
債務整理すると借金がどのくらい減額されるのかは,どの手続を選択するのかにより異なります。
自己破産の場合は,裁判所から免責を許可してもらえば,減額どころか,借金の支払義務がすべて免除されます。個人再生の場合は,裁判所から再生計画を認可してもらえば,概ね5分の1,最大で10分の1までの大幅な減額が可能なこともあります。
他方,任意整理の場合は,引き直し計算による減額を超えて借金を減額するのは難しいのが現状です。
債務整理による借金の減額
借金返済問題の法的解決方法を債務整理と呼んでいます。この債務整理には,自己破産・個人再生・任意整理などの手続があります。過払い金返還請求も債務整理の一環といえるでしょう。
これらの各債務整理手続にはそれぞれに異なるメリットがありますが,全部に共通するメリットは,借金の負担を軽減できることです。
借金の負担を軽減する方法には様々な方法がありますが,最も単純な方法は,やはり借金を減額してもらうことでしょう。
債務整理をしたことにより借金をどのくらい減額できるかは,自己破産・個人再生・任意整理のいずれを選択したのかによって異なってきます。
引き直し計算による減額
債務整理に共通する手続として,引き直し計算(利息計算・元本充当計算)があります。
引き直し計算とは,貸金業者とのこれまでの貸し借りの取引すべてを利息制限法所定の利率に直し,制限超過利息はすべて借入れ元本に充当しながら計算する計算手法のことをいいます。
利息制限法に違反する利息を支払っていた場合,適法な利息に引き直して計算することによって,実際に請求されている金額よりも借金額を減額できることがあります。
20年,30年間と返済を続けていた場合には,引き直し計算によって大幅に減額されることもあるでしょう。この引き直し計算によって算出された本当の借金額をもとに,各種の債務整理をしていくことになります。
この引き直し計算による減額は、債務整理のどの手続でも同じです。ただし、あくまで利息制限法違反の取引があった場合に減額されるので、違反取引が無い場合には減額はされません。
自己破産の場合の減額
自己破産を申し立て,裁判所により免責が許可されると,借金などの債務の支払義務はすべて免除されます。したがって,自己破産の場合は,減額どころか,借金の全額を支払わなくてよくなります。
ただし,税金や国民健康保険料などは免責の対象になりませんので,通常どおり支払っていく必要はあります。
個人再生の場合の減額
個人再生を申し立て,裁判所により再生計画が認可されると,借金などの債務を,引き直し計算した金額からさらに大幅に減額できることがあります。
どのくらい減額できるかは,借金など債務の額,持っている財産の価値,小規模個人再生と給与所得者等再生のどちらの手続を選択したかなどによって異なってきます。
小規模個人再生の場合は,債務額に応じて決められる最低弁済額と持っている財産の価額(清算価値の額)のいずれか高額な方の額にまで減額できます。
給与所得者等再生の場合は,最低弁済額,清算価値の額,可処分所得2年分の額のうちで最も高額なものの額にまで減額できます。
最低弁済額は,以下のとおりです。
- 無異議債権等が3000万円以下の場合
- 基準権額が100万円未満
→最低弁済額は,基準債権額 - 基準債権額が100万円以上500万円未満
→最低弁済額は,100万円 - 基準債権額が500万円以上1500万円未満
→最低弁済額は,5分の1の額 - 基準債権額が1500万円以上3000万円以下
→最低弁済額は,300万円
- 基準権額が100万円未満
- 無異議債権等が3000万円超5000万円以下の場合
→最低弁済額は,10分の1の額
無異議債権等と基準債権は,本当は別の概念ですが,とりあえず同じように,借金・債務の額と考えておいてください。
例えば,引き直し計算をした後の借金額が800万円,財産の価額が100万円で小規模個人再生をした場合,最低弁済額は5分の1の額=160万円となり,清算価値の額よりも高額なので,最低弁済額が返済総額とされます。
つまり,800万円の借金を160万円まで減額(640万円減額)できるということになります。
任意整理の場合の減額
任意整理は,相手方との交渉ですので,どのくらい借金を減額できるのかは相手方次第です。
引き直し計算を認めない貸金業者はほとんどいませんから,引き直し計算によって算出された金額までは減額可能でしょう。
しかし,引き直し計算の結果を超えるほどの減額まで認める貸金業者は,現状ほとんどいません。したがって,任意整理の場合には,引き直し計算以上の借金の減額は望めないのが現状です。