この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

個人再生には、「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」という2種類の手続が用意されています。
小規模個人再生の方が、給与所得者等再生よりも利用条件(要件)が緩和されており、再生計画認可後の返済額も少額に抑えることができることが多いですが、反対(不同意)する債権者がいると手続に失敗することがあります。
他方、給与所得者等再生の場合は、債権者の意向に左右されません
個人再生手続の種類
民事再生手続(再生手続)は、民事再生法によって規定されています。債務者の債務を減額・長期分割払いなどの方法によって法的に整理することにより、その経済的更生を図るという手続です。
この民事再生手続は、基本的に企業を対象とすることを想定しています。そのため、個人の債務者にとっては使い勝手が悪い手続でした。
しかし、民事再生は、自己破産をせずに、場合によっては財産を処分することなく債務を法的に整理できるため、個人の債務整理にとっても有用です。
そこで、個人にも民事再生を利用しやすいようにするために、設けられた制度が「個人再生(個人民事再生)」です。
すなわち、個人再生とは、上記の民事再生手続のうちでも、個人を対象とする再生手続のことです。通常の民事再生よりも、手続が簡素化されています。
この個人再生手続には「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2種類の手続が設けられています。
小規模個人再生
小規模個人再生とは、個人である債務者のうち、将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあり、再生債権額が5000万円を超えないものが行うことを求めることができる民事再生法第13章第1節に規定する特則の適用を受ける民事再生手続のことをいいます(民事再生法221条1項)。
小規模個人再生は、個人再生の基本となる手続です。
小規模個人再生の場合には、返済総額が最大で5分の1(借金額が3000万円を超える場合は10分の1)にまで減縮される反面、債権者の消極的同意が必要となってきます。
小規模個人再生は、小規模の個人事業者を対象とすることを想定しています。しかし、返済額が後述の給与所得者等再生よりも少額に抑えられる可能性があるため、事業者でない人も、この小規模個人再生を利用するのが一般的です。
給与所得者等再生
給与所得者等再生とは、将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあり、再生債権額が5000万円を超えない個人である債務者のうちで、サラリーマンなど給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者であって、かつ、その額の変動の幅が小さいと見込まれるものが行うことを求めることができる民事再生法第13章第1節に規定する特則の適用を受ける民事再生手続のことをいいます(民事再生法239条1項)。
要するに、給与所得者等再生とは、文字どおり、サラリーマンのように収入の変動が少ない定期的な収入をもらっている債務者を対象とする個人再生手続です。
給与所得者等再生は、返済総額の算出に可処分所得の2年分以上が求められるため、小規模個人再生の場合よりも返済金額がかなり高額となる可能性があります。
もっとも、給与所得者等再生の場合、債権者の消極的同意が必要とされていません。
そのため、同意してくれない債権者がいる場合などには、小規模個人再生を利用できない場合には、この給与所得者等再生を利用することになります。
小規模個人再生と給与所得者等再生の異同
前記のとおり、個人再生には、小規模個人再生と給与所得者等再生の2種類の手続があります。
小規模個人再生・給与所得者等再生のいずれの手続をとった場合であっても、手続の流れはほとんど変わりがありません。
また、いずれの場合でも、住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用することが可能です。
もっとも、給与所得者等再生は、言わば小規模個人再生の特則のような手続です。そのため、小規模個人再生と給与所得者等再生にはいくつかの違いがあります。
収入要件に関する違い
違いがあるのは、まず利用の条件(要件)です。小規模個人再生の場合には、継続的・反復的な収入を得る見込みのあることが求められています。
他方、給与所得者等再生の場合は、単に継続的・反復的な収入があるだけでは足りず、給与など定期的で変動の少ない収入がある場合でなければ利用できません。
給与所得者等再生の場合は、小規模個人再生の場合よりも、より安定した収入があることが求められます。


債務の返済額に関する違い
小規模個人再生の場合は、債権額に応じて定められる最低弁済額と財産価額(清算価値の額)のいずれか大きい方が、再生計画認可後の返済の総額になります。
