この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

個人再生(個人民事再生)には、「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」という2種類の手続が用意されています。
個人事業主・自営業者であっても、小規模個人再生を利用することは可能です。小規模個人再生を利用することによって、個人事業・自営業を続けながら、債務を整理できる場合もあります。
個人再生(個人民事再生)とは
民事再生手続(再生手続)とは、債務を減額し、長期分割払いにすることによって、自己破産をせずに、事業や財産を維持しつつ経済的な再生を図ることができる倒産手続です。
この民事再生手続には、通常の民事再生よりも簡易・迅速に手続を勧めることによって、個人でも利用できるようにされた「個人再生(個人民事再生)」という手続が設けられています。
この個人再生を利用することにより、個人(自然人)でも、民事再生手続を利用することが可能です。
個人再生の再生計画について裁判所の認可を受けることができれば、財産を処分せずに、借金・債務を大幅に減額し、長期の分割払いにしてもらえます。
また、住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用できる場合には、住宅ローンの残る自宅を処分せずに、住宅ローン以外の借金・債務を個人再生によって減額・長期分割払いにしてもらうことも可能です。
個人事業主・自営業者も個人再生を利用できるか?
個人再生には、「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」という2種類の手続が設けられています。
このうち給与所得者等再生は、サラリーマンなど給与所得者のように収入の変動が小さい個人の債務者について認められる個人再生手続です。
したがって、個人事業者・自営業者がこの給与所得者等再生を利用できる場合は少ないでしょう。
他方、小規模個人再生は、反復・継続した収入があることが求められるものの、ある程度収入に変動がある個人の債務者でも利用できます。
この小規模個人再生であれば、個人事業主・自営業者でも、個人再生を利用することが可能です。
そもそも小規模個人再生は、小規模な個人事業者や自営業者の方を対象として設けられた個人再生手続ですから、利用が可能となることは当然と言えば当然でしょう。
したがって、個人事業主・自営業者で個人再生を検討するならば、小規模個人再生の利用ができないかどうかを検討すべきでしょう。
個人事業主・自営業者が個人再生を利用するメリット
個人事業者・自営業者の方が個人再生を成功させた場合、以下のようなメリットがあります。
- 借金・債務を大幅に減額(事案によっては最大で10分の1)した上で3年から5年の長期分割払いにしてもらえる。
- 自己破産と異なり、財産の処分が必須とされていないため、事業資産・財産を処分せず、事業を継続しながら債務を整理できる場合がある。
- 自己破産と異なり、資格制限がないため、資格を使った事業や仕事を続けることができる。
- 免責不許可事由があっても利用できる。
- 住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用すれば、住宅ローンの残っている自宅を処分せずに、債務を整理できる。
- 個人事業・自営業で使っているリース物件がある場合、リース会社との間で別除権協定を締結し、それについて裁判所の許可を得ることによって、リース物件を維持することも可能な場合がある。
自己破産の場合、個人事業・自営業を廃業しなければならなくなることが多いのですが、個人再生であれば、個人事業・自営業を維持しつつ、借金・債務の整理を行うことが可能なことがあります。
したがって、個人事業主・自営業者にとって、個人再生には大きなメリットがあると言えます。
個人事業主・自営業者の個人再生における注意点
前記のとおり、個人事業主・自営業者の方にとっても、個人再生を利用することには大きなメリットがあると言えます。
もっとも、個人再生は利用のための要件が限定されています。誰にでも利用できるというわけではありません。
事案によって異なりますが、一般的に、個人事業者・自営業者の方が個人再生を利用できるかどうかを判断するに当たっては、以下のような点を検討する必要があります。
- 個人事業・自営業を継続するかどうか
- 債務額が5000万円を超えていないか
- 継続的・反復した収入を得る見込みがあるか
- 再生計画を履行できるだけの収入見込みがあるか
- 清算価値はどのくらいになるか
