
年金には,公的年金と私的年金があります。国民年金や厚生年金などの公的年金は,自己破産をしても受け取ることが可能ですし,換価処分されることもありません。私的年金のうち企業年金も,自己破産をしても受け取ることが可能ですし,換価処分されることもありません。
私的年金のうち個人年金は,確定給付型個人年金・確定拠出型個人年金・国民年金基金については,自己破産をしても受け取ることが可能ですし,換価処分されることもありません。
ただし、それ以外の民間保険会社との保険契約によって支給される年金保険の場合には、解約返戻金がある場合には解約されたり、破産手続開始前に加入した保険の破産手続中における年金保険給付が換価処分されることがあります。
自己破産における年金(受給権)の取扱い
もっとも,すべての財産が処分されるわけではありません。「自由財産」と呼ばれる生活に必要不可欠な財産等は,自己破産をしても処分しなくてよいものとされています。
年金を受け取る権利(年金受給権)も債権であり、財産に該当します。そのため,この年金受給権も自己破産すると処分されてしまうのかという点が問題となってきます。
年金には,国民年金や厚生年金などの公的年金と,民間の保険会社との間の保険契約に基づいて支払われる私的年金とがあります。
結論から言うと,公的年金は,自己破産しても受け取ることができますが,私的年金は,場合によっては受け取れなくなる可能性があります。
以下では,公的年金と私的年金とに分けて説明します。
公的年金の場合
国民年金や厚生年金等の公的年金(受給権)は,法律上,差押が禁止される財産とされています(国民年金法24条本文,厚生年金保険法41条1項本文)。
差押禁止財産は,破産手続上でも,換価処分できない自由財産とされています。したがって,国民年金や厚生年金等の公的年金(受給権)は,自己破産しても換価処分されません。
そのため,自己破産した後でも,公的年金を受給することはできます。また,自己破産した際に,すでに公的年金を受給している場合でも,それを差し押さえられたり,換価処分されてしまうようなこともありません。
私的年金の場合
私的年金には,公的な給付を上乗せするための制度です。この私的年金には,企業年金と個人年金とがあります。
企業年金とは,企業が従業員に対して支給する年金です。他方,個人年金は,公的機関や民間保険会社との間で締結した保険契約に基づいて支給される年金です。
企業年金と個人年金とでは,自己破産した場合に受け取ることができるか否かについて違いがあります。
企業年金
企業年金には,確定給付型,確定拠出型,厚生年金基金などがあります。
これら(受給権)はいずれも差押禁止財産であり(確定給付企業年金法34条1項本文,確定拠出年金法32条1項本文,厚生年金保険法41条1項本文),破産手続においても自由財産とされています。
したがって,自己破産をしても換価処分されません。
そのため,自己破産した後でも,企業年金を受給することはできます。また,自己破産した際に,すでに企業年金を受給している場合でも,それを差し押さえられたり,換価処分されてしまうようなこともありません。
個人年金
個人年金には,民間の金融機関や保険会社等との間での年金保険契約に基づいて支払われる年金です。確定給付型,確定拠出型,国民年金基金,その他,これらに当てはまらない民間保険会社による年金保険があります。
確定給付型個人年金・確定拠出型個人年金・国民年金基金
確定給付型・確定拠出型・国民年金基金についても差押禁止財産とされています。したがって,自己破産をしても換価処分されません。
そのため,自己破産した後でも,確定給付型個人年金・確定拠出型個人年金・国民年金基金を受給することはできます。
また,自己破産した際に,すでに確定給付型個人年金・確定拠出型個人年金・国民年金基金を受給している場合でも,それを差し押さえられたり,換価処分されてしまうようなこともありません。
上記以外の民間保険会社による年金保険
上記以外の民間保険会社による年金保険の場合は,破産手続開始時において解約返戻金がある場合には,自由財産とはならず,解約されることになります。
解約された場合は,当然,年金を受け取ることはできなくなります。
ただし、東京地方裁判所や大阪地方裁判所をはじめとした多くの裁判所では、解約返戻金合計額が20万円以下の場合には自由財産として扱われ、換価処分しなくてもよいとされる換価基準・自由財産拡張基準ています。
また,破産手続開始前に加入した保険について,破産手続中に保険給付がなされる場合には,その保険給付も換価処分の対象になります。
そのため,破産手続開始前に加入した保険の破産手続中における年金保険給付は,破産管財人によって回収され,債務者本人で受け取ることはできなくなります。
もっとも、この年金保険給付が生活に必要不可欠な収入源であるような場合には、自由財産の拡張が認めれることもあります。自由財産の拡張が認められると、債務者本人が年金を受け取ることができるようになります。