相続財産(遺産)とは?

相続財産の画像

相続財産とは,相続開始の時から,相続人に包括的に承継されることになる被相続人の財産に属した一切の権利義務のことです(民法896条本文)。一般的には「遺産」と呼ばれます。

ただし,被相続人の財産に属した権利義務であっても,被相続人の一身に専属したものは相続財産に含まれません(同条ただし書き)。また,生命保険金や死亡退職金は,受取人固有の財産であり,相続財産には含まれないと解されています。

なお,祭祀に関する権利は相続財産に含まれますが,他の相続財産と異なり,相続人ではなく祭祀主催者に承継されます(民法897条)。

相続財産とは?

民法 第896条
相続人は,相続開始の時から,被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし,被相続人の一身に専属したものは,この限りでない。

相続が開始されると,被相続人に帰属していた一切の権利義務が,相続人に包括的に承継されることになります(民法896条本文)。包括的に承継されるとは,要するに,そのまま受け継がれるということです。

この相続によって相続人に承継される被相続人の権利義務のことを「相続財産」といいます。一般的には「遺産」と呼ばれています。

遺産というと,物など形のある財産というイメージがあります。しかし,相続財産は,形のある財産に限られません。

前記のとおり,相続財産は,後述する被相続人の一身に専属していた権利義務を除いて,被相続人に属していた一切の「権利義務」が含まれます。

したがって,物だけに限られず,被相続人が有していた債権やある特定の地位なども相続財産に含まれます。例えば,契約における一方当事者たる地位や契約の解除権者たる地位なども,相続財産に含まれます。

また,「義務」も含まれるわけですから,相続において承継される相続財産には,プラスの財産(資産)だけでなく,マイナスの財産(負債)も含まれます。

したがって,被相続人に借金があれば,その借金を返す債務も相続人に承継されることになってしまうということです。

よく問題となる相続財産の例

遺産相続において問題となる相続財産としては,以下のものが代表的です。したがって,以下の財産については,最低限,確認をしておくべきでしょう。

現金

言うまでもなく,現金は相続財産に含まれます。自宅等に遺されているものだけでなく,銀行の貸金庫などがないかも確認しておくべきでしょう。

預貯金

法的にいえば,預貯金の払戻請求権という債権ですが,こちらも相続財産に含まれます。

実務上,銀行側は,相続人が複数人いる場合,単独での払い戻しに応じてくれない場合が大半です。

そこで,共同相続人全員で手続をするか,委任状などを取り付けて代表者が払戻し手続を行うなどの対処が必要となる場合があります。

また,民法909条の2に基づく預貯金債権の一部行使や,家庭裁判所における遺産分割前の預貯金債権の仮分割仮処分を利用すれば,相続人が単独で預金を引き出すことができます。

不動産

相続において最も頻繁に紛争となるのは,やはり価値の大きい土地建物といった不動産でしょう。もちろん相続財産です。

もっとも,場合によっては相続人の知らない不動産を被相続人が所有していたということも少なくありません。

市町村役場から名寄帳を取り寄せるなどして,どのような不動産を被相続人が所有していたかをすべて確認すべきです。加えて,不動産鑑定士や不動産会社等に依頼して査定をとっておくべきです。

自動車等

自動車等も相続財産となります。現物を確認するだけなく,車検証の所有者名義を確認しておくべきでしょう。自動車ローン会社名義のままになってしまっている場合もありますので,注意が必要です。

また,自動車査定協会や中古自動車販売業者等に依頼して,時価の査定をとっておく必要があります。

その他動産

自動車以外の動産についても相続財産の対象です。

処分価値のない動産であれば特に争いになることはないでしょう(ただし,逆に廃棄処分費用を誰が負担するかで争いになることはあり得ます。)。

高価品(たとえば,宝石・美術品など)については専門の鑑定士等による査定をとっておく必要があります。

有価証券

有価証券も相続財産に当たります。どのような株式等を持っていたのかは,株券がない現在では把握できない場合があります。

被相続人宛てに送られてくる証券会社等からの郵送物を細目にチェックしておく必要があります。

株式については,上場企業の株式であれば相場を,そうでない企業の場合には,公認会計士等に依頼して時価評価額を確認しておいた方がよいでしょう。

債権等

例えば,被相続人が誰かに金銭を貸し付けていたような場合には,その貸金の返還請求権等の債権も相続財産となります。

債権が契約に基づくものであれば,契約書等が必要となってきますし,そうでない損害賠償請求権のような債権であれば,示談書や判決等の書面がないかを確認する必要があるでしょう。

