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過払い金返還請求における取引の分断(中断)の問題とは?

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

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過払い金返還請求において最も争われる論点は,取引が複数ある場合に,一方の取引で発生した過払い金を他方の取引における債務残高に充当できるのか,または,複数の取引を一連の取引として扱うことができるのかどうかです。

取引の分断(取引の中断)と呼ばれる論点です。

取引の分断の問題とは

ある貸金業者からお金を借りる場合,契約または取引が1本ではない場合があります。この複数の取引をどのように扱うのかは、過払い金返還請求において最も激しく争われている争点です。「取引の個数」の問題と呼ばれています。

この取引の個数の問題には、「取引の分断(取引分断型・取引中断型)」と「取引の併存(取引併存型)」の2つのパターンがあります。

このうち取引の分断とは、貸金業者との間で取引を行い,その取引について完済した後に、再度同じ貸金業者との間で取引を再開することによって、取引が複数になる場合を指します。

この場合、分断前の取引で発生した過払い金を分断後の取引の借入金債務に充当することができるのか、つまり、分断前後にかかわらず、すべての取引を1つの取引として引き直し計算できるのかが問題となります。

このすべての取引を1つの取引として引き直し計算することを「一連計算(一連充当計算)」といいます。取引の分断の問題とは、一連計算の可否の問題なのです。

この取引の分断の問題は、同一の基本契約がある場合と同一の基本契約がない場合とに分けることができます。

同一の基本契約がある場合(基本契約取引分断型)

同一の基本契約がある場合とは,分断している複数の取引について同一の基本契約が締結されている場合のことです。基本契約取引分断型または基本契約取引中断型と呼ばれることがあります。

この基本契約取引分断型において一連計算できるかについて判断した最高裁判例として、最高裁判所第一小法廷平成19年6月7日判決(民集61巻4号1537頁)があります。

この判例によると、同一の基本契約がある場合、その基本契約には、前の取引で発生した過払い金を後の取引の貸付金に充当する合意(過払金充当合意)が含まれていると解されています。

そして、過払金充当合意がある場合には、分断した取引を1個のものとして扱い、一連計算することができると判断しています。

基本契約取引分断型の場合、すべての取引を一連充当計算できることについてあまり争いはないでしょう(ただし,最二小判平成20年1月18日に基づいて異なる解釈がなされる場合はあり得ます。)。

同一の基本契約がない場合(非基本契約取引分断型)

同一の基本契約がない場合とは,分断している複数の取引について個別の契約が締結されている場合(または、そもそも基本契約がない場合)のことです。非基本契約取引分断型または非基本契約取引中断型と呼ばれることがあります。

この同一の基本契約がない場合の取引分断において一連計算できるかどうかを判断した代表的な最高裁判例として、2つの判例があります。

最一小判平成19年7月19日

同一の基本契約がない場合、当然に過払金充当合意が認められるわけではありません。そのため、原則としては一連計算できないはずです。

もっとも、最高裁判所第一小法廷平成19年7月19日判決は、分断している複数の取引が「1個の連続した貸付取引」と評価できる場合には、同一の基本契約がないときでも過払い金充当合意が認められると判断しました。

この判決により、基本契約の有無にかかわらず、過払い金充当合意があれば一連計算が可能であるとする判例理論が定着しました。

最二小判平成20年1月18日

最高裁判所第二小法廷平成20年1月18日判決も、前記最一小判平成19年7月9日と同様、分断している複数の取引が「事実上1個の連続した取引」と評価できる場合には,前の取引で発生した過払い金を後の取引の貸付金に充当するという合意(過払金充当合意)を認められると判示しています。

この判決ではさらに、具体的にどのような場合に分断した取引が事実上1個の連続した取引と評価できるのかについて、以下の判断要素を示しています。

最二小判平成20年1月18日の判断要素
  • 第1の基本契約に基づく貸付けおよび弁済が行われた期間の長さやこれに基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間
  • 第1の基本契約についての契約書の返還の有無
  • 借入れ等に際して使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無
  • 第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況
  • 第2の基本契約が締結されるに至る経緯
  • 第1と第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同等

これらの要素を総合的に考慮して事実上1個の連続した取引と評価できる場合には、過払い金充当合意が認められ、すべての取引を一連計算することが可能となります。

最二小判平成20年1月18日以降の傾向

前記のとおり、同一の基本契約がある場合は、基本契約に過払い金充当合意が含まれていると考えられるので、同一の基本契約があることさえ主張立証できれば一連計算できるはずです。

しかし、最二小判平成20年1月18日が出された後は、同一の基本契約がある場合でも、この平成20年判例の判断要素に従って過払い金充当合意の有無を判定する裁判官が増えています。

そのため、基本契約の有無にかかわらず、平成20年判例の判断要素については検討をしておいた方がよいでしょう(もっとも、同一の基本契約がある場合は、平成20年判例の要素を満たしやすいことはたしかです。)。

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