この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

民事再生手続(再生手続)のうち、個人でも利用できるように手続を簡易化し、それに伴い費用も少額化したものが、「小規模個人再生及び給与所得者等再生に関する特則」です。この特則による手続のことを「個人再生」と呼んでいます。
他方、個人再生ではない通常の民事再生のことを「通常再生」と呼び、個人再生と区別することがあります。個人再生は、通常再生に比べて手続が大幅に簡易化されており、費用も格段に少額になっています。
個人再生と民事再生の関係
債務を整理するための法制度に「個人再生」や「民事再生」があります。個人再生と民事再生はまったく別の制度というわけではありません。いずれも、民事再生法に定められた制度です。
民事再生法に定められている民事再生手続(再生手続)は、裁判所に債務の減額などを定めた再生計画を認可してもらうことにより、破産をせずに債務を整理して経済的な更生を図る制度です。
この民事再生手続は、個人(自然人)でも法人でも利用できますが、もともとある程度の規模の法人を想定した制度設計となっているため、手続がかなり複雑で、費用も数百万円単位と高額になっています。
そのため、個人が民事再生手続を利用するのは、かなりハードルが高いのが現実です。しかし、自己破産せずに債務を整理できる再生手続は、個人の債務整理手段としても有効です。
そこで、個人でも利用できるように手続を簡易化し、それに伴い費用も少額化した「小規模個人再生及び給与所得者等再生に関する特則」が民事再生法13章に設けられました。
この「小規模個人再生及び給与所得者等再生に関する特則」のことを、言わば個人版の民事再生という意味で「個人再生」と呼び、個人再生ではない民事再生のことを区別して「通常再生」と呼んでいます。
個人再生と民事再生は、大きな手続の流れは同じものですが、個人再生の方が、通常の民事再生よりも大幅に簡易化されているという違いがあります。
利用条件(要件)に関する違い
前記のとおり、通常の民事再生は、個人でも法人でも利用することが可能です。他方、個人再生は、個人しか利用できません。
また、通常の民事再生は、債務者自身だけでなく、債権者も申立てができますが、個人再生は、債権者に申立権はなく、個人債務者しか申立てができません。
加えて、通常の民事再生は、債務額の上限なく利用が可能ですが、個人再生の場合は、債務額5000万円を超える場合は利用できません(住宅資金特別条項を利用する場合、住宅ローンの金額は5000万円に計上されません。)。
債務が5000万円を超える場合には、個人であっても通常の民事再生を利用するほかないということになります。
手続の難易に関する違い
前記のとおり、通常の民事再生と個人再生とでは、手続の大きな流れ自体に違いはありません。しかし、個人再生は、通常の民事再生よりも手続が大幅に簡易化されています。
例えば、個人再生の手続では、債権の実体的な確定はされず、評価手続によって手続内確定されるだけであることや、債権届を提出していない債権者でも、債権者一覧表に記載がある場合には、届出をしたものとみなされるなどの簡略化がされています。
また、債権者による再生計画案の決議も簡略化されており、小規模個人再生の場合は、常に書面決議とされ、一定数の不同意があるときにだけ否決となるものとされており、さらに、給与所得者等再生の場合には、再生計画案の決議自体が行われません。
通常の民事再生では監督委員や調査委員が、個人再生では個人再生委員が裁判所によって選任され(個人再生委員は選任されない場合もあります。)、手続の監督やチェックを行いますが、監督委員は手続全般の監督等の職務を行うのに対して、個人再生委員は裁判所から指定された職務のみを行います。
さらに、通常の民事再生では、再生計画が認可された後の弁済を監督委員が一定期間監督しますが、個人再生では、再生計画認可決定が確定すると手続が終了し、その後の弁済の監督は行われません。
費用に関する違い
手続の費用がどのくらいかかるのかは、申立てをする債務者の方にとって切実な問題です。
