただ単に限定承認をするという意思を表示すればよいというものではありません。

限定承認をするためには,法律で定められた一定の手続を履践しなければなりません。つまり,限定承認は要式行為なのです。

具体的には,以下の手続を履践する必要があります(民法924条)。

  • 相続開始を知った時から3か月(熟慮期間)内に
  • 相続財産目録を作成して
  • 家庭裁判所に対して限定承認の申述をすること

限定承認も,相続放棄同様,相続開始を知った時から3か月内,いわゆる熟慮期間内に家庭裁判所への申述を行わなければなりません(民法915条1項本文)。

ただし,事情があれば,事前に家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申述して,熟慮期間を延長してもらえる場合があります(民法915条1項ただし書き)。

また,家庭裁判所に対して限定承認の申述をする際には,相続財産の目録を作成してこれを提出する必要があります。

申述については,口頭ではなく,限定承認の申述書を作成し,これを提出する方法によって行う必要があります(家事事件手続法201条5項)。

共同相続人全員による申述

民法 第923条
相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。

限定承認は,前記手続的要件だけでなく,さらに,相続放棄と異なり,共同相続人がいる場合には,その共同相続人全員で申述をしなければならないという要件があります(民法923条)。

相続放棄であれば,仮に他の共同相続人が単純承認をしたり,または法定単純承認事由が生じていたりしても,単独で相続放棄の申述をすることが可能です。

ところが,限定承認の場合には,他の共同相続人全員と共同で申述をする必要があります。

そのため,もし他の共同相続人の1人でも,単純承認したり法定単純承認となってしまった場合には,もはや誰も限定承認できなくなってしまうのです。

したがって,限定承認をするには,共同相続人全員の足並みがそろっていることが必須となってきます。限定承認が利用されにくい理由の1つもここにあると言われています。

なお,共同相続人全員で限定承認を申述し,それが家庭裁判所に受理された後,共同相続人の1人が相続財産隠匿などの背信行為をした場合には,その相続人について法定単純承認が成立し(民法921条3号),他の相続人には限定承認の効力が認められますが,背信行為をした相続人は単純承認をしたものとみなされ,単純承認者としての責任を負担することになります。

共同相続人の1人が相続財産を処分して法定単純承認(民法921条1号)が成立していたことを知らずに共同相続人全員で限定承認を申述して受理された後に,その相続財産処分をしていたことが判明した場合にも,上記と同様,他の相続人には限定承認の効力が認められますが,相続財産処分行為をした相続人は単純承認をしたものとみなされ,単純承認者としての責任を負担することになります。

ただし,共同相続人の1人が相続放棄をしたとしても,他の共同相続人全員で限定承認を申述することができます。相続放棄をした共同相続人は,はじめから共同相続人ではなかったものとして扱われるからです。

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