個人再生(個人民事再生)とは?

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民事再生手続とは,再生計画を定めて債務を整理することによって,破産を回避しつつ債務者の経済的更生を図る手続です。この民事再生手続を簡易化し,個人でも利用しやすいようにした手続が「個人再生(個人民事再生)」です。

簡単に言うと,個人再生とは,裁判手続によって,強制的に債務の減額や長期の分割払いへと変更することにより,個人の経済的更生を図る制度です。

個人再生手続は,民事再生法第13章「小規模個人再生及び給与所得者等再生に関する特則」において定められています。この表題のとおり,個人再生には,「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2種類が設けられています。

民事再生とは

民事再生法には,民事再生手続という倒産手続が定められています。

民事再生法は,「この法律は,経済的に窮境にある債務者について,その債権者の多数の同意を得,かつ,裁判所の認可を受けた再生計画を定めること等により,当該債務者とその債権者との間の民事上の権利関係を適切に調整し,もって当該債務者の事業又は経済生活の再生を図ること」を目的としています(民事再生法1条)。

民事再生手続とは,要するに,再生計画を定めて債務を整理することによって,破産を回避しつつ債務者の経済的更生を図るという手続です。

個人再生(個人民事再生)とは

前記民事再生手続は,そもそも企業など法人を想定して設けられた制度です。

そのため,個人に対しては当てはまらない,あるいは,費用が高額となるなどの理由から,個人の債務者にとって非常に利用しにくい制度でした。

しかし,再生手続は,破産せずに債務を整理できる手続であるため,個人の債務整理に利用することができれば,多重債務問題解決の大きな助けとなることは間違いありません。

そこで,民事再生法において,個人版の民事再生手続ともいうべき「個人再生」が設けられることになりました。

民事再生法第13章の「小規模個人再生及び給与所得者等再生に関する特則」がそれです。「個人民事再生」と呼ばれることもあります。

大まかにいえば,個人再生手続とは,裁判手続によって,強制的に債務を大幅に減額したり,長期の分割払いにすることにより,個人の経済的更生を図ることができるという制度です。

具体的には,債務を5分の1程度にまで(借金が3000万円以上の場合は10分の1)にまで減らすことが可能な場合があります。

また,単に減額させるだけでなく,その減額された債務を3年から5年の長期分割払いにすることができます。

加えて,財産の処分や資格の制限などの自己破産におけるデメリットを回避することもできます。

債務整理の方法としても,個人再生の手続は非常に有効です。

個人再生の種類

民事再生法13章のタイトルを見てもらえば分かるように,個人再生には「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」という2つの手続が用意されています。

個人再生の基本類型は小規模個人再生です。小規模個人再生は,もともと小規模の事業者を対象として設けられた制度ですが,実際には,事業者だけでなく,サラリーマンなど給与所得者も利用しています。

個人再生を利用する方の大半が,この小規模個人再生を利用しているといってよいでしょう。

個人再生の特別類型として,給与所得者等再生も用意されています。これは文字どおり,サラリーマンなどの給与所得者が利用できる個人再生手続です。

小規模個人再生では,債務総額や財産の多寡によって異なりますが,債務額を最大で10分の1にまで減額することが可能です。

しかし,債権者から一定数以上の異議(不同意)があると,再生計画の認可を得られなくことがあります。

これに対して,給与所得者等再生では,小規模個人再生と異なり,給与所得者など定期的で変動の小さい収入のある債務者だけしか利用できない手続です。

ただし,可処分所得の2年分以上を最低でも返済しなければならないとされています。そのため,小規模個人再生よりも返済総額が高額になることがあります。

しかし,給与所得者等再生の場合,小規模個人再生と異なり,債権者の異議があっても,要件を充たしていれば再生計画が認可されます。

そのため,債権者からの異議が見込まれるため小規模個人再生を利用できない場合には,給与所得者等再生を選択することになります。

個人再生の利用を検討している場合には,まず小規模個人再生を利用できないかを検討し,それが難しい場合に給与所得者等再生を利用できないかを検討することになるでしょう。

住宅資金特別条項(住宅ローン特則)

個人再生には「住宅資金特別条項(住宅ローン特則)」という特別な制度が用意されています。

住宅資金特別条項とは,住宅ローンの残っている自宅がある場合に,住宅ローンを従前どおりまたは若干のリスケジュールをして支払いながら,住宅を処分せずに,住宅ローン以外の債務を個人再生によって減額・分割払いにすることができるという制度です。