- 税金など公租公課の滞納がないか
- 債権者からの不同意の可能性があるか
- 取引先や従業員などの協力を得られるか
- 事業用のリース物件や所有権留保物件があるか
個人事業・自営業を継続するかどうか
基本的なことですが、そもそも個人事業・自営業を継続するかどうかを検討しなければなりません。
個人事業・自営業を継続せず、就職して給与所得者となるという選択肢も当然あり得ます。給与所得者の方が収入が安定しており、個人再生を利用しやすい面もあるからです。
個人事業・自営業を継続したまま個人再生を行うという場合には、さらに後述の各注意点も検討していくことになります。
債務額が5000万円を超えていないか
債務額(税金、社会保険料、住宅資金特別条項を利用する場合には住宅ローンの額は除きます。)が5000万円を超えている場合には、個人再生を利用できません。
ここで言う債務には、借金だけでなく、取引先に対する買掛金・仕入代金・外注費・各種経費なども含みます。
個人再生を利用する場合には、まず、債務額が5000万円を超えていないかどうかを確認しておく必要があります。
継続的・反復した収入を得られる見込みがあるか
個人再生を利用できるのは、継続的または反復して収入を得る見込みがある場合に限られます。
個人事業主・自営業者の方の個人再生で最も問題となるのは、この収入の継続性・反復性の要件かもしれません。
毎月定期的な収入が見込めるというのであれば、問題はありません。しかし、個人事業の場合には、収入の変動があるということも少なくないでしょう。
どの程度のペースで収入があれば、継続性・反復性が認められるのかについては明確な基準があるわけではありません。
個人再生の再生計画では、3か月に1回のペースで弁済していくことが認められています。そうすると、少なくとも3か月に1回は収入が見込まれる状況であった方がよいでしょう。
再生計画を履行していくだけの収入見込額があるか
仮に継続的・反復した収入があったとしても、再生計画における弁済をしていくだけの金額の収入見込みがなければ、再生計画は認可されません。
債務額や財産価値の金額をあらかじめ確認して、再生計画に基づく弁済見込額を算出し、現在の収入状況でその弁済が可能かどうかを確認しておく必要があります。
清算価値がどのくらいになるか
個人再生における弁済額は、清算価値以上でなければなりません(清算価値保障原則)。
清算価値保障原則とは、破産したと仮定した場合、破産手続における財産処分によって債権者に配当される金額以上は、個人再生においても弁済しなければならないということです。
事業設備や機械などを所有している場合、かなりの高額になることがあります。そうなると、清算価値の金額も高額となりますから、弁済見込額も高額となることがあります。
仮に継続的・反復した収入があっても、弁済見込額が高額となった結果、支払っていくだけの収入が無いと判断されれば、再生計画は認可されません。
したがって、個人再生を利用する場合には、まず、事業設備や機械、売掛金などの事業資産も含めて財産価値がどのくらいになるのかを確認しておく必要があります。
税金等の滞納があるかどうか
税金などの公租公課は一般優先債権となり、再生手続外で弁済をしていくことになります。つまり、減額されないということです。
したがって、弁済の可能性を検討するに当たっては、税金等の支払いも考慮して弁済可能性があるかどうかを検討しなければなりません。
注意を要するのは、税金等を滞納している場合です。税金を滞納していると、滞納処分によって売掛金などの財産が差し押さえられてしまうような可能性もあります。
税金等を滞納している場合には、それを解消するか、または、公租公課庁と相談して分納にしてもらうなどの措置をとり、滞納処分が行われないようにしておく必要があります。
債権者からの不同意の可能性があるかどうか
前記のとおり、個人事業主・ 自営業者の場合は、小規模個人再生を利用することになるのが通常です。
小規模個人再生においては、再生債権者による再生計画案の決議が行われます。
この決議において、議決権を有する再生債権者の総数の半数以上が不同意とした場合、または、不同意をした議決権を有する再生債権者の再生債権の額が総額の2分の1を超える場合には、再生手続が廃止となり、再生計画が認可されることはありません。
一般的に、金融機関の債権者は、特定の業者を除いて、ほとんど不同意の意見を提出してはきません。
しかし、個人事業者・自営業者の個人再生の場合には、金融機関だけでなく、取引先、顧客、従業員なども債権者となることがあります。
これら金融機関でない債権者から不同意意見が提出されることは考えられます。
