
自己破産すると,所有不動産(土地・建物)は,裁判所が選任した破産管財人によって換価処分されます。住宅ローン等の担保になっている不動産は,破産管財人によって換価処分されるか,そうでないとしても,担保権者である住宅ローン会社等によって競売にかけられて処分されます。
不動産を維持するためには,自己破産以外の債務整理(任意整理や個人再生)を検討する必要があります。
なお,自己破産申立て前に不動産を譲渡したり任意売却すると,破産手続開始後に破産管財人による否認権行使の対象になったり,免責不許可事由に該当すると判断されるおそれがあるため,安易に行うことは避けるべきです。
自己破産における不動産(土地・建物)の処分
自己破産すると,生活に最低限度必要となる財産(自由財産)を除く財産は,裁判所が選任した破産管財人によって換価処分されます。
不動産(土地・建物)は,個人が所有する財産のうちでも特に高額な財産です。
そのため,自己破産すると,住宅ローンなどの担保になっているか否かにかかわらず,よほど低価格な上に売却が著しく困難であるようなごく例外的な物件を除いて,すべて換価処分されることになります。
ただし,住宅ローン等の担保になっているか否かによって,処分方法には違いがあります。
住宅ローン等が残っていない不動産
住宅ローン等が残っていない不動産(土地・建物)は,純粋な財産・資産です。そのため,自己破産すると,破産管財人によって売却処分され,代金は債権者への弁済や配当に充てられます。
住宅ローン等が残っている不動産
住宅ローン等が残っており,所有不動産(土地・建物)がその担保となっている場合も,自己破産すると,破産管財人によって売却処分され,代金は債権者への弁済や配当に充てられます。
ただし,抵当権などの担保が設定されていますから,担保権者である住宅ローン会社などの同意なく売却することはできません。
担保権者の同意を得られず,破産管財人が売却処分できなかった場合は,その担保権者が不動産を競売にかけて売却処分することになります。
同時廃止になった場合の不動産の処分
自己破産申立ての時点において,破産手続費用を支払うだけの財産や免責不許可事由が無いことが明らかな場合には,破産管財人が選任されずに手続が廃止される同時廃止手続になることがあります。
不動産(土地・建物)を所有している場合でも,その不動産が住宅ローン等の担保となっており,不動産の査定価格よりも住宅ローンの残額の方が大幅に高額であるときには,同時廃止になることがあります。
東京地方裁判所の場合には、住宅ローン残高が査定額の1.5倍以上のオーバーローンのとき、大阪地方裁判所の場合には、住宅ローン残高が固定資産評価額の2倍以上または住宅ローン残高が査定額の1.5倍以上のオーバーローンのときに、同時廃止になるとされています。
同時廃止の場合には,破産管財人が選任されませんから,当然,破産管財人によって不動産が売却処分されることはありません。ただし,同時廃止であるから不動産を失わないわけではありません。
同時廃止であっても,住宅ローン会社等の担保権者が不動産を競売にかけて売却処分しますので,やはり不動産を失うことになります。
不動産が住宅ローン等の担保になっていない場合、同時廃止になることはありません。
自己破産申立て前に不動産を任意売却・譲渡することの是非
自己破産を申し立てる前に,所有不動産(土地・建物)を,不動産会社を通じて任意売却したり,家族・親族等に名義変更するなどして譲渡する事例があります。
しかし,自己破産申立て前に,所有不動産を売却・譲渡してしまうと,破産手続開始後に破産管財人による否認権行使の対象となったり,不当な財産処分として免責不許可事由の問題となる可能性があります。
否認権行使の対象となると,売却行為の全部または一部の効果が否定されて,破産管財人が,不動産の買主に対して代金の追加支払いや,場合によっては,不動産の返還を請求することになります。
免責不許可事由に該当するということになれば,免責の許可を受けれなくなる可能性が生じてしまいます。
もちろん,適正価格で売却し,その代金を(弁護士や司法書士の費用・裁判費用・最低限の生活費に充てることは可能です。)破産管財人に引き渡すことができれば問題はないでしょう。
しかし,何が適正価格なのかを判断するのは簡単ではありません。
支払いが困難になった後,自己破産を決意した後は,安易に不動産を任意売却したり,他人に譲渡することは避けた方がよいでしょう。
弁護士費用・裁判費用・最低限の生活費に充てる場合でも,まずは専門家の弁護士等に相談されることをお勧めします。
自己破産する場合の自宅からの転居の時期
前記のとおり,自己破産すると所有不動産(土地・建物)を失うことになります。不動産が自宅であれば,そこから転居しなければいけません。
いつまでに引っ越ししなければならないかについて特に決まりはありませんが,最低でも,破産管財人による売却処分や担保権者による競売が終了するまでには転居できている必要があります。
ただし,いつ売却完了するかは物件によって異なります。すぐに売れることもあれば,数か月かかることもあります。その間,自宅にたびたび見積業者や内覧の希望者が来ることになります。
できれば,自己破産の申立てかその後すぐくらいまでには,引っ越しを済ませていた方が無難でしょう。
個人再生など自宅不動産を維持する方法の検討
前記のとおり,自己破産すると,所有不動産(土地・建物)は,破産管財人によって売却処分されるか,または,担保権者によって競売されることになります。自己破産において,不動産を維持することは困難です。
所有不動産が自宅である場合には,所有権は失ってもせめて済み続けたいという希望もあるでしょう。
これも容易ではありませんが,考えられる方法としては,親族等やリースバックなどを行っている業者に破産管財人からその不動産を買い取ってもらい,そこを借りるという方法があり得ます。
ただし,金額的な問題がありますので,破産管財人が同意しないこともあります。必ず買い取れるとは限りません。
そこで,自己破産以外の債務整理を検討する必要が生じます。自己破産以外の方法としては,任意整理や個人再生が考えられます。
任意整理による方法
任意整理は,弁護士や司法書士が代理人となって債権者と交渉し,返済条件を変更してもらう手続です。
住宅ローンが残っている場合であれば住宅ローンはそのまま支払いながら,それ以外の債権者と交渉して返済条件を変更できれば,自宅を残したまま債務を整理することが可能となります。
ただし,任意整理は相手方が同意しなければ上手くいきません。債務額が高額であると,そもそも支払いが難しいということもあるでしょう。
個人再生による方法
個人再生は,裁判所に債務減額等を定めた再生計画を認可してもらうことによって,債務減額等の債務整理を実現する裁判手続です。
自己破産と異なり,必ずしも財産の処分は必須とされていません。ただし,処分は不要ですが,不動産の価格が返済総額(減額率)に影響します。不動産の価格が高額で住宅ローンを上回っている場合(アンダーローン)には,利用が難しいこともあります。
また,住宅ローンの残っている自宅がある場合でも,住宅資金特別条項という特別な制度を利用できるときは,住宅ローンを従前どおり(または若干変更して)支払い続けて自宅(自宅不動産に限られます。)を維持したまま,それ以外の借金等を整理することが可能です。