住宅資金特別条項を利用できれば,住宅ローンの残っている自宅を処分しないまま,借金の整理が可能になるのです。

この住宅資金特別条項は,小規模個人再生・給与所得者等再生のいずれでも利用可能です。実際,この住宅資金特別条項付きの個人再生を利用する人は少なくありません。

債務整理手続としての個人再生の特徴

借金などを支払えなくなった場合,この借金問題を解決するための方法にはいろいろな手段が考えられます。借金問題解決のためにとられるいろいろな手段を,まとめて「債務整理」と呼んでいます。

個人再生(個人民事再生)は,通常の民事再生に比べはるかに簡易迅速で,それによってかかる費用も相当廉価に抑えることができます。

加えて,支払わなければいけない債務の総額や月々の支払額も,相当減額することができます。

小規模個人再生の場合であれば,原則として債務総額の5分の1で済んでしまうというように,かなり強力な効力を持っています。

そのため,個人再生は,債務整理の手段の1つとして多く用いられています。

任意整理と個人再生

任意整理とは,弁護士等が貸金業者など債権者と交渉し,債務者の生活を圧迫しない程度の返済条件を合意してもらうという手続です。

任意整理は,裁判外での交渉です。したがって,法的な制限はあまりありません。そのため,比較的柔軟な対応が可能となるというメリットがあります。

しかし,任意整理は,裁判外の交渉であるため,強制力がありません。

したがって,債権者が交渉に応じない場合や条件面で折り合いがつかない場合には,任意整理をすすめることができなくなってしまうというデメリットがあります。

これに対して個人再生の場合は裁判手続です。そのため,裁判所によって再生計画認可決定がなされれば,法的な強制力を生じます。

つまり,仮に個々の債権者との間で話がつかなくても,再生手続認可決定さえされれば,借金を整理することが可能となるということです。

また,任意整理の場合には,基本的に債務元金(引き直し計算後)の36回払いが原則です。

元金を減額するのはなかなか難しいのが現実です。最近では、さらに、利息遅延損害金のカットに応じないという貸金業者も増えてきています。

これに対して,個人再生の場合には,法律によって強制的に減額が可能であり,しかも,元利併せた金額とはいえ,借金を5分の1(場合によっては10分の1)にまで減額することが可能な場合があります。

返済金額という面からみても,個人再生の方が圧倒的に有利といえるでしょう。

自己破産と個人再生

自己破産は,免責許可決定によって借金の全額の支払い義務を免れることができるようになるという非常に強力な手続です。しかしその反面,制限も少なくありません。

自己破産の場合は,財産の処分が必要です。また,破産手続中は,資格を使った仕事をすることが制限されたり,郵便物が破産管財人によって調査されたりすることになります。

さらに,免責不許可事由がある場合には,免責が不許可になってしまうこともあり得ます。

これに対して個人再生の場合には,基本的に財産の処分は必要ありません。また,住宅資金特別条項という特別の制度を利用することによって,住宅ローンの残っている自宅を処分せずに済む場合すらあります。

加えて,個人再生の場合には,資格の制限や郵便物の転送などはありません。さらに,免責不許可事由がある場合でも利用することが可能です。

個人再生のメリット

個人再生には,以下のようなメリットがあります。

個人再生のメリット
  • 自己破産と違い,財産の処分は必須とされていない。
  • 自己破産と違い,資格の制限がない。
  • 自己破産と違い,免責不許可事由があっても債務整理できる。
  • 任意整理と違い,裁判手続なので強制力がある。
  • 任意整理と違い,大幅な減額(最大10分の1)が可能となる。
  • 減額した上で3年から5年の分割払いにできる。
  • 住宅資金特別条項を利用することにより,住宅ローンの残っている自宅を処分せずに債務を整理できる。

個人再生は,自己破産と異なり,財産の処分が必要とされておらず,資格制限などの制限もなく,また,免責不許可事由があっても利用できます。また,裁判手続ですから,任意整理と異なり,強制力があります。

自己破産のように借金全額が免除されるわけではありませんが,最大で10分の1にまで減額が可能であり,しかも3年から5年の分割払いにしてもらえます。

さらに,住宅資金特別条項を利用できる場合には,住宅ローンの残っている自宅を処分せずに借金を整理できます。

個人再生には多くのメリットがあるのです。

個人再生のデメリット

上記のとおり,個人再生には多くのメリットがありますが,以下のようなデメリットもあります。

個人再生のデメリット
  • ブラックリスト(信用情報の事故情報)に10年間登録される
  • 個人再生をしたことが官報に公告される
  • 自己破産よりも要件が厳しく,利用できない場合がある
  • 手続を自分で進めていかなければならない
  • 小規模個人再生の場合,債権者の不同意によって認可されないことがある