したがって、金融機関でない債権者が多数含まれている場合などには、注意が必要となります。
取引先や従業員などの協力を得られるか
そもそも事業を継続していくことができなければ、収入がなくなるのですから個人再生は利用できません。
事業を継続していくためには、取引先や顧客、従業員がいるのであれば従業員の協力が必要となってきます。これらの関係者の協力を得られるかどうかも重要なポイントとなります。
特に、取引先などが債権者になる場合には、取引を打ち切られるおそれもあります。
したがって、そのような取引先等から協力を得られるかどうか、または、その取引先等からの協力を得られないでも事業を継続できるかどうかなどは、あらかじめ検討しておく必要があります。
事業用のリース物件や所有権留保物件があるか
事業でリース物件や所有権留保物件を使っている場合もあります。
リース料などが残っている場合、そのリース業者等も債権者になりますので、個人再生をすれば、そのリース物件等は引き揚げられてしまうのが通常です。
もっとも、そのリース物件等が事業運営に必要不可欠な物である場合には、別除権協定を締結して利用継続できることもあります。
ただし、別除権協定を締結できるとは限りませんし、締結できたとしても裁判所に認めてもらえるとも限りません。また、別除権協定に基づく支払いも発生します。
したがって、リース物件等を事業で利用しているか、事業に必要不可欠かなどもあらかじめ検討しておく必要があります。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
弁護士の探し方
「個人再生をしたいけど、どの弁護士に頼めばいいのか分からない」
という人は多いのではないでしょうか。
現在では、多くの法律事務所が個人再生を含む債務整理を取り扱っています。そのため、インターネットで探せば、個人再生を取り扱っている弁護士はいくらでも見つかります。
しかし、インターネットの情報だけでは、分からないことも多いでしょう。やはり、実際に一度相談をしてみて、自分に合う弁護士なのかどうかを見極めるのが一番確実です。
債務整理の相談はほとんどの法律事務所で「無料相談」です。むしろ、有料の事務所の方が珍しいくらいでしょう。複数の事務所に相談したとしても、相談料はかかりません。
そこで、面倒かもしれませんが、何件か相談をしてみましょう。そして、相談した複数の弁護士を比較・検討して、より自分に合う弁護士を選択するのが、後悔のない選び方ではないでしょうか。
ちなみに、個人再生の場合、事務所の大小はほとんど関係ありません。事務所が大きいか小さいかではなく、どの弁護士が担当してくれるのかが重要です。
レ・ナシオン法律事務所
・相談無料
・全国対応・メール相談可・LINE相談可
・所在地:東京都渋谷区
弁護士法人東京ロータス法律事務所
・相談無料(無料回数制限なし)
・全国対応・休日対応・メール相談可
・所在地:東京都台東区
弁護士法人ひばり法律事務所
・相談無料(無料回数制限なし)
・全国対応・依頼後の出張可
・所在地:東京都墨田区
参考書籍
本サイトでも個人再生について解説していますが、より深く知りたい方のために、個人再生の参考書籍を紹介します。
個人再生の実務Q&A120問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
個人再生を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、個人再生実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。
個人再生の手引(第2版)
編著:鹿子木康 出版:判例タイムズ社
東京地裁民事20部(倒産部)の裁判官および裁判所書記官・弁護士らによる実務書。東京地裁の運用が中心ですが、地域にかかわらず参考になります。
破産・民事再生の実務(第4版)民事再生・個人再生編
編集:永谷典雄ほか 出版:きんざい
東京地裁民事20部(倒産部)の裁判官・裁判所書記官による実務書。東京地裁の運用を中心に、民事再生(通常再生)・個人再生の実務全般について解説されています。
はい6民です お答えします 倒産実務Q&A
編集:川畑正文ほか 出版:大阪弁護士協同組合
6民とは、大阪地裁第6民事部(倒産部)のことです。大阪地裁の破産・再生手続の運用について、Q&A形式でまとめられています。
書式 個人再生の実務(全訂6版)申立てから手続終了までの書式と理論
編集:個人再生実務研究会 出版:民事法研究会
東京地裁・大阪地裁の運用を中心に、個人再生の手続に必要となる各種書式を掲載しています。書式を通じて個人再生手続をイメージしやすくなります。