
債務整理をするにあたって,まず最初に代理人弁護士から貸金業者等の債権者宛てに受任通知(介入通知・債務整理開始通知)を送付します。この受任通知を送付すると,貸金業者や債権回収会社などからの直接の取立てが停止されます。
受任通知の送付によって取立てが停止されるのは,事実上の効力ではなく,貸金業法や債権管理回収業に関する特別措置法に基づくれっきとした法的な効力です。
受任通知の効力
債務整理をする場合には,自己破産・個人再生・任意整理のどの手続をとるにせよ,共通の手続として,まず第一に,代理人弁護士等から各債権者に対して,受任通知(介入通知・債務整理開始通知)を送付することになります。
この受任通知は,単に弁護士等が債務整理事件を受任したということを通知するだけの意味しかないわけではなく,サラ金・信販会社等の貸金業者や債権回収会社(サービサー)からの直接の取立てを停止させるという効果を持っています。
この受任通知送付による貸金業者や債権回収会社からの取立て停止によって,債務者の方の生活が暫定的にではありますが安定し,債務整理の準備を進めることができるようになります。
直接の取立てが停止される理由
受任通知の送付によって,貸金業者や債権回収会社などによる直接の取立てが停止するのは,事実上の効果にすぎないというわけではありません。
貸金業者や債権回収会社からの直接の取立てが停止するのは,れっきとした法律上の効果です。
貸金業法21条1項は,以下のとおり,貸金業者による取立て行為の制限を定めています。
貸金業法 第21条
- 第1項 貸金業を営む者又は貸金業を営む者の貸付けの契約に基づく債権の取立てについて貸金業を営む者その他の者から委託を受けた者は、貸付けの契約に基づく債権の取立てをするに当たつて、人を威迫し、又は次に掲げる言動その他の人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしてはならない。
- 第9号 債務者等が、貸付けの契約に基づく債権に係る債務の処理を弁護士若しくは弁護士法人若しくは司法書士若しくは司法書士法人(以下この号において「弁護士等」という。)に委託し、又はその処理のため必要な裁判所における民事事件に関する手続をとり、弁護士等又は裁判所から書面によりその旨の通知があつた場合において、正当な理由がないのに、債務者等に対し、電話をかけ、電報を送達し、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は訪問する方法により、当該債務を弁済することを要求し、これに対し債務者等から直接要求しないよう求められたにもかかわらず、更にこれらの方法で当該債務を弁済することを要求すること。
(第1項第1号~第8号、第10号、第2項、第3項は割愛しました。)
また, 債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)18条も,債権回収会社による取立て等の業務を制限しています。
債権管理回収業に関する特別措置法 第18条
- 第8項 債権回収会社は,債務者等が特定金銭債権に係る債務の処理を弁護士又は弁護士法人に委託し,又はその処理のため必要な裁判所における民事事件に関する手続をとった場合において,その旨の通知があったときは,正当な理由がないのに,債務者等に対し,訪問し又は電話をかけて,当該債務を弁済することを要求してはならない。
(第1項~第7項、第9項は割愛しました。)
上記の貸金業法21条1項9号にいう「弁護士等又は裁判所から書面によりその旨の通知」とは,受任通知のことです。また,サービサー法18条8項にいう「その旨の通知」にも弁護士による受任通知が含まれています。
貸金業法においては,受任通知受領後,貸金業者は,電話・電報・FAX・訪問などの方法で債務者に対して直接の取立てをすることを禁止し,サービサー法では,訪問・電話による直接の取立てを禁止しています。
サービサー法では,訪問・電話だけが定められていますが,実際には,FAXや電報による取立てもなされないのが通常です。
このように,貸金業者や債権回収会社からの直接の取立てが停止されるのは,受任通知送付の法律上の効果なのです。したがって,受任通知送付による取立て停止の理由は,法律にあるのです。
受任通知による取立て停止効果の実効性担保と範囲
上記のように、受任通知には、貸金業者や債権回収会社の取立てを停止させる法的効果があります。とはいえ、せっかく受任通知後の取立てを禁止する規定があっても,これを破った場合に何らの制裁もないのでは,絵に描いた餅になってしまいます。
そこで,貸金業法47条の3第3号では,前記第21条第1項の規定に違反した場合には,2年以下の懲役,300万円以下の罰金,あるいは,その両方の刑罰を科すものと定めており,さらに,業務停止や貸金業登録取消しなどの行政処分の対象となる場合もあります。
サービサーの場合も同様に,債権管理回収業の許可の取消し等の行政処分を受ける場合があります。
ただし、受任通知の効果について、以下の点には、注意が必要です。
- 貸金業者や債権回収会社等以外の債権者については,法的に直接の取立てが禁止されているわけではありません。
- 受任通知の送付によって停止されるのは、直接の取立て行為、つまり、電話・電報・FAX・訪問などによる取立てが停止されるだけです。受任通知を送付したからといって、裁判手続による貸金の回収まで禁止されるものではありません。
もっとも、現実的には、貸金業者や債権回収会社以外の債権者も、弁護士等が受任通知を送付すると、直接の取立てを停止してくれる場合が大半です。
また、受任通知を送付しても裁判提起までは止められませんが、受任通知送付後一定期間は提訴を停止してくれるのが通常です(とはいえ、いつまでも待ってくれるわけではありません。業者によりますが、概ね半年~1年程度ではないでしょうか。)。