個人再生も他の債務整理と同じく,信用情報に事故情報(ブラックリスト)として登録され,10年ほどの期間は,新たに借入れをしたり,ローンを組んだりすることが非常に難しくなるデメリットがあります。

また,個人再生を申し立てると,氏名・住所とともに,個人再生をしていることが官報に公告されます。そのため,誰にも知られずに個人再生をするというのは,難しいと言えます。

さらに,個人再生はメリットが大きい反面,要件が厳しく,手続も複雑です。しかも,手続を債務者自身で進めなければいけないため,負担も小さくない面があります。

前記のとおり,小規模個人再生の場合には,債権者から一定数以上の不同意があると認可に至らないというデメリットもあります。

個人再生を行う場合には,やはり法律の専門家のアドバイスやサポートが必要となってくるでしょう。

個人再生手続の流れ

個人再生には小規模個人再生と給与所得者等再生がありますが,基本的な手続きの流れは同じです。

個人再生の手続を開始してもらうためには,管轄の地方裁判所に対して再生手続開始の申立書を提出する方式で再生手続開始の申立てをしなければなりません。

個人再生の申立てを受理した裁判所は,内容を審査し,要件を充たしていると判断したならば,再生手続開始の決定をします。

多くの裁判所では、全件について個人再生委員が選任されるということはないのですが、東京地方裁判所本庁立川支部の場合には、申立てがなされると,全件について個人再生委員が選任される運用になっています。裁判所ごとに運用が異なりますので、確認が必要です。

個人再生委員が選任される場合には,個人再生委員が再生債務者と面談を行うなどして,手続を開始してよいかどうかの意見書を裁判所に提出し,それに基づいて裁判所が開始の決定を出すかどうかを判断します。

個人再生手続が開始されると,裁判所から各再生債権者に対して通知がなされ,各再生債権者は,それぞれ再生債権の届出をします。再生債務者は,この届け出られた債権等について債権の認否をします。

債権認否に争いが生じた場合には,再生債権査定の手続が行われ,その手続内で再生債権の存否や額が決められることになります。

債権認否・債権査定を経て再生債権が確定した後,これに基づき,再生債務者は再生計画案を策定して裁判所に提出します。

提出された再生計画案は,小規模個人再生であれば再生債権者の決議に,給与所得者等再生であれば再生債権者からの意見聴取に付されます。

この際,小規模個人再生においては,再生債権者から一定数以上の不同意があると手続は廃止になってしまいます。

再生債権者から特段の異議がなければ,裁判所が再生計画を認可してよいかどうかの審査を行い,要件を充たしていると判断すれば,再生計画認可の決定をします。

その後,再生計画認可決定が確定した後は,その計画に基づいて,各再生債権者に返済をしていくことになります。

個人再生を選択するのが適切である場合

上記のとおり,個人再生には多くのメリットがあります。

とはいえ,個人再生の場合,減額されるとはいえ返済を継続していくことになりますから,債務整理の方法として考えると,借金を全額免除してもらえる自己破産の方が強力な効果があることは確かです。

また,任意整理は,同じく返済を継続していくとはいえ,裁判外での手続ですので,個人再生のような厳しい条件や法的な制限がなく,比較的柔軟な対応が可能です。

したがって,自己破産や任意整理をすることができない場合や自己破産はできるものの,自己破産によって生じる資格の制限や財産の処分などと言ったデメリットを回避しなければならない事情がある場合には,個人再生を選択するのが適切であると言えるでしょう。

例えば,以下のような場合に,個人再生を選択することがあります(ただし,あくまで以下は例示です。以下の場合以外でも,個人再生を選択することはあり得ます。)。

個人再生を選択する場合の具体例
  • 任意整理では,毎月の返済額が大きくなりすぎる場合
  • 資格を使った仕事をしているため,自己破産を選択することが難しい場合
  • 処分できない財産(特に,自宅不動産)を所有しているため,自己破産を選択することが難しい場合
  • 重大な免責不許可事由があるため,自己破産をしても免責が許可されない可能性が高い場合
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