相続財産に該当しないもの

前記のとおり,相続財産とは,被相続人に属していた一切の権利義務を意味します。

もっとも,被相続人に属していた権利義務であっても,相続財産に含まれず,相続によって承継されないというものもあります。

被相続人の一身に専属していた権利義務

被相続人が有していた権利義務であるにもかかわらず相続財産に含まれないものとは,被相続人の一身に専属していた権利義務です(民法896条ただし書き)。

一身専属的な権利義務とは,その権利や義務の性質・内容からして,他の人に与えたり課したりすべきものではなく,その人にだけ与えられてしかるべき権利やその人にだけ課せられてしかるべき義務のことをいいます。

一身に専属していた権利義務とは,要するに,特定の被相続人だけが有することができ,他の人には有することができない権利義務です。

被相続人との個人的な信頼関係をもとにして成立した権利義務などは,あくまで被相続人と相手方との間の個人的な関係をもとにしているため,たとえ相続であっても,被相続人以外の人に承継させることは適当ではありません。

そのため,被相続人に一身専属する権利義務については,相続人には承継されないものとされているのです。

一身専属権であることについての明文規定があるものとしては,以下のようなものがあります。

  • 代理権
  • 使用貸借における借主の地位
  • 雇用契約における当事者の地位
  • 組合契約における組合員の地位

また,明文規定はないものの,解釈上一身専属権と解されているものとしては,以下のようなものがあります。ただし,以下のものは,裁判等の確定により金額が確定するなどして具体化されている場合には,相続財産に含まれると解されています。

  • 委任契約における当事者の地位
  • 扶養請求権
  • 財産分与請求権(ただし慰謝料請求の性格を有する部分については争いあり)
  • 生活保護法に基づく生活保護給付受給権

相手方の期待を裏切らないようまたは不当に利益を与えないように,この一身専属的な権利・義務となる範囲は,ごく例外的な限定されています。

例えば,金銭的な権利・義務については,原則として相続されるものと考えるべきでしょう。

退職金(死亡退職金)

被相続人が死亡した場合,勤務先から死亡退職金が支払われるという場合があるかと思います。

この死亡退職金が相続財産に含まれるのかどうかということは,その金額が非常に高額となる場合が多いこともあって,実務上非常に問題となってきます。

これについては,死亡退職金は受取人固有の権利であり,相続財産には含まれないと考えるのが原則です。

ただし,例外的に金額等からみて著しく他の相続人等と比べて不公平となる場合には,(実際はかなり厳しいと言わざるを得ませんが)特別受益として扱われると解する余地もあるでしょう。

生命保険金

生命保険金についても,死亡退職金と同様,それを相続財産に含めるべきか否かということが頻繁に問題となります。

この点についても,やはり原則論は,生命保険金は被相続人が受け取るべきものではなく,あくまで保険金受取人として指定されている者が受け取るものであるので,受取人固有の権利であり,相続財産には含まれないということになります。

ただし,退職金と同様,例外的に金額等からみて著しく他の相続人等と比べて不公平となる場合には,(実際はかなり厳しいと言わざるを得ませんが)特別受益として扱われると解する余地もあるでしょう。

また,相続税との関係では,受取人が相続人である場合には,課税対象となる相続財産に含まれる場合があります。

祭祀に関する権利

民法 第897条
第1項 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
第2項 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

なお,上記の財産等とは別に,相続財産には該当するものの,通常の相続のルールでは分配されない財産というものもあります。祭祀に関する権利がこれに当たります。

この祭祀に関する権利は,祭祀主催者に承継されることになります(民法897条1項)。具体的には,墓地,仏壇,仏具などの財産が,この祭祀に関する権利に当たります。

また,遺骨についても,祭祀に関する権利には該当しませんが,これと同様に,祭祀主催者が埋葬のための管理権を有するとされています。

これら祭祀財産は,相続と同様に他者に承継されるのですが,相続とは違う形で他者に承継されます。

つまり,祭祀財産は相続財産から除かれることになり,しかも,祭祀財産は相続人に承継されるのではなく,「祭祀主宰者」に承継されることになります。

なお,祭祀主催者を誰にするかについては,遺言等で被相続人が決めることができます。仮に被相続人が決めなかった場合には,慣習によって決め,慣習でも決まらなければ,家庭裁判所の審判によって決めることになります。

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