前記のとおり、通常の民事再生の場合、最低金額はおおむね200万円前後であり、ここからさらに、債権額に応じて数百万円単位の裁判費用がかかることがあります。弁護士に代理人を依頼する場合には、さらに数百万円単位の弁護士費用も必要です。
これに対して、個人再生の場合、裁判費用は数万円(個人再生委員が選任される場合は15万円ほどが追加。)です。弁護士費用も数十万円で済むでしょう。
このように通常の民事再生と個人再生とでは、かなり費用が異なってきます。
個人の債務整理における個人再生と民事再生
前記のとおり、個人再生・通常の民事再生いずれも、個人(個人事業者を含む。)の利用が可能です。
とはいえ、通常の民事再生は、手続の難易度的に、何より費用的に、個人の債務整理として利用するにはハードルが高くなっています。
したがって、個人の債務整理として利用するのであれば、やはり個人再生を利用する方向で検討すべきでしょう。
弁護士の探し方
「個人再生をしたいけどどの弁護士に頼めばいいのか分からない」という人は多いのではないでしょうか。
現在では、多くの法律事務所が個人再生を含む債務整理を取り扱っています。そのため、インターネットで探せば、個人再生を取り扱っている弁護士はいくらでも見つかります。
しかし、インターネットの情報だけでは、分からないことも多いでしょう。やはり、実際に一度相談をしてみて、自分に合う弁護士なのかどうかを見極めるのが一番確実です。
債務整理の相談はほとんどの法律事務所で「無料相談」です。むしろ、有料の事務所の方が珍しいくらいでしょう。複数の事務所に相談したとしても、相談料はかかりません。
そこで、面倒かもしれませんが、何件か相談をしてみましょう。そして、相談した複数の弁護士を比較・検討して、より自分に合う弁護士を選択するのが、後悔のない選び方ではないでしょうか。
ちなみに、個人再生の場合、事務所の大小はほとんど関係ありません。事務所が大きいか小さいかではなく、どの弁護士が担当してくれるのかが重要です。
他方、通常再生の場合は、対応できる事務所が限られてきます。小規模の事務所の場合には、対応が難しいこともあり得ます。その点からも、個人の債務整理では、通常再生ではなく、個人再生を選択した方がよいのです。
レ・ナシオン法律事務所
・相談無料
・全国対応・メール相談可・LINE相談可
・所在地:東京都渋谷区
弁護士法人東京ロータス法律事務所
・相談無料(無料回数制限なし)
・全国対応・休日対応・メール相談可
・所在地:東京都台東区
弁護士法人ひばり法律事務所
・相談無料(無料回数制限なし)
・全国対応・依頼後の出張可
・所在地:東京都墨田区
参考書籍
本サイトでも個人再生や通常再生について解説していますが、より深く知りたい方のために、個人再生や通常再生の参考書籍を紹介します。
破産・民事再生の実務(第4版)民事再生・個人再生編
編集:永谷典雄ほか 出版:きんざい
東京地裁民事20部(倒産部)の裁判官・裁判所書記官による実務書。東京地裁の運用を中心に、民事再生(通常再生)・個人再生の実務全般について解説されています。
個人再生の実務Q&A120問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
個人再生を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、個人再生実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。
通常再生の実務Q&A150問
編集:全国倒産処理ネットワーク 出版:きんざい
通常再生(個人再生ではない民事再生手続)について問題となるケースなどをQ&A方式で解説する実務書。通常再生を扱う実務家の多くが利用しているのではないでしょうか。
個人再生の手引(第2版)
編著:鹿子木康 出版:判例タイムズ社
東京地裁民事20部(倒産部)の裁判官および裁判所書記官・弁護士らによる実務書。東京地裁の運用が中心ですが、地域にかかわらず参考になります。
民事再生の手引(第2版)
編著:鹿子木康 出版:商事法務
こちらは、東京地裁民事20部(倒産部)の裁判官および裁判所書記官による通常再生の実務書。東京地裁の運用が中心ですが、地域にかかわらず参考になります。