これに対して、給与所得者等再生の場合は、最低弁済額と清算価値の額に加えて、可処分所得2年分の額の三者のうち最も大きい額が、返済の総額になります。
可処分所得の2年分の額は、収入額や家族構成等によってはかなり高額になることがあるため、給与所得者等再生の方が、返済総額が高額になることが多いでしょう。
債権者の同意に関する違い
小規模個人再生においては、再生計画案に同意するか反対(不同意)するかを再生債権者に問う決議が行われます。
この再生債権者の決議において、再生債権者の頭数の半数以上が異議(不同意)を出した場合、または、異議(不同意)を出した再生債権者の有する債権額が総再生債権額2分の1を超える場合、再生計画認可に至らず手続が廃止により打ち切りとなってしまいます。
他方、給与所得者等再生の場合は、可処分所得2年分以上の額を返済することと引き換えに、再生債権者の決議が行われません。
つまり、小規模個人再生の場合には、債権者の意向によって結論が左右されることがあるのに対し、給与所得者等再生には、債権者の意向に左右されにくいメリットがあるといえます。
個人再生の手続の選択
前記のとおり、小規模個人再生の方が、給与所得者等再生よりも、利用要件も緩和されている上、返済総額も少額となります。しかし、債権者の意向によって結論が左右されることがあります。
小規模個人再生を選択できるかどうかは、債権者が個人再生に同意してくれるかどうかという点が重要なファクターとなってくるのです。
これに対し、給与所得者等再生は、小規模個人再生よりも、利用要件が厳格で、返済総額も高額となることがありますが、その代わりに、債権者の意向によって結論が左右されません。
そのため、どちらを選択すべきかと言われれば、まずは、債務額を抑えることができる小規模個人再生を選択すべきであり、個人再生に同意しない債権者が一定数いる場合に、給与所得者等再生の利用を考えることになるでしょう。
弁護士の探し方
「個人再生をしたいけどどの弁護士に頼めばいいのか分からない」
という人は多いのではないでしょうか。
現在では、多くの法律事務所が個人再生を含む債務整理を取り扱っています。そのため、インターネットで探せば、個人再生を取り扱っている弁護士はいくらでも見つかります。
しかし、インターネットの情報だけでは、分からないことも多いでしょう。やはり、実際に一度相談をしてみて、自分に合う弁護士なのかどうかを見極めるのが一番確実です。
債務整理の相談はほとんどの法律事務所で「無料相談」です。むしろ、有料の事務所の方が珍しいくらいでしょう。複数の事務所に相談したとしても、相談料はかかりません。
そこで、面倒かもしれませんが、何件か相談をしてみましょう。そして、相談した複数の弁護士を比較・検討して、より自分に合う弁護士を選択するのが、後悔のない選び方ではないでしょうか。
ちなみに、個人再生の場合、事務所の大小はほとんど関係ありません。事務所が大きいか小さいかではなく、どの弁護士が担当してくれるのかが重要です。
他方、通常再生の場合は、対応できる事務所が限られてきます。小規模の事務所の場合には、対応が難しいこともあり得ます。その点からも、個人の債務整理では、通常再生ではなく、個人再生を選択した方がよいのです。
弁護士法人ひばり法律事務所
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参考書籍
本サイトでも個人再生について解説していますが、より深く知りたい方のために、個人再生の参考書籍を紹介します。
個人再生の実務Q&A120問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
個人再生を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、個人再生実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。
個人再生の手引(第2版)
編著:鹿子木康 出版:判例タイムズ社
東京地裁民事20部(倒産部)の裁判官および裁判所書記官・弁護士らによる実務書。東京地裁の運用が中心ですが、地域にかかわらず参考になります。
破産・民事再生の実務(第4版)民事再生・個人再生編
編集:永谷典雄ほか 出版:きんざい
東京地裁民事20部(倒産部)の裁判官・裁判所書記官による実務書。東京地裁の運用を中心に、民事再生(通常再生)・個人再生の実務全般について解説されています。
はい6民です お答えします 倒産実務Q&A
編集:川畑正文ほか 出版:大阪弁護士協同組合
6民とは、大阪地裁第6民事部(倒産部)のことです。大阪地裁の破産・再生手続の運用について、Q&A形式でまとめられています。
書式 個人再生の実務(全訂6版)申立てから手続終了までの書式と理論
編集:個人再生実務研究会 出版:民事法研究会
東京地裁・大阪地裁の運用を中心に、個人再生の手続に必要となる各種書式を掲載しています。書式を通じて個人再生手続をイメージしやすくなります。