この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

貸金業者が、過払い金返還債務が発生しているはずの取引を別の業者に債権譲渡等によって移転させた場合の問題に、過払金返還債務がその譲受業者に引き継がれるのかどうかの問題のことを、過払い金返還債務の承継の問題と呼んでいます。
過払い金返還債務の承継とは
ある貸金業者との間で取引をしていた場合、突然、まったく別の貸金業者等にその債権が譲渡されたり、または、会社の合併や営業の譲渡などによって、取引の相手方が違う業者になったりすることは、貸金業界ではよくある話です。
債務が残っているのであれば、新しく取引を引き継いだ業者に対し、それまでどおり返済をしていけばよいだけですから、それほど問題があるわけではありません。
しかし、譲り渡した方の貸金業者との取引の間に過払い金が発生していた場合には、そうはいきません。
この譲渡業者との間で発生していた過払い金を誰に請求すべきなのかのは、非常に切実な問題となる場合があるからです。
実際問題として、譲渡業者側は、貸金業を事実上廃業するなど過払い金の返還能力がないのが通常です。過払い金を返還する体力さえ残っていないので、債権を別の業者に売り渡しているというのが実情なのです。
そうすると、仮に譲渡業者との取引で過払い金が発生していた場合、その譲渡業者に過払金返還請求をしても、実効性がないことが往々にしてあります。
そこで、過払いとなっているはずの取引を譲り受けた業者に対し、取引(または営業)を譲り受けた以上は過払い金返還債務も引き受けたはずであるとして、過払い金の返還を請求することを考える必要が出てきます。
これが、いわゆる「過払い金返還債務の承継」と呼ばれる問題です。
承継の態様
過払い金返還債務の承継の態様には、いくつかのパターンがあります。
会社の合併
1つは、譲受業者と譲渡業者が合併した場合です。合併により、2つの業者が1つになります。
合併の場合は譲渡業者とか譲受業者とか言うのは正しくはないですが、ともあれ、譲渡業者(合併される業者)が過払い金返還債務を負うことは争いがないといってよいでしょう。
そして、その過払い金返還債務を負う業者と一体となった譲受業者(合併する方の業者)も、その過払い金返還債務を負うことになります。
したがって、合併の場合、過払金返還債務の承継が認められると考えるのが一般的でしょう。
営業譲渡
合併とまではいかなくても、営業のみを譲り渡す場合(営業譲渡)もあります。
この場合も、その営業、具体的に言えば、従前の取引の債権債務関係をそのまま譲受会社が引き受けることになります。
したがって、営業譲渡の場合も、合併の場合と同様、過払金返還債務の承継を認めることについて、さほどの問題はないと考えられます。
もっとも、営業譲渡契約の内容によっては、貸金債権だけ譲渡され、過払い金返還債務は譲受会社が引き受けないとされている場合があります。
このような貸金業者間での勝手な契約の締結がされている場合にまで、過払い金返還債務の承継を認めないのは不公平というべきですが、最高裁判所は、そのような場合には、原則として過払金返還債務の承継を認めないというスタンスをとっています。
債権譲渡
最も問題となるのは、やはり債権譲渡の場合でしょう。債権譲渡の場合とは、譲渡業者との間の取引における貸金債権だけを譲渡する場合です。
債権譲渡の場合には、形式的にみれば、譲受業者は、貸金債権しか譲り受けていない形になっています。
つまり、引き直し計算をする前の約定残高のある債権だけを譲り受けており、過払い金返還債務は譲り受けていないという形になっているのです。
譲渡業者との間の従前の取引は過払いとなっているのですから、もちろん、債務残高があるはずはありません。
したがって、譲受業者に対して、もはや債務残高はないので返済はしないと主張することは、それほど問題なくできるでしょう。
しかし、それを超えて、さらに譲受業者に対して、過払い金返還債務の承継を主張して、過払い金の返還を請求することができるかは、なかなか難しい問題です。
切替契約
また、この債権譲渡に類似した問題として、切替契約もあります。
切替契約とは、債権譲渡の形をとらず、従前の業者(債権譲渡でいえば譲渡業者)との間の取引における債務残高を切替後の業者(債権譲渡でいえば譲受業者)が立て替えて支払い、その立て替え分について切替後の業者との間で返済していく契約をし、新たな取引としてそれを返済していく契約です。
切替契約の場合には、債権譲渡ですらありません。形式的には、まったく別の2つの契約・取引のような形になっています。
そのため、これを債権譲渡と同様に考えてよいのか、考えてよいとして過払金返還債務の承継があるのかを考えなければならないことになります。
各事案ごとの承継態様の違い
この過払い金返還債務の承継の問題の難しさは、一概に結論を決められないところです。
前記のとおり、貸金債権の譲渡の形態には、営業譲渡や債権譲渡・切替などさまざまな態様があるばかりでなく、個々の契約の内容が異なります。そのため、一概に過払い金返還債務は承継されるといえないのです。
過払い金返還債務が承継されるのか否かは、その譲渡形態だけでなく、当該債権や営業等の譲渡が、その貸金業者等の間でどのような契約内容に基づいてなされていたのかまで検討してはじめて、結論が出されることになります。
例えば、これまで問題になったものとして、以下の場合があります。
- タイヘイからCFJへの承継
- マルフクからディック(CFJ)への承継
- クオークローン(クラヴィス)からプロミス(現・SMBCコンシューマーファイナンス